入手しやすい価格でチューブ・サウンドを堪能できる真空管マイク

MARSHALL ELECTRONICSMXL V77

本誌3月号で「初めてのコンデンサー・マイク」と題して21機種のマイクをチェックしたが、どれもコスト・パフォーマンスに優れ、NEUMANN U87などの上級機と同列で比較できるようなものも多くあった。その中にはMARSHALL ELECTRONICSのマイクもあり、音の明瞭度と立ち上がりの良さが印象に残っている。そして今回は同社のラインナップの中から、チューブ・タイプのMXL V77という機種のチェックとなる。増幅素子としては古典的な真空管を採用したマイクがここに来て各メーカーから発売されており、価格も幅広いが、その中で本機は最も廉価なレンジに入り、個人でも購入しやすいと言えるだろう。しかし、チューブ・マイクにしては前例の無い価格設定に不安も残る。そこでチェックだ!

力強く押し出しがあって
全体的に広いレンジ感


パッケージのコンポーネントは、マイク本体、電源ユニット、専用ケーブル、ウインド・スクリーン、サスペンション・ホルダーとなっている。U87のような見慣れたシルバーのボディは大きさも似たようなものだが、指向性は単一のみ、なんとPADやローカットも省かれていて、ルックスはかなりあっさりしている。このV77の売りは、AKG C12やTELEFUNKEN ELAM251と同じ真空管を採用していること、ダイアフラムの厚みが3μと非常に薄く、それゆえにレスポンスが優れていること、コストを下げるためのトランスレスではなく、マジメにトランスを使用していること、などが挙げられている。それでは早速音を聴いてみることにしよう。


本体と電源ユニットを専用ケーブルでつないでスイッチをONにする。真空管が安定するまで20分くらい待ち、ころ合いをみておもむろにマイクの前でアコギをかき鳴らす。スピーカーから出てきた音は、低域がよく出ているが中高域もそれに負けていないため、力強く押し出しがあるといった感じだ。冷静に分析すると、低音弦のローは輪郭があって太く、中域には張りがあり、高域も伸びていて全体にレンジが広い。ストロークでかき鳴らしても、低域がモワッと膨らんで音が濁ることは無い。反面、高音弦がややざらつき気味で細く感じるところもあった。次にピアノにややオフ気味に立て、NEUMANN U67 Tubeと比較してみる。67の方は全体に豊かな音で重厚感があり、バランスも良い。V77の場合、低域は同じくらいに再生するが、高域は硬めでヌケてくる。しかし、音のクオリティについては善戦しており、目的によって使い分けるということが可能なレベルにあると思う。キャラクターは、周波数特性的に言うと100Hzと8kHz辺りに山があり、500Hz辺りがへこんでいるような感じ。低域は大口径で薄いダイアフラムのおかげで、豊かだが立ち上がりが良いためにモタモタしていない。一方、サウンド全体の豊かさを感じさせる要素である中低域の出方はやや弱く、それゆえに中高域が艶に欠け細く感じるのが惜しいところだが、全体的にはシャッキリしていて力強い印象だ。


低域/高域の質感は
真空管らしいキャラクター


次にボーカルで、U87と比較してみる。U87の場合は全体的にフラットで、声が塊になって前に出てくる感じだが、V77はやはり低域が先に前に出て、中高域がそれに乗っかってくる感じ。と言っても低域が強くバランスが悪いということではない。音のキャラクターとしての話だ(この辺りを言葉で説明するのは難しいのだが......)。


そういうわけでV77の特性は、比較的低域を強調するようなオンマイクで歌うボーカル・スタイルに向いているのではないかと思う。入力感度、SN比、SPLは非常に高い。試しにマイクの前で叫んでもらったが、PADが無いにもかかわらず歪みは感じられなかった。また空気感もよく拾う。エアコンの風が直接当たっていたわけではないが、部屋の空気の動きでスピーカーのウーファーが動くほどなので、自宅などで使う際にはノイズに神経を使う必要がありそうだ。


また今回はドラムを録る機会があったので、オーバーヘッドにも立ててみた。シンバルなどの金物類は少々歪みっぽくザラついた印象があるものの、スネアやタムなどの各パーツのバランスが良く音像もくっきりしているので、このままキック用のマイクを追加すればドラム全体が録れそうだ。試しにキックにも使ってみたが、SPLが高いとは言え、さすがにPAD無しでは歪んでしまった。


さらにエレキギターも録ってみた。SHURE SM58、AKG C414、そしてV77と試したところ、結果はV77の大勝利。エッジが効いているが硬いわけでは無く、ヌケが良いという感じ。低音も出ていて迫力がある。これほど低価格でありながらここまでの音がするとは想像していなかったので驚きだった。


このV77は真空管増幅という50年以上前にできた技術を採用し、最新の技術によって製作されている。それゆえに安定した特性、高感度、高SN比を実現しつつも、ローが強く高域がいい感じで歪みっぽいところなど、チューブらしいキャラクターが強いのが特徴と言える。手に入れやすい価格でチューブ・サウンドを堪能できる貴重なマイクではないだろうか。


MARSHALL ELECTRONICS
MXL V77
76,000円

SPECIFICATIONS

■指向性/単一(カーディオイド)
■感度/20mV/Pa
■周波数特性/20Hz〜20kHz
■最大入力音圧(1%THD)/122dB
■SN比/77dB(Ref.1 Pa A-weighted)
■出力インピーダンス/250Ω
■外形寸法/55(φ)×195(H)mm
■重量/525g
■付属/電源ユニット、専用ケーブル、ウインド・スクリーン、ショックマウント