最大8台までのリモート・コントロールに対応した8chマイクプリ

GRACE DESIGNModel 801R

GRACE DESIGNといえば、超広帯域のマイク・アンプを、モバイル2chものから8chのマルチものまで精力的に開発/発売しているアメリカのメーカーです。このコーナーでも、モバイル仕様のLunatec V2が昨年紹介されています。今回は、既出の8ch仕様Model 801のリモート・コントロール・タイプであるModel 801Rを使う機会を得ましたので、ここに紹介していきましょう。

驚異的な周波数レスポンスで
次世代高品位メディアにも対応


本機は、8chのマイクプリ本体、専用電源、RCUと呼ばれるリモート・コントローラーの3つで構成されています。1台のRCUで最大8台、計64chものアンプ本体をコントロール可能で、XLRタイプのマイク・ケーブルを使って300mまでの遠隔操作が行えます(コントロール信号の伝達にはシリアル・プロトコル方式を採用)。


LCD表示パネルの色は少し派手なピンク系で、メーター・モードでは24ch分を表示できます。メーターには2種類のホールド設定があり、マイク・アンプのゲイン設定に非常に便利です。チャンネル設定やゲイン調整は、データ・コントロール・ノブ1つでそのモード内での選択と確定の両方を行えるので(確定の場合はノブをクリック)、スピーディにオペレートすることができます。これ以外に、99のプリセット・シーンのセーブ/ロードや、将来MIDIでのアンプ・コントロールを予定していることから、かなりライブやホール・レコーディングを意識した製品と言えます。


アンプ部は、Model 801のサーキット回路を継承した(スペック的には同等)トランスレスの構成で、15Hz〜300kHzという驚異的な周波数レスポンスを確保しているのが特徴です。DVDオーディオやSACDなどの次世代高品位メディアにも十分対応できるでしょう。ゲイン調整は約1.5dBステップと、このクラスの製品としては非常に細かい設定が可能になっています。


細かく多彩な気配りによって
現場でのオペレーションを容易に


今回は実際のホール・レコーディングで801Rを使用してみましたが、音決めまでのオペレートが実にしやすく、快適でした。先ほども書きましたが、このクラスのマイク・アンプは5〜6dBステップ(細かくても3dB)のものが多く、適正なゲインを得られない場合があるのですが、今回は実に痒いところに手が届く思いで、積極的にゲインの微調整が行えました。同じく、メーターのホールド表示も大いに役立ちました。こういった気配りの感じられる製品は大歓迎です。さらに本機ではペア・マイクなどのステレオ・チャンネルや、マルチマイクのゲインをグループ化して調整できますから、いちいち単独にチャンネルを呼び出す必要もありません。とにかく、オペレートに関しては個人的に満足しています。外録だけでなく、スタジオにおいてもかなりシビアに、かつスピーディに音決めできるでしょう。


サウンドに関して言えば、非常に落ち着いた素直な表現をします。トランスレスのマイク・アンプに比較的多く見受けられる、肉薄で線の細い、ぺラッとした感じは無く、ワイド・レンジ設計の機材に共通して見られる音源の締まりの無さ、立体感の欠如も克服しているようです。例えば、パーカッシブな音源に対して音像のアタックばかりが前に来てしまうことも無く、楽器本来の音色や基音の太さをバランス良く表現してくれます。


また、超ワイド・レンジ(周波数特性)のために、下手をすると倍音の表現で疲れてしまうマイク・アンプもよく経験しますが、それもあまり感じることなくモニタリングできました。スペックの数値ほど高い方は伸びていないかな?と思いきや、プログラム・アウトとレコーダー・アウト(20ビット/44.1kHz)の音を比較すると、こんなに違うのかと思うくらいの表現をしてくれます。


実のところ私は、同社のLunatec V2を最近購入し、楽しくモバイル・レコーディング(ホールでのワンポイント録音)をさせてもらっていますが、両者のサウンドには少しキャラクターの違いがあります。艶っぽさはLunatec V2、バランスの良さは801Rといったところでしょうか。もちろん、これはかなり高いレベル(質)での話で、基本的にはサウンド的にも音楽的にもバランスのとれたマイク・アンプだと思います。


今回はホールでのチェックだったため、積極的にオンマイクで試すことはできませんでしたが、基本的なキャラクターはスタジオでも同様に表現できるでしょう。ただし、スタジオの音場や響き、アーティスト/演奏者の実力がはっきり出てしまうシビアなマイク・アンプであるとも言えます。



▲RCU(リモート・コントローラー)



GRACE DESIGN
Model 801R
オープン・プライス

SPECIFICATIONS

■周波数特性/15Hz〜300kHz(@40.5dB gain、±0.2dB)、4.5Hz〜1.0kHz(@40.5dB gain、±3dB)
■全高調波歪率/0.0010%以下(@20dB gain、+20dBu out)、0.0010%以下(@40.5dB gain、+20dBu out)、0.0050%以下(@60dB gain、+20dBu out)、
■クロストーク/−100dB(@40.5dB gain、1kHz)
■最大出力レベル/+28dBu(バランス)、+22dBu(アンバランス)
■インピーダンス/1.6kΩ(入力)、50Ω(出力)
■外形寸法/482(W)×88(H)×250(D)mm
■重量/5.45kg
<RCU(リモート・コントローラー)>
■外形寸法/275(W)×62.5(H)×87.5(D)mm
■重量/1.49kg