録りやミックス、マスター用としても実力を発揮する2chオプトコンプ

AVALON DESIGNAD2044

AVALON DESIGNは、製品のサウンド・クオリティの高さでプロのエンジニアやミュージシャンの間でも評判のメーカーです。VT737SP、VT747SP、AD2055など、マイクプリ、DI、コンプレッサー、イコライザー、またはその複合型の製品がリリースされていますが、今回ご紹介するAD2044は2chのコンプレッサーです。

100%ディスクリート設計の
2chオプトコンプレッサー


AD2044はピュア・クラスAアンプを使用した完全ディスクリート設計のコンプレッサーです。2ch仕様ですが、モノラル2台としてはもちろん、リンク・ボタンによってステレオでのオペレーションも可能になっています。また、サイド・チェイン入力を装備しているので、ディエッサー的な効果なども設定可能になっています。


特徴は、通常のコンプレッサーに見られるVCAを使用せず"オプティカル・コントロール・エレメント"という回路を採用していることで、これにより最小限の音質変化、元音に対する高い追従性でスムーズなコンプレッションを可能にしています。内部のオーディオ・シグナル・パスも最小限に抑えられているようで、随所に音質に対する配慮がうかがえます。ハードウェアは同社製品に共通のステンレス・スティールで、特にフロント・パネルに特有の高級感があり、耐久性にも優れているので安心して使用できます。


音質を重視した外部電源方式
視認性の高い大型VUメーターも装備


フロント・パネルでまず目を引くのは大型VUメーターで、視認性が高く、パラメーター設定やコンプレッション動作の確認に便利。個人的にもゲイン・リダクションを見るときはピーク・メーターよりVUメーターの方が分かりやすいので、この大型VUメーターの採用はうれしい点です。パラメーターは両チャンネル共通でTHRESHOLD(−24dB〜+20dB)、COMPRESSION(レシオ1:1〜20:1)、ATTACK(0.5msec〜150msec)、RELEASE(80msec〜5sec)、OUTPUT(±10dB)の各ツマミと、サイド・チェインIN/OUT、ゲイン・リダクションとアウトプットのメーター表示を切り換えるMETER、BYPASS、STEREO LINKの各スイッチが装備されています。一般的に言うレシオの役割がCOMPRESSIONになっていて数値の表記も違うため最初は戸惑うかもしれませんが、実際に音を聴きながら操作しているうちに感覚で分かるようになるでしょう。そのほかCOMPRESSIONツマミの横にGRと書かれたLEDがあり、コンプレッサーが動作するとこのLEDが点灯するので、VUメーターをアウトプット表示にしているときでもゲイン・リダクションを確認することができます。


入出力はサイド・チェイン入力も含めてすべてXLR端子になっており、オペレーティング・レベルは+4dBに設定されています。また、電源はこのサイズの機器としては珍しく別体式の外部電源から供給されるようになっています。これは持ち運びや設置の点ではやや不利な要因ですが、それを承知でこの方式を採用したのはオーディオ部と電源部を独立させることで音への影響を最小限にするためと思われ、この辺りはメーカーの音質に対するこだわりがよく表れている気がします。


素直なキャラクターながら
独特の粘りを持ったコンプ・サウンド


スペックや構造を見ているとかなりハイファイなコンプという印象ですが、実際の音はどうでしょうか。実は今回のチェック以前にもスタジオで何回か本機を使用したことがあり、そのときの印象も含めてレポートしていこうと思います。


いろいろな音源で試してみましたが、UREI 1176やDRAWMER 1960といったそれ自体で強いキャラクターを持つコンプとは違い、全体的に色づけが少なく、とても素直な音です。単にハイファイという印象だけではなく、コンプレッションされたときの音に独特の粘りがあり、出音が太くとても気持ちよく感じられます。素直なキャラクターのコンプの場合、音が良い反面、面白味に欠ける場合もありますが、この独特の粘りが本機の音を特徴づけていると言えるでしょう。またアタックとリリースの反応も早く、割と深めにかけても不自然な感じにはならないので、元音のニュアンスを変えずに音圧を上げることができます。もちろん設定次第でハードなコンプ・サウンドを得ることも可能ですが、個人的にはコンプでの歪みを利用した音作りよりも素直な部分を生かしたいところ。まず録りに関してはどんな音源に対しても効果を発揮でき、特にベースやボーカルには独特の粘りが気持ちよく、つい深くかけてしまいそう。アコースティック・ギターやピアノに使った場合も聴感上のダイナミクスを保ったままコンプレッションしてくれるので自然な感じで音が太くなってくれます。またミックスの際も、ドラムの2ミックス等にちょっと深めで使うと適度にラウド感が出せて効果的。さらに、本機の威力が最大限に発揮されるのはマスター・アウトにインサートした場合ではないでしょうか。アタック遅め、リリース早めで設定すると元のミックス・バランスを変えることなく全体的に張りが出て太さが増します。マスター用コンプと呼んでしまうと言い過ぎですが、この使い方は個人的にかなりお薦めです。


AD2044は楽器やボーカルなど使用する音源を選ばないオールマイティなコンプレッサーだと思います。録りにもミックスにもその効果を十分生かせますし、コンプレッサーにこだわる方はぜひ一度試してみてはいかがでしょうか。



AVALON DESIGN
AD2044
オープン・プライス

SPECIFICATIONS

■周波数特性/1Hz〜450kHz(−3dB)
■最大入力レベル/+30dB
■最大出力レベル/+32dB
■入出力端子/XLRバランス入力×2、XLRバランス出力×2、サイド・チェイン×2
■全高調波歪率/0.5%(typical 0.05%@+6dB、1kHz)
■外形寸法/482(W)×88(H)×305(D)mm
■重量/13.6kg