使い回しの効く3種類のモードを搭載したデジタル・コンプ

T.C. ELECTRONICTriple・C

デジタル・コンプの素晴らしさをこの世に知らしめた張本人とも言える、あのT.C.ELECTRONICから、またもやコンプレッサーの新製品Triple・Cが登場した。ワイルドな裸のお兄さんが"ガオー!"と吠えている広告で同社らしからぬ(?)イメージを振りまいている本機ではあるが、使って納得。Triple・Cはやはり"吠える"コンプなのだった。

さまざまな素材に対応した
50個のプリセットを用意


本機にはシングル・チャンネル仕様とステレオ・チャンネル仕様の2種類が用意されている。シングル・チャンネル仕様があることからも、これが従来のFinalizerシリーズのようにトータル・コンプとしての機能を特化させたものではなく、楽器ソース単体に応用できる製品であることが分かる。


フロント・パネルのデザインは同社のエフェクターM・One/D・Twoと共通のフィーリング。カラフルで明るい液晶ディスプレイに、インプット・レベル、スレッショルド、レシオ、アタック、リリースといったおなじみのパラメーターのほか、LO-BAND、HI-BANDのレベル調整、MAKE UP GAIN(出力レベル)のつまみが並んでいる。これらの各つまみは、モードによって多少機能が変化する仕組みだ。右端のジョグ・ダイアルは2重になっており、外周がパラメーター選択、内側がバリュー調整で、指で押すとENTERボタンにもなる。ゆるめのクリックが付いていて、片手でいろいろ操作できるのは便利だ。


プログラムにはドラムやボーカル、ギターなどの音源に適した50のファクトリー・プリセットが用意されていて、自分で作った設定も50個まで名前を付けて保存可能。また、小さなMENUボタンを押すことで、アナログ/デジタルの切り替えやディザー、サンプリング・レートなどのI/O関係の設定メニューに入ることができる。


リア・パネルには高品位24ビット・デジタル処理回路への出入り口となるアナログ入出力があり、シングル・チャンネル版にはサイド・チェインとステレオ・リンク用の端子が用意されている。それらはすべてバランス仕様のフォーン端子だ。さらにS/P DIFデジタル入出力、MIDI、ペダル・スイッチの端子が並んでいる。


自由度の高い音量変化を生む
エンベロープ・コンプレッション


では機能を見ていこう。コンプレッションは"マルチバンド(3バンド)""フルレンジ""エンベロープ"の3モードから選択できる。マルチバンドはFinalizerシリーズでおなじみの、音源ソースを高域・中域・低域に切り分けてそれぞれに独立したコンプレッションを行うモードで、非常にナチュラルで引き締まった音が出せるのが特徴だ。フルレンジ・モードは一般的なコンプレッションのことで、ソース次第ではこちらの方がいい場合もある。そして最後のエンベロープ・モード......これが本機の最大の"売り"だ。


通常、コンプレッサーにはアタック、リリースという2つのつまみでコンプレッションの始まり方と終わり方を調整するが、このエンベロープ・モードではあたかもシンセサイザーのようなダイナミクスの変化を生み出してくれる。"アタック・ゲイン""リリース・ゲイン"というパラメーターを操作することで、ベース・ギターをスローなアタックにしたり、逆に短い音のリリースを強調したりといった使い方ができるのだ。音次第でコンプレッサーとエキスパンダーが時間軸上に続いてかかるような感じと言えばいいだろうか。


筆者がこの原稿を書いているときが、まさにキャプテン・ファンクのニュー・アルバムのミックス・ダウンも終わろうかというところなので、一部でこれを試してみることができた。エンベロープの操作はつまみを回すだけなのだが、カーブがディスプレイにリアルタイムで表示され、なかなか気持ちいい。ブレイクビーツを入れてグルーブ感を変えることができるし、起伏の緩やかなノイズっぽい音ではまるで誤動作のようにランダムにゲインが暴れ出すポイントがあり、フィルターなどとは違った新しい効果が生まれた。しかし、ちょっと行き過ぎると突然グワッと音が大きくなったりして驚くこともある。こういう突拍子もない変化が"吠える"ってことなのかと勝手に解釈しているのだが、あの広告のお兄さんを見ていると、どうせなら現実にあり得ないエンベロープを作って無茶な効果を狙ってみたくもなる。


なお、マルチモードでもコンプレッションのかかり具合がLO、MID、HIそれぞれにメーター表示され、出力ゲインを調整するためにMAKE UP GAINつまみを回すと、それに合わせてメーターが右へ左へと視覚的にシフトしていくのが楽しい。コンプレッサーのかかった音と原音のレベル差を視覚的に調整できるのは非常に使いやすいと言えるだろう。MIDを軸にして、LOとHIのゲインもつまみで調整できるので、コンプレッションをかけなくても、トーン・コントローラー的な使い方ができそうだ。ちなみにLO、MID、HIのクロスオーバー周波数の変更も可能となっている。


真空管の2次倍音を再現する
DRG機能でサウンドをウォームに


音質については従来の同社製品に共通する、ナチュラルで品のあるものだ。かけ過ぎてもバランスが崩れにくいのはデジタル・コンプの強み。最近流行の1960年代っぽいビンテージ・コンプではなく、あくまでモダンで的確に動作するスマートなサウンドを得意としている。とはいえ、Finalizer Plusなどにもあった真空管の2次倍音をシミュレートするDRG(デジタル・レイディアンス・ジェネレーター)という機能が本機にもあり、これを加えることで音が幾分ウォームになって前に出てくる感じも出せる。また、コンプレッサーの特性をRMSタイプからピーク・タイプに切り替えるピーク・センシティブや、突然のピークを抑えるソフト・リミッター、3msec遅延させることで正確にコンプレッサーをかけるLOOK AHEADボタンなど細かい機能も充実している。


とにかく本機は補正という目的だけではなく、積極的にエフェクターとして使っていくのが良さそうなコンプレッサーだというのが筆者の感想だ。"コンプで音を激変させてやろう"と考えている人はぜひチェックしてもらいたい。



▲リア・パネル(ステレオ・チャンネル)


T.C. ELECTRONIC
Triple・C
88,000円(シングル・チャンネル)
132,000円(ステレオ・チャンネル)

SPECIFICATIONS

■デジタル入出力/S/P DIFコアキシャル
■サンプリング・レート/44.1kHz、48kHz
■アナログ入出力/バランス・フォーン(1ch版はサイド・チェイン用入出力を装備)
■AD/DA/24ビット、182倍オーバー・サンプリング
■周波数特性/20Hz〜20kHz(+0,-0.5dB@48kHz)
■ダイナミック・レンジ/入力:100dB typ、出力:104dB typ(20Hz〜20kHz)
■外形寸法/483(W)×44(H)×195(D)mm
■重量/1.85kg