スマートメディア採用の4オーディオ+1リズム・トラック搭載デジタルMTR

BOSSBR-532

ギター・エフェクターのトップ・ブランド的な印象が強いBOSSから4トラックのデジタル・レコーダーが発売された。"4トラックMTRだなんて高校生のころに買ったカセットMTR以来だなぁ、あのころはアレが宝物だったっけ......"などと目を細めてしばし感慨にふけりつつ、早速箱から取り出してみると、大きさも当時と比べて一回り小さく、ジョグ・ダイアルや液晶ディスプレイ、フェーダーやボタン類が機能的に配された外ヅラは、やはり現代的なデジタル機器のソレだ。旧4トラック・カセットMTRの利点は、思い付いたアイディアを即座に形にしていけるアクセスの手軽さ/気軽さに尽きると思うのだが、BR-532のその辺り、つまり操作性とデジタル・レコーダーの多機能性のバランスを中心にチェックしてみた。

合理的な接続端子類と
デジタル出力を装備


まずはリア・パネルの入出力関係から見ていこう。入力にはエレキギター/ベースなどの楽器用にハイインピーダンスのフォーン・ジャックが1系統、マイクロフォン専用入力端子としてTRS標準タイプとXLRタイプがそれぞれ1系統ずつ(TRS優先)で合計2系統、キーボードやCDプレーヤーなどの外部音源の入力に適したRCAピン・タイプがステレオ×1系統の合計4系統が用意されている。一見"アレ、少なくない?"という気にもさせられるが、4トラックMTRである本機の最大同時録音トラック数は2トラックなので、合理的かつ漏れの無いスペックと言えるだろう。さらにフロント・パネル右下には内蔵マイクも用意されていて、ちょっとしたメモ録音をしたいときなど、わざわざマイクの接続を行う必要が無いのはうれしい限りだ。出力にはメイン・アウトプットとしてRCAピン・タイプのステレオ・ジャックが1系統とヘッドフォン・アウト(手前パネル側)が1系統、さらにオプティカル・タイプのデジタル・アウトも1系統あり、DAT/MDなどのデジタル・オーディオ機器との接続が可能だ。またAUDIO SUB MIXスイッチを使えばLINE INに接続した外部音源の出力をLINE OUTの出力にミックスできる辺りなどは、非常に実用的な設計だと感じた。入力音はあらかじめ選んでおいた任意のトラックに録音されていくわけだが、各トラックはフレーズや別アレンジのストックを可能にする8トラックのV(バーチャル)トラックを備えており、実質的には32(8×4)トラックの録音領域を有していることになる。これによりテイクの聴き比べをしたり、ミキサーの内部バスを経由して、Vトラックに演奏をまとめておけば(バウンシング機能)、ちょっとした小〜中編成アレンジのデモ制作もできる。さらにリア・パネルにはMIDI OUTコネクターを装備しており、これを使用すれば、本機をマスターとした外部MIDIシーケンサーとの同期演奏や、MMCに対応した外部MIDI機器のコントロールも行えるので、より質の高いトラック・メイクも不可能ではないだろう。

基本を網羅した編集機能と
対話形式で簡単な作業


次に本機のデジタル編集機能を見てみよう。録音されたオーディオ・データには、指定範囲の録音データを他の場所に移すCOPY、録音データの位置を変えるMOVE、録音データを消去するERASE、2つのトラックの録音データを入れ替えるEXCHANGEの計4つのトラック編集コマンドを実行することができる。編集ポイントの検索に用いるスクラブ機能も含め、作業はすべてディスプレイ表示されるメッセージとの会話形式で進められるので、"編集は初めて"といったビギナーでも操作に戸惑うということはまず無いだろう。さらに実行したコマンドの取り消しを行うUNDOと、UNDOの取り消しを行うREDO機能も備えており、編集作業や録音の失敗をリカバーしてくれるのも心強い。以上のようにデジタル・レコーダーの基本的な編集コマンドは一通り網羅していると言えるだろう。録音媒体には3.3V仕様のスマートメディアが採用されている。録音モードは高音質順にHIFI(MT2)、STANDARD(LV1)、LONG(LV2)の3種類を選ぶことができ、当然のことながら録音時間は高音質なほど短くなるのだが、録音モード、メモリー容量と録音時間の相関は、表①を参照していただきたい。やはりスマートメディアということで録音時間は決して長いとは言い難いが、動作音の静かさや軽量化というメリットを考えると、ここは痛し痒しといったところだろう。また、別売りのスマートメディア・リーダー/ライターをパソコンに接続することによりBR-532のデータをハード・ディスクにバックアップできるだけでなく、ROLANDのWebページ(http://www.roland.co.jp)から無償ダウンロードできる専用コンバート・ソフト、『BR-532 WAVE CONVERTER』を使い、AIFF/WAVEファイルへの変換を行えば、パソコン側の波形編集ソフトでのエディットや、オーディオCDの作成も可能だ。▲表① スマートメディアのメモリー容量とデータ・タイプ別の最長録音時間(1トラックのみ使用)。4トラックで均等にデータが入っている場合、録音できる曲の長さは上記の1/4になる 

