往年の名機に迫るサウンドが得られる真空管コンデンサー・マイク

SEIDEPC-VT1000

自分がアマチュアで自宅録音をしていたころは、マイクの選択肢は非常に少なかったものでした。言い方を変えると、選択肢の少なさゆえのある種の諦めもあったわけですが、先月号のコンデンサー・マイク特集を見ても分かるように、近年は本当にいろいろなメーカーの製品が手に入ります。それを考えれば、今はなんと幸せな時代なんだろうと思ってしまいますが、その反面、ユーザーは購入に関してだけでも大いに悩むところでしょう。マイクのチョイスというのはレコーディング機器の中でも特にやっかいで、ショップに足を運んでその場で試すことは非常に難しいし、たとえ試せたとしてもショップの空間と実際に使う環境があまりに違うため、やはり判断が難しいと思います。さらにヘッド・アンプやモニター・システムによる音質の差まで考えていくと、その場での判断はかなり困難だと言わざるを得ません。極論すれば、資金と運に頼るしかないというのが正直なところでしょう。今回はそんな皆さんを裏切らないように、分かりやすくレポートしたいと思います。

近接使用時に多少クセを感じるが
オフ気味で使うと素直なサウンド


今回紹介するのはSEIDEの真空管コンデンサー・マイクPC-VT1000。SEIDEはドイツのメーカーで、僕は今回初めて使いましたが、同社は"ピュア・コンデンサー・マイク"なる謳い文句を掲げ、コスト・パフォーマンスにも優れたPC-M1DやPC-M2等の製品で知られている会社です。今回のPC-VT1000はリアル・チューブを採用した高級シリーズだということで、まずはNEUMANNのU67、M269、U47(いずれもチューブのビンテージものなので、価格的には100万円近くする)などと比較してみたのですが、出力やSN比に関しては何ら問題なく、同等と言っていいと思います。音質に関しては、説明書に書いてある通りで中高域に若干ピークがあるようです。チューブらしさもあり、力強い印象でした。


次に、いろいろな楽器に使ってみた印象をレポートしましょう。まずボーカルで試したところ、さすがにNEUMANNほど輪郭が明瞭ではなく、多少クセを感じました。特に気になったのは、中高域のピークがコンプレッションされているように感じるところで、男性ボーカルのような力強い音源にはそれが目立ちました。この傾向は特に近接時に現れるので、ややオフ気味で使うと解消できるようです。しかし、マイクも楽器と同じで相性のようなものがあり、それらの傾向がすべてウィーク・ポイントになるとは言えないのが面白いところ。女性ボーカルで試してみると、NEUMANNより伸びのある繊細な感じを受けた場合があったことは事実です。吹かれや、マイク本体から拾う振動は非常に少なく、扱いは容易だと思います。


スネアやギター・アンプに使うと
明るくパワフルなサウンドに


ピアノもボーカルの場合と同じような印象がありましたが、やはりオフ気味で使った方が素直さが出るようです。アコースティック・ギターにもやはり同じような印象があったので、恐らくチューブ・マイクという味付けに対するメーカーとしての解釈がそのようなサウンドになっているのだと思います。それを生かす方向で考えれば、弾き手や楽器、楽曲、アレンジによっては良い結果が出せるでしょう。


そのような傾向を感じたので、思いきってスネアに使ってみたところ、非常にパワフルで良い結果が得られました。特に音の張りや抜けは、問題無く素晴らしいと思います。同じような理由でエレキギターのアンプに近接で使用しましたが、これも狙い通り明るくパワフルなサウンドになり、十分満足の得られる結果でした。


このマイクの魅力はもちろんプライスにもあるのですが、それ以上にやんちゃな異端児的な音色にあるように思います。とはいっても、近接での使用以外(オフ気味)は非常にナチュラルなサウンドで、前述のNEUMANNにもひけをとらないくらいです。また、指向性もパワー・サプライ側で無指向から単一、双指向まで9段階に切り替えができるため、よりベストなマイキングを容易に行えます。そういった意味で、総じて使いやすいマイクだという印象を受けました。



▲標準で付属する専用電源ユニット


SEIDE
PC-VT1000
140,000円

SPECIFICATIONS

■指向性/単一指向/無指向/双指向(9段階切替)
■感度/16mV/Pa(−36dB)
■周波数特性/20Hz〜20kHz
■最大音圧レベル/135dB
■出力インピーダンス/≦350Ω
■外形寸法/43(φ)×240(H)mm
■重量/570g
■付属品/専用電源ユニット、ショックマウント、ウインド・スクリーン、専用電源サプライ・ケーブル、ハード・ケース