独自の設計思想によるオール・チューブ仕様の4バンド・フィルター・バンク

METASONIXTS-22

私事で恐縮ですが、先日ギターを買いました。30過ぎて"Fのコードが弾けた!"と喜ぶのは音楽家としてかなり問題(!)ですが、キーボードばっかり触っていた身としては非常に新鮮です。で、当然アンプも持っていなかったので、アンプ・シミュレーターを一緒に買いました。ギターだけじゃもったいないのでいろいろつないでみたのですが、これがなかなか面白い。最近は楽なせいもあってデジ・デジでことを済ませていたのですが、"プラグインもいいけど、やっぱりアウトボードでガチャガチャやる方が楽しくていいなぁ〜"と宅録時代の初心に帰り、手当たり次第歪ませてました。すると来ました、原稿依頼が。オール・チューブのフィルター・バンク、しかも"過大入力こそ真価を発揮します"らしい。興味津々です。

フロント・パネルからは
ガレージな匂いがプンプン


外見はもうガレージな匂いプンプンです。前機種TS-21と同じフロント・パネルを使っているようで、減ったツマミ、スイッチのところがキャップで蓋をしてあるのはご愛嬌。早速、スイッチを入れて真空管ものなので10分ぐらい待ちます。"10分もあるからネットでも見てよ"(オイオイ)としばらくそのままにしていたのですが、いつまで経っても外見上変化がありません。勝手な思い込みだと"真空管が光りだして〜"とか想像していたので、これにちょっとは面くらいました。


気をとり直して、YAMAHA 02RのAUXでループさせてテスト開始です。つまみは"low""low mid""mid high""high "計4バンドの"TUNE"(周波数帯)と"RESONANCE"と"FILTER CV SWEEP"(4つの周波数帯全体のチューニング)だけなので、もうこれは楽勝!と思っていたのですが、これがなかなか......。


まず"INPUT"をかなり上げて歪まさないと、それらしい効果が出ないのです。また、特定の周波数帯だけを取り出すことができない構造のようで("TUNE"を振り切ってもその帯域がなくならない)、ハンドリングにはかなり手間取ります。また"RESONANCE"を上げていくと突然、自己発振するのも困りました(なおかつ4帯域ごとに別々に自己発振する!)。音の感じはまるでギターのフィードバック音みたいなので、個人的には○ですが、これを自在にコントロールできたら......もう暴れ馬を必死で押さえている感じ。


今度は"Filter CV IN"と"VCA CV IN"にアナログ・シーケンサーのCVを入れてみます。目論見としては、発振させて面白いシーケンスができないかなぁというものだったのですが......これもかなりハンドリングが難しいです。フィルターが4バンドに分割されているので、付けられる音階がかなり狭いです。モジュラー・シンセのLFOやオシレーターも入れてみましたが、"これはびっくり!"というものにはなかなかなりません。使い方としては、やはりCVペダルで演奏しながらコントロールというのが王道でしょう。ただ、歪ませた音をフィルタリングしながらLFOとかで揺さぶっていると、EMSのVCS3をディストーション・ボックスとして使ったことを思い出しました(VCS3はトランジスターなんですが)。音の感じは結構近いものがあります。通すだけでブットクなる感じ。個人的にはOKなんですが、かなり用途が限定されますね、これは。


余談ですが、NOISE(音楽のジャンルです)でよく聴かれるフィードバック・ノイズは簡単に、なおかつエグイ感じで出ます。ステージでこれ1台で轟音というのも男らしい、かも!?


ドラム音源やブレイクビーツでの
サブハーモニックス的使用がGOOD


だいぶんTS-22に慣れてきたので(フゥ〜ッ)、いろいろなネタをTS-22に送ってみます。オルガン、ギターを歪ませると、レトロでいい感じです。特にFALFISAなんかのネタをつまみをぐりぐりさせながら弾くと、う〜ん、サイケな感じ。発振させてTS-22のほうでドローンを作るとますますサイケ。まあこれも片寄った使い方ですが、一番実用的と思えるネタは意外とドラム音源(+ブレークビーツ)でした。TS-22の音だけだとグシャグシャに歪んでいて使う用途が極端に限られますが、ドライの音と混ぜるとこれが良いのです。"low"の"RESONANCE"を発振すれすれにすると(結構微妙な操作ですが)、サブハーモニックスっぽい感じになってサンプルのキックやヒップホップ・ループが俄然いい感じになります。これは結構、一般的に使える手じゃないでしょうか。


サンプラーやHDレコーダーに取り込む際にかけ録りしてもいいですが、ミックス時にAUXでセンド/リターンの方が安全でしょう。今回は生ものはチェックできなかったのですが、ドラム、ベースなどに薄くかけると、ラウドでビッグな感じを出すのに有効だと思います。アンプ・シミュレーターと比べるとやはりアナログ、質感だけだと筆者なんかはTS-22の方を迷わず取ります。エグイ感じにしても耳に痛くないです(高音が出てないというのではない)。しかし、オペレーションの面ではかなりの難物です。当然ですが、アンプ・シミュレーターの方がお利口です。


TS-22は、万人にお薦めできるものでは決してありませんが、マニアックに質感の追求をしたい人には魅力ある製品だと思います。METASONIX社自体が考案者のエリック・バーバー氏(真空管博士)の個人会社らしいので、個人的にカスタマイズしてもらっていくと、もっともっとトンデモナイものになるのでは、と思いました。



METASONIX
TS-22
188,000円

SPECIFICATIONS

■入力インピーダンス/500Ω〜1MΩ、0dBmax
■出力インピーダンス/20KΩ 、0dB(入力信号による)
■CVインプイット/0〜10Vdc
■フィルター・セクション/low、low mid、mid high、high
■レゾナンス/上記各バンドに対し1個装備
■使用真空管/6097双2極管(電源)1本、5654単一5極管5本
■外形寸法/484(W)×88(H)×356(D)mm
■重量/4.9kg