インサートとセンド2系統の
エフェクターを搭載


BR-532には、音声信号に直接かけるタイプの"インサート・エフェクト"と、内部ミキサーのセンド/リターンに立ち上げて信号と混ぜて使うタイプの"ループ・エフェクト"の2系統のエフェクターが内蔵されていて、それぞれを用途によって使い分けたり、また同時に使用することも可能だ(表②)。▲表② 内蔵エフェクト・リスト。アルゴリズムはEQ、コンプ、ディレイ、モジュレーションといったエフェクトの組み合わせで構成され、例えばGUITAR/BASSなら"Rock Lead"のように、用途に応じたプリセット・パッチとして60種類用意されている。インサート・エフェクトはアルゴリズム内のパラメーター設定を変え"ユーザー・パッチ"として60まで、ループ・エフェクトのパラメーター設定は"ソング・データ"と一緒に保存することができる インサート・エフェクトには同社のGTシリーズなどでその実力を実証済みのCOSMアンプ・モデリングのアルゴリズムを含むGUITAR/BASS、ボーカル用マルチエフェクトとボイス・トランスフォーマー(フォルマント・コントロール可)から成るMIC、ステレオ・マルチエフェクトとLO-FI BOXで構成されたLINE、ボーカルとエレキギターの同時録音用に特化されたSIMULの計4バンク/12アルゴリズムがラインナップされている。アルゴリズムにはコンプ、EQ、ディレイ、モジュレーションなどのエフェクト・モジュールがモデル化されプリセット・パッチとして用意されており、気に入ったアルゴリズムの設定をユーザー・パッチに60種類保存することもできる。ループ・エフェクトには最長50m secのショート・ディレイDOUBL'N、エフェクト音が鳴り出すまでの時間とプリディレイを調節可能なCHORUS、トーン・コントロール機能を備えたROOM/HALL2種類を選ぶREVERBの、計3つの空間系エフェクトが用意されている。こちらは主に曲を仕上げるミックス・ダウンの工程で使用するとよいだろう。ループ・エフェクトの設定は作成した曲のデータごとに保存される。やはりBOSSブランドの製品だけあって、エレキギター/ベース向けのパッチが目立つ。そんな中、特に筆者の興味を引いたのは、エレキギターの音をエレキベースの音に変換するBass Simulatorなるアルゴリズムだ。原理的にはピッチ・シフター的なものと思われるこの機能、従来のピッチ・シフターでは似ても似つかなかったエレキギターのベース化に、実用レベルで成功している。この機能と後述するリズム・ガイド機能、内蔵マイクを併用すれば、エレキギターとシールドが1本あれば、実質3ピースのオケ+ボーカルのデモ・トラックが作成できるというわけだ。一見バカバカしくも思えるこのアルゴリズム、しかし、楽器の持ち替えやシールドの接続を換えている間にインスピレーションをロストしやすい筆者のような集中力の欠落したユーザーには強力な助っ人となるだろう。

