上位機種とほぼ同等の基本性能を誇るオーディオ・ワークステーション

YAMAHAAW2816

昨年9月発売のYAMAHA AW4416は、02Rクラスの豪華なミキサー機能を内蔵した一体型HDRで、かなりのお買い得感がある人気商品だ。そして今回、その廉価版とも言えるモデル、AW2816が新登場。一言で言えば、AW4416の機能限定バージョンというパッケージだが、安価ながらも24ビットAD/DA/同時再生16トラックを誇り、基本的なミキシング機能自体はほぼAW4416と同等という、実にうれしい内容となっている。

AW4416の基本機能はそのまま
省略されたのは付加的な機能が中心


まずは本機AW2816と従来のAW4416(OSバージョン1.3)との機能の違いを把握しておこう。省略された主な点は、
・ミキサー部は16ch少なくなって28ch仕様に
・同時録音数が16から8に減った
・コントロール・フェーダーが8つ少ない
・EQ/パンの専用ノブが省略
・サンプリング・パッドが無い
・AUXバスが8から6へ減少
・インプット1、2のインサートI/O端子の省略
・ワード・クロックI/O端子が無くなった
・オプション・スロットが1基に減少
・マウスが使えなくなった
・メーター・ディスプレイ(FL管)が省略
といったところだ。サイズ的には物理フェーダーが減ったこともあって、大きさは一回り小さくなり、重量も2.3kgほど軽くなっている。しかし、上記以外の機能ではほぼAW4416そのままのスペックを維持しており、全チャンネル装備の4バンドEQ&ダイナミクスや、チャンネル・インサートも可能な2系統の内蔵エフェクトまで、AW4416と同等なのがすごい。逆に、新たに追加された独自の機能としては、
・コントロール・キー・アサイン機能
・MIDI REMOTE機能
・オプション・カードによるPLUG IN機能
といったところが挙げられる。

MIDI REMOTE機能など
独自の新機能も装備


それではこれら新機能を詳しく見ていこう。AW4416でディスプレイ右下にあったSHIFTキーが、本機ではCTRLキーへと名前が変更されており、F1〜5にはよく使うコマンドをショート・カットとして任意に割り当てられるのが便利(画面①)。例えばEQやダイナミクスのオン/オフをアサインしておけば、いちいちEQ画面を呼び出すことなく素早い作業が可能になる。また、まめにデータ保存したい几帳面な性格の人は、ここにソング・セーブを割り当てておけば、かなり便利に使えるキーと言えるだろう。レベル・メーターが無い、マウスが使えない、といった本機の弱点をうまくフォローしてくれる新機能である。▲画面① ディスプレイに映し出されたコントロール・アサイン表示画面。ここで頻繁に行う操作をあらかじめスイッチにアサインしておけば、作業の効率化が図れる MIDI REMOTE機能(画面②)では、本機のフェーダーやONキーで外部MIDI機器をコントロールすることが可能。例えば、シーケンス・ソフトのミキシング・フェーダー部を本機からフィジカル・コントロールすることができ、加えてオートメーションまで可能になる。本機で16トラックを越えた場合の追加再生トラックを、外部のHDRソフト上で併走させてオートメーションするというような使い方などが考えられる。▲画面② MIDI REMOTE表示画面。本機は他のMIDI機器のフィジカル・コントローラーとしても利用でき、その操作を本機のオート・ミックス・データとして保存することも可能 そのほか、オプション・スロット(Mini-YGDAI)には同社の各種デジタルI/Oカードはもちろん、プロ・デジタル機器で有名なAPOGEE社のAP8AD、AP8DAも装着可能なのはAW4416と同様。さらに本機OSにはPLUG IN機能が用意されており、これから発表されるDSPカードを挿してのエフェクト使用も可能になっている。今のところ、WAVES社のプラグインDSPカード、Y56Kが対応予定とのことだ。また、AW4416で好評だったQUICK REC機能も、本機ではより細かい設定ができ、かつ使いやすくなっている。インプット・パッチ画面では設定しにくいようなパッチングでも、このQUICK REC画面を利用すれば素早くセット可能だ。このとき、フェーダー位置まで自動でセッティングしてくれるのもありがたい。このように本機の新機能は、AW4416ユーザーなら"ちょっと待てよ"と文句を言いたくなりそうな充実した内容となっているが、ご安心を。これらの機能は今後のOSのバージョン・アップでAW4416にも移植される予定とのこと。AW4416ユーザーにも大いに楽しみな新機能だ。

