抜群のクオリティのオーケストラ・サウンド・モジュール

E-MUProteus Orchestra

E-MUのProteusシリーズの歴史は、1990年代にさかのぼる。最も初期のサンプル・プレイバック音源でもあり、当時としてはリーズナブルな価格にもかかわらず、E-MUのライブラリーから厳選された存在感のある音色で大ヒットした。中でもProteus/2をはじめとするオーケストラ系楽器の音色は好評で、フィルム・コンポーザーの音源ラックなど、オーケストラ楽器の音が要求されるシチュエーションでは必ずといってよいほど見かけられたものだ。そのProteusシリーズ、先ごろProteus2000シリーズとして新たなアーキテクチャーのもとに蘇ったが、その中でオーケストラ系音色にターゲットを絞った新音源が、今回紹介するProteus Orchestraになる。

64MBものROMに
充実した音色を装備


今も昔もProteusシリーズの音色の基本になるのは内蔵ROM波形だ。Proteus Orchestraでは、新開発のORCH1/2の2基64MBのROMを装備している。


ストリングス系では、16バイオリン/15ビオラ/10チェロ/6バスといった大編成から、5バイオリン/5ビオラ/5チェロ/3バス、全楽器ソロまでの3編成を基に、それぞれの編成ごとに、レガート、スピカート、ピチカートやトレモロなどの奏法違いも収録と、非常に充実した内容だ。全体に透明感のあるさわやかな音色だが、コントラバスやチェロの低音楽器ではしっかりとコシのあるアタックが気持ち良い。また、ソロにおける音の太さもこの手の音源では最高の部類といえ、高音域でも音ヤセは少ない。


ブラスや木管などの管楽器はソロを基本に、p/mf/ffの3種類のダイナミクスを収録。やはりバスーンやバス・クラリネットなどの低音楽器が充実している。またトランペットもブライトで気持ちの良い音色だ。ただし、トロンボーンやホルンではもう少し派手に割れた音が欲しかったところだ。


また、ストリングス、木管ともに、強いアタックや多量のブレス・ノイズ、自然にクレッシェンドするロング・トーンなどエモーショナル要素を含んだサンプルが多く、うまくはまれば豊かな表現力が期待できるが、通常のレガート演奏や速いパッセージなどでは扱いに工夫が必要になることが多そうだ。


管弦楽器のほかには、ティンパニーやシンバル、スネア、さらにはマリンバやシロフォンなどのオーケストラ系打楽器も充実していて、基本的なオーケストラ楽器の音色はこれ1台ですべてそろえられるといってよい。なお、サンプリングの元になったのは、シアトル・シンフォニー・オーケストラで、編成により大ホールや小ホールなどアンビエントを変えて収録されている。


またサンプルによっては、ステレオだけでなく客席後方のアンビエントを独立して収録していて、原音をメイン・アウトからアンビエントをパラアウトから出力することで簡単にサラウンド効果が得られる。


充実したパラメーターと
ハードウェア構成


Proteusシリーズでは内蔵ROM波形を元にフィルターやエンベロープを付加して音色をプログラミングする。フィルターはE-MUの音源ではおなじみのZ-Planeフィルターで、50ものフィルター・タイプを搭載し最大−36dB/octのスロープを持つもの、エンベロープも6ステージと強力なもので、サンプルを用途に応じて補正するといった消極的な使い方から、元波形のイメージを極端に変えてしまうシンセサイズまで幅広い音作りが可能だ。


本体前面には4つのエディットつまみが装備され、3通りに切り替えて使用できる。つまり、4×3=12種類のパラメーターを即座に調整可能できるわけだ。ここではフィルターのカットオフやエンベロープはもちろん、ベロシティに対するボリュームおよびフィルターの反応を個々に調節できるのがユニークな点だ。アコースティック楽器のフレーズではベロシティの効きが非常に重要になるので、この音源の用途を考えると高く評価できる部分だろう。


このROM波形+フィルター+エンベロープといった組み合わせを、さらに最大4つまでレイヤーしたものが通常の1音色に当たる。Proteus Orchestraの最大同時発音数は128音ポリフォニックなので、4レイヤーの場合でも32音ポリフォニックが確保できる。実際には多くの音色は2〜3レイヤー構成なのでさらに多くのポリ数で演奏可能だ。またMIDIインも独立2系統装備しているので32マルチティンバーによる大規模なアンサンブルを構築できる。音声出力に関しても3ステレオ・アウト(6モノラルとしても使用可能)を装備していて2系統の内蔵エフェクトをバイパスした出力も可能だ。オーケストラ系のアレンジでは、パートごとにパラアウトして外部ミキサーでバランスをとったりエフェクト処理をするといった使い方も多いので、パラアウトの充実は歓迎できる。また、S/P DIFデジタル・アウトの装備も見逃せない点だ。


Proteus Orchestraはシリーズ中でもProteus2000と並ぶ充実したハードウェア構成を持つ。サンプル・プレイバック音源としてはトップ・クラスの大容量ROMにより、三管編成のオーケストラ音色はすべて装備していて、ディスクからの読み込み時間を待たずに即座に演奏可能だ。さらに、拡張ROMスロットも2系統装備しているので、オプションのROMや同社のサンプラーE4で作成したフラッシュROMの追加も可能、特に高品位なピアノ・ライブラリーHollyGrailPianoとの組み合わせは非常に魅力的だ。


オーケストラ系楽器の音色が必要な人にとっては、まずチェックしてみるべき音源だと言えよう。



E-MU
Proteus Orchestra
168,000円

SPECIFICATIONS

■音源部/ 128音ポリフォニック、4レイヤー、6ステージ・エンベロープ、12ポールZ-Planeフィルター(50種類)、クロック・シンク可能のLFO×2
■内蔵プリセット、マルチセットアップ・メモリー/512ROM プリセット、512RAM プリセット、64RAMマルチセットアップ
■波形メモリー/32MB“orchestral”サウンド・セットROM×2
■エフェクト数/44タイプ(エフェクトA)、32タイプ(エフェクトB)
■MIDI/バンク・セレクト/プログラム・チェンジ、エクスプレッション対応、32chマルチティンバー、12のシステム・コントローラー、Patchcoardモジュレーター・システム
■外形寸法/482(W)x 44(H)x 215(D)mm
■重量/3.1kg