豊富なパターンの
リズム・ガイドを内蔵


BR-532の大きな特徴として、専用のフェーダーを持つリズム・ガイドを挙げることができるだろう。これは内蔵ドラム音源をプリセット・パターンにより発音させる、文字通り"リズムのガイド"となる言わばメトロノーム的な役割の機能なのだが、なんと、本機ではプリセット・パターンをアレンジし構成し直すことによって、オリジナルのソングを組むことが可能なのだ。ソングを組む方法を大まかに説明すると、まずはスタイルと呼ばれる曲調(バラード、ハード・ロックなどのスタンダードなものから、クラブ系のパターンまで全50種類が用意されている)に合ったプリセット・パターン群を選び、スタイルごとに設定されたフォームと呼ばれるイントロ/バース/フィルイン/エンディングといった1〜数小節単位の演奏パターンを、ステップ入力で並べ替えていくといったものだ。このプリセット・パターンの並べ替えで、大抵の曲調には対応できるはずだが、ユーザーがステップで組み合わせたオリジナル・パターンも本機内に4パターンまで保存できる。内蔵PCM音源は、通常のドラム・キットのほかにもジャズ、ヒップホップ、レゲエなどの各スタイルに対応した9種類のドラム・キットを選ぶことができ、中にはROLAND TR-808のキットも用意されていたりする。さらにMIDI OUTコネクターを経由して外部リズム音源でプリセット・パターンを鳴らすことも可能だ。ここまでくるともはや立派なリズム・マシンと言ってもよいだろう。こうして作成したオリジナルのリズム・パターン(=ソング)に合わせてオーディオ・トラックに各楽器をダビングしていく、というのがBR-532の基本的な制作スタイルだ。

フレーズ・トレーナーなど
その他トピック的な機能


BR-532にはほかにもトピックといえる特徴的な機能として、CDなどから取り込んだ音源の任意の範囲を繰り返し、しかもピッチを変えずに速度を半分に落として再生させる"PHRASE TRAINER"機能と、音像の中央に定位した音を消す"CENTER CANCEL"機能が搭載されている。これらの機能を併用すれば、聞き取りの困難な早弾きのギター・ソロの耳コピーなどが簡単にできたり、テンポの遅いオケに合わせて繰り返し集中的に練習することが可能だ。また単三電池6本で駆動可能な1.8kgの軽量な本体内に、チューニング・メーターまで内蔵している点も、本機の機動性の良さを表している点として特筆しておくべきだろう。以上のチェック項目から感じるのは、従来のいわゆる"録音作品を仕上げるためのデジタルMTR"と言うよりは、"最低限の環境で迅速かつ簡単に、ある程度のクオリティでデモ・トラックを完成させる1台完結型のツール"といった印象だ。全体的に階層が浅く会話形式で作業を進めていくシステム・デザインは直感的に操作しやすく、多重録音に不慣れなギタリストや、ビギナーにもすぐに使いこなすことができるだろう。従来のカセットMTRに比べ、トラック数も飛躍的に増え、音質もかなり向上し、的を絞って設計された本機は、作曲支援ツールとしてのポテンシャルは相当高いと感じた。何よりもこれだけの多機能デジタルMTRが、この価格で発売されているという事実には、やはり驚きを禁じ得ない。

▲リア・パネル。左からDC IN、MIDI OUT、 FOOT SW(フット・スイッチ)、DIGITAL OUT(オプティカル)、LINE OUT(ステレオ/RCAピン)、LINE IN(ステレオ/RCAピン)、MIC IN(TRS標準、XLR)、GUITAR/BASS IN(フォーン)の各端子が並ぶ

BOSS
BR-532
39,800円

SPECIFICATIONS

■トラック数/4+1リズム・トラック、Vトラック/32(各トラックに8)
■同時録音トラック数/2、同時再生トラック数/4
■エフェクト/2系統(ループ・エフェクト:CHORUS / DOUBL'N / REVERB、インサート・エフェクト:12アルゴリズム)
■記憶容量/スマートメディア16〜128MB(32MBが標準で付属)
■サンプリング周波数/44.1kHz
■周波数特性/20Hz〜20kHz(+1/−3dBu)
■接続端子/MICイン(TRSバランス、XLR)、ライン・インL/R(RCAピン)、ライン・アウトL/R(RCAピン)、デジタル・アウト(オプティカル)、フット・スイッチ、MIDI OUT、ヘッドフォン・アウト(ステレオ標準)、 GUITAR/BASSジャック(フォーン)
■外形寸法/290.5(W)×220.5(D)×65.0(H)mm
■質量/1.8kg(電池を除く)