無指向性カプセルを採用した音質変化の少ないヘッドセット・マイク

SHUREBeta53

かつてヘッドセット・マイクと言えば、オペレーターやパイロットの使う野暮ったいインカムをイメージさせ、敬遠されるのが普通でした。ところが最近は、製品がとてもスマートになっているだけでなく、それを使用するスタイル自体も受け入れられてきています。今回、マイクのしにせブランドSHUREからヘッドセット・マイクBeta53が発売されました。音質、装着感など、期待通り秀逸な製品に仕上がっているみたいなので、早速紹介していきましょう。

ワイアー素材による軽量化と
心地良い装着感


手に取ってみると、まずその小ささに驚くでしょう。ほとんどワイアーでできていると言ってもよい構造で、重さはコードやコネクター部分を含んでも、たったの35.4gです。しかし、かなり剛性のあるワイアー素材と硬質樹脂パーツでできており、少しもヤワな印象はありません。マイクロフォン・ブーム部分は取り外して左/右頬どちら側にも付け換えができるようになっています。例えば、プレゼンテーションで使用する場合など、横目で映像を確認したりするため、どちら側からマイクを向けるかは非常に重要で、これは大変便利です。また、通常のウインド・スクリーンの他に、マイク・カプセル先端のメッシュ部分を交換できるようになっていて、EQキャップで高域部分の音質をハイ・ブーストとマイルドの2つから選べるようにもなっています。


それでは、本体を実際に装着してみます。ヘッド・バンドには調節機構があり、ここでマイク部分のガタつきや頬骨パーツの圧迫は解消できるようになっています。頭の大きさが違う数人で装着感を試してみましたが、いずれもしっかり固定でき、全く問題ありませんでした。あえて言えば、耳掛けの形状が少し圧迫感を与えることだけでしょうか。マイクロフォン・ブームはフレキシブルに曲げることはできませんが、従来品よりも細く、カプセル部も小さいのでそんなに目立ちません。本人が存在を忘れてしまうほど快適な装着感という印象です。小さく軽いだけでなく、調節機構が充実していて、だれにでもフィットするこのような製品は、今まで無かったように思います。


吹かれが少なく
フラットで素直なサウンド


では、実際にサウンドを聴いてみましょう。出力端子がSHURE独自のコネクター(SWITCHCRAFT社TA4F)になっていたこともあって、今回はワイアレス使用でのチェックを行いました。なお、電源供給ができるプリアンプRPM626(別売り/18,000円)も用意されているので、もちろん通常の有線マイクとしての使用も可能です。


ヘッドセット・マイクを使って最も気になるのは、吹かれとタッチ・ノイズの問題です。これには、指向性とハウリング・マージンの問題が微妙に絡んできます。この辺りのチェックからしてみましょう。まず驚いたのは、どんなに息を吹き掛けても、ミキサー側で低音を増強してみても、全く吹かれが起きないことです。マイクロフォン・ブームを動かしたり、カプセルそのものに触ってみても、コツコツとした音がするだけで不快なタッチ・ノイズや共鳴音などが起こらず"本当にコンデンサー・マイクなのか"と思わせるほどです。そばにあった同社のハンド・マイクSM58と比較してみましたが、吹かれの少なさは明らかでした。


音質は硬めになりがちな従来品に比べ、かなり素直な音質と言えます。中高域のキツさが感じられず、低域もそれほどカットされていない印象です。超高域は他製品と同じように、少し張り出している気もしますが、音質キャップをマイルド・タイプに代えることで抑えることができました。また大音量で破綻してしまったり、音量によって音質が大きく変わってしまうということもありませんでした。ヘッドセット・マイクなので、近接効果や中低域部分の音の太さまでは望めないにしても、音だけ聴いていれば、ハンド・マイクだと言っても区別は付かないでしょう。


無指向性マイク・カプセルで
ムラの少ない音質を実現


ヘッドセット・マイクはマイク・カプセル位置のセッティングでかなり音質が変わるものです。しかし、本機では位置による変化が少なく、セッティングも適当に口元に近付けていき、音量が大きくなる位置にくればOKという感じでした。この特徴は指向特性にあるのではないかと思います。他製品のほとんどはハウリング・マージンを稼ぐことを重視して、マイク・カプセルが単一指向または超単一指向となっています。しかし、 Beta53では無指向性を採用しています。これにより少しぐらいマイク位置が変わっても、音質や音量の変化が少なくなっているのです。その反面、そばで話し掛けた人の声や周囲の音も、わずかに拾ってしまいますが、もともとヘッドセット・マイクは口元1cmの距離で使うもので、これだけ超オンマイク・セッティングならハウリングや音のかぶりには、それほど神経質にならなくても良いでしょう。単一指向の方がハウリングに強いといっても、マイクが遠かったり、指向性の角度から外れた使い方では何にもなりません。むしろこのデメリットの方が重大です。


ハウリング・マージンに関して言えば、有線マイクのような大音量でのモニター返しはちょっと苦しいかもしれませんが、通常のワイアレス・ハンド・マイクで返せる音量ぐらいはなんとか確保できるという感じです。ヘッドセット・マイクは構造上、常に超オンマイク・セッティングを保ったまま使えるわけです。このことを考慮すれば、無指向性のマイクであってもPAの現場で十分実用になると思います。無指向性のマイクはPAでは使われないというのは、もはや従来の古い発想でしょう。この辺りはマイクの指向パターンだけでなく、ミキサー本人の思考パターンも切り替える必要があるようです。


舞台のPAでは、音量が少しも稼げないタイピン型のワイアレスよりも、口元に近いヘッドセット・マイクを使いたいというのが本音でしょう。さらに時代も変わり、特殊だと思われていたヘッドセット・マイクもダンスやDJのパフォーマンスだけでなく、バック・バンド・コーラスやプレゼンテーション、MCなどだんだんと使われるれるようになっています。今後はスマートで快適、かつ高性能なヘッドセット・マイクが必ず必要になってくるはずです。Beta53はそんな希望に胸を張って薦めることができる製品です。


SHURE
Beta53
48,000円

SPECIFICATIONS

■型式/エレクトレット・コンデンサー型
■周波数特性/20Hz〜20kHz
■指向特性/無指向性
■感度/−55dBV/Pa(1Pa=94dB SPL)
■最大入力音圧/143dB SPL
■電源/DC5V、0.13mA
■重量/35.4g(ケーブル、コネクターを含む)
※カラー・タイプにベージュ(同価格)もあり