低価格ながら基本性能の高さを誇る真空管コンデンサー・マイク

RODENTK

3月号のコンデンサー・マイク特集でも書きましたが、本当に良い時代がやってきました。高性能/低価格しかも個性的なマイクが簡単にゲットできるのですから! 今回ご紹介するRODE NTKも真空管マイクであるにもかかわらず、10万円を切った定価(実売4万円以下!)でここまでの性能と個性を発揮できることに驚かされます。

名器Classic2の機能に加え
どっしりとした低音感


RODEが作るマイクには、どのモデルにも共通して"明るくイントネーションが明瞭な音""モノラルで使用しても立体的な奥行き感を持っている"という印象を受けていますが、本機にもその特徴はしっかりあります。また、名器Classic2の機能を受け継ぐ真空管コンデンサー・マイクとして新登場したこのマイクは、それに加えどっしりとした低音感があるのも特徴です。ときには繊細過ぎる印象もある他の同社製品に比べて、ルックスから受ける質実剛健なイメージ通り、強い瞬間ピークを持った音にも吹かれたりつぶれたりすることなく、実音と倍音をバランスよく集音します。艶やかな音という意味ではClassic2やNT2に譲りますが、芯のしっかりした抜けのよい音です。


写真ではNEUMANN U87系の雰囲気に見えますが、実際に手に取ると、円筒形でどっしりと重い質感を持っています。マイク・スタンドに固定するアダプターの形状が斬新で、底に付いているリングを外し、そこにアダプターを取りつけ、もう一度リングを挟み込んで固定するという方法です。このリングの真下がコネクターになっていて、音声信号の出力と電源供給が専用電源ボックスを通じて専用ラインで行えます。


一見すると、この方法でマイクを固定するとマイク・スタンドから伝わる振動をマイクが拾ってしまいそうな気がします。しかしそこはよく考られていて、内部カプセル・ショックマウント構造の採用により解決されています。実際、マイク・スタンドをドラム台など床から浮いた構造の上や防振ゴム・マットの上で使用した場合には、何ら問題を感じませんでした。また、オプションでSM2ショックマウントも用意されています。コンクリート等固い床の上での使用時など、気になる場合にはこちらを選択するとよいでしょう。


だれもが真空管マイクを入手可能な
喜ぶべき時代がやってきた


では、音源にマイクを立ててみます。まず、ボーカル。Classic2譲りのどっしりとした低音感がはっきり分かります。これは音が太いという意味ですが、決して膨らみ過ぎてぼやけることがなく、低域から中低域まで音が固まりになっている感じです。ただ近接するとその効果が若干あり過ぎるので、少し離して使う方がマイクの良さが出ると思います。また高域のロールオフが自然なので、キンキンするタイプの声に使用するとピークがうまく取り除かれ聴き心地の良い声質になります。なお指向性は単一ですが、これはかなりタイトです。動きながら歌うのは、あまり向いていないかもしれません。


次にドラムです。さすがRODEらしい感じが出ています。まとまりが良く、1本でキックからシンバルまでしっかり集音できます。とくにタムは、アタックから余韻まできれいに鳴っているのが分かります。スタジオで実際に演奏している音像に近いので、ハード・コンプしても引っ込み過ぎたり出っ張り過ぎる音域があまりなく、ブレイクビーツのような音色も簡単に作れます。オーバーヘッドに使うと、マイクの良さがよりはっきり現れるようです。今回は1本でのチェックでしたので、ぜひステレオで使ってみたいと思いました。


スペックを見ると、最大入力レベルは158dBとのこと。ギター・アンプも試してみましょう。通常僕は、ギター・アンプにコンデンサー・マイクを使う場合はU87を使用しますが、許容入力レベルがNTKの方が高いため、輪郭がよりハッキリするようです。裏が開いたタイプのギター・アンプの裏面に立てて表側のマイクとブレンドすると、実際目の前にギター・アンプのキャビネットがあるかのような立体感が出てきました。


今回は、以上のソースでチェックしてみた結果良い点がたくさんありましたが、上記以外にもう1つ特筆すべき点があります。それはSN比が非常に良いことです。アマチュアの方が購入できる価格帯の製品なので使用したマイク・プリアンプはあえてプロ・ユースな高価なものは使わなかったのですが、レベルを必要以上に上げても"サーッ"という気になるノイズがありませんでした。ダイナミック・レンジも147dBあるので、音量の小さな音源にも安心して使えます。


僕は、真空管マイクや真空管アウトボード好きとして知られているようです。確かに真空管ものをレコーディングに使用する機会が多いのですが、もしどうしても音に艶が必要ならば、NEUMANNのU47や東ドイツNEUMANNのM7、RODEならClassic2を選ぶでしょう。しかし最大入力レベルや音の明瞭さを大切にしたいときは、間違い無くNTKを選ぶことになると思います。


この価格でだれもが真空管マイクを手に入れられ、いろいろな音源に対して自由に個性的な音作りができるようになったということで、喜ぶべき時代がやって来たことを素直に認めたいと思います。


RODE
NTK
88,000円

SPECIFICATIONS

■指向性/単一指向性
■周波数特性/20Hz〜20kHz(+/-6dB)
■出力インピーダンス/200Ω(100Ωper leg)
■感度/−38dB re 1V/Pa(12mv@94dB SPL)+/-1dB
■最大出力/>+29dBu(@1kHz、5%THD into 1k(load))
■ダイナミック・レンジ/>147dB(A-weighted、per IEC268-15)
■最大入力レベル/>158dB SPL(@1kHz、5%THD into 1k(load))
■SN比/>82dB(A-weighted、per IEC268-15)
■外形寸法/58(φ)×208(H)mm
■重量/760g(マイク本体)