素直でしっかりとした音質を支える
信頼性の高いミキサー機能


録音してみて感じるのが、24ビット仕様のAD/DAとヘッド・アンプの音質の素直さだ。REC準備状態でモニターできるサウンド自体かなり抜けが良く、しっかりとした質感を持っている。筆者の場合、安価なサウンド・ボードを使ってのCPUベースの録音の際には、音のコシを確保/維持するのに何かと気を使っているのだが、それを考えると本機はさすがに専用機だ。ミキサー構造もとても理解しやすく、しかもYAMAHAらしい信頼性の高い仕上がりで、しっかり使える4バンドEQ、ダイナミクス、AUXセンドなどの使用感は、実績のある02Rや03Dとほとんど同じである。ちなみに、本機のミキシング・エンジンとなるDSPは、今回新規に開発されたDSP7というカスタム・チップで、発表当初のAW4416に搭載されていたチップの4倍の処理能力を持っているらしい。これによって02Rクラスの性能を維持しながらも、かなりのコスト・ダウンが可能になっているのだろう。また、冒頭にも触れたように、本機ではインプット1、2でのアナログ・インサート端子は省略されているが、各種I/O端子を使ってインサート・ルーティングを設定できる画面があるので、これで同等の処理が可能。ボーカル録音などでアナログ・コンプをインサートをするなんて場合も困ることはない。また録音済みのトラックに対しての外部機器のインサートも、このインサート画面で簡単に設定できるので大変便利である。そのほか、EQ、ダイナミクス以外にもチャンネル・ライブラリーまで備えた豊富なライブラリー機能、ムービング・フェーダーを使っての単体でのオートメーションなど、従来のYAMAHA製品のアドバンテージが本機でも健在なのは大きな強みである。

AW4416と同等のクオリティの
2系統エフェクトを内蔵


本機はAW4416と同等のクオリティを誇る2系統の内蔵エフェクトを搭載し、ダイナミック・フィルターやアンプ・シミュレーターなど魅力的なプログラムが用意されている。ライバル機のように豪華なマルチエフェクトが用意されているわけではないが、ミキシング上で最も基本的なエフェクトとなるリバーブの質が良いのはやはり安心できる点だ。また、保存メディアとしては外部記録メディアを接続できるSCSI端子が標準装備のほか、オプションのCD-RWドライブを内蔵すれば、CD制作だけでなくデータのバックアップも可能。さらにAW4416のオーディオ・データを本機にインポートすることもできるので、バンド仲間にAW4416ユーザーがいても安心だ。また、この逆のAW2816データのAW4416へのインポートについては、AW4416側のバージョン・アップで今後対応予定となっている。本機の一番の魅力は、やはり本格的で使いやすく音がいいミキサー部分だ。これに関してはダントツだろう。特に同社のデジタル・ミキサーを使い慣れている人には迷わずお薦めできる。しかし一方では、オーディオ・データの編集コマンドなどがもっと使いやすくならないものかと不満も残る。初心者にも内部構造が分かりやすい反面、使い込んだユーザーには画面上での頻繁なカーソル移動が面倒に思えてくるのだ。ただ、この点はOSのバージョン・アップで解決できる部分でもあるので、さらなる改良を期待したい。そのほか、個人的にはワード・クロックI/O端子が無いのがちょっと残念。複数の外部デジタル機器とシステムを組みながら、高音質を維持したい人の場合はやはりAW4416を選ぶ方が使い勝手がいいかもしれない。もちろん、大抵のユーザーにとっては本機で問題なく作業できるだろう。以上紹介してきたように、価格的に上位のライバル機種とも十分に勝負できるほど、本機はハイスペックな仕様となっている。おそらく、一番選択に迷う相手が、上位機種のAW4416ということになる人も多いのではないだろうか。EQやダイナミクスなど音作りにかかわる部分はAW4416と同等のクオリティなので、仕上がりの音質にはほとんど差が出ないと思われる。どちらを選ぶかの判断はかなり難しいだろう。オープン・プライスということで、本機の店頭での実売価格がどれぐらいになるのか大いに気になるところだ。

▲リア・パネル。写真は別売りオプションのADカードMY8-ADを装備した状態

YAMAHA
AW2816
オープン・プライス

SPECIFICATIONS

■周波数特性/20Hz〜20kHz
■全高調波歪率/0.02%以下(@1kHz)
■ダイナミック・レンジ/104dB
■接続端子/マイク/ライン・インプット1〜2ch(XLR/TRSフォーン)、3〜8ch(TRSフォーン)、Hi-Z 8ch(フォーン)、ステレオ・アウト(RCAピン×2)、モニター・アウト(TRSフォーン×2)、オムニ・アウト(フォーン)×4、ヘッドフォン(TRSフォーン)×1、デジタル・イン/アウト(RCAピン)×1系統、MIDI IN/OUT/THRU/MTC OUT、フット・スイッチ×1、TO HOST×1、SCSI×1
■トラック数/16トラック×8バーチャル・トラック+ステレオ・トラック
■ビット数/16/24ビット(非圧縮)
■サンプリング周波数/44.1/48kHz
■AD変換/24ビット、64倍オーバー・サンプリング
■DA変換/24ビット、128倍オーバー・サンプリング
■内部処理/32ビット/54ビット(EQ)
■外形寸法/480(W)×429(D)×141(H)mm
■重量/9.5kg(オプションを除く)