大容量ハード・ディスクを搭載した24ビット対応デジタルMTR

TASCAMDigital Portastudio788

TASCAMからこのたびリリースされたDigital Portastudio788(以下788)は、デジタル仕様のミキサー部、エフェクター部を搭載した24ビット対応のハード・ディスク・レコーダー(以下HDR)だ。MTRメーカーのしにせから発表される中堅クラスのHDRだけに、その内容は大いに気になるところである。早速チェックしてみることにしよう。

充実の作業環境を約束する
7.5GBのHDR部


デザインはシルバーを基調としたシックなものだ。フェーダーとパン以外はメカニカル・スイッチとジョグ/データ・ダイアルで構成されているので非常にすっきりとした印象を与える。サイズ的にはこの規模のHDRにしては標準的なところだが、外部電源の専用ACアダプター(PS-P788)はかなり大型のものとなっているので購入時にはチェックしておきたい。


基本的な性能面では16ビットに加え、24ビットの非圧縮モードが用意されている。アコースティック楽器などの繊細なサウンドの録音では24ビット・モードが威力を発揮することであろう。さらに7.5GBのハード・ディスクを内蔵しているので、24ビット録音の場合でも十分な作業エリアが提供されている。その際も同時録音数は6トラックと、小規模なバンドの一発録りにも対応できるものになっている。また、同時再生トラック数は8トラックとなっているが、250のバーチャル・トラックと組み合わせれば、かなり自由な音作りが可能だ。ほかには、パッチ・ベイ機能や2系統でフレキシブルな運用が可能なエフェクター、SCSI-2インターフェースによる拡張性などが特徴となっている。


周波数可変3バンドEQと
2系統のエフェクター部


では詳細に788の機能を見ていこう。まず、アナログ入力はマイク入力が可能なゲイン調整付きのチャンネルがA〜Dの4つ用意されている。これらはTRS方式の標準プラグを使ったバランス入力となっているので、変換ケーブルを使えばバランスでマイクを扱うこともできる。ただし、ファンタム電源は用意されていない。チャンネルDについてはギターとマイクの切り替えが可能になっていて、ギター入力ではハイ・インピーダンス対応となり、クリーンなライン録音が可能。加えて1組のステレオ入力がAUXによって可能になっている。もちろん、プリアンプを用意すればここにマイクを接続することも可能だ。アナログ入力は以上の6つで非常にシンプルな作りとなっているが、同時録音数が6トラックなので、これで十分実用的と言えるだろう。


入力された信号はパッチ・ベイ機能で任意のチャンネルに入力することができる。ミキサーは基本的には8チャンネル構成で、これがレコーダーの8トラックに対応しているというイメージだ。パッチ・ベイ機能は実際のパッチ・ベイと同じような働きで、実際にはパネル上のスイッチでA〜D、AUXの入力を任意のチャンネルに接続することができるというものだ。


また、クイック・セットアップというのがあって、これには"recording"モード、"mix down"モード、"bounce7/8"モードがあり、簡単にセッティングを変更することができる。"mix down"モードでは8トラックに加えてA〜D、AUXからの信号をサブミックスとして使用することができる。トラック・ミックスにMIDI音源を同期させながらミックスすることも可能だ。"bounce7/8"モードはその名の通り1〜6トラックを7、8トラックにステレオでミックスし、ピンポンするものだ。


デジタルのインターフェースはS/P DIFの出力のみとシンプル。コアキシャルなのでオプティカル端子のみを持つ機器と接続するには、別途アダプターが必要となる。


イコライザーは3バンドのものが用意されている。ハイ、ローはシェルビングで周波数可変、ミッドはピーキングでQも可変となっている。デジタル・ミキサーのEQとしては標準的な構成だろう。かかり具合は変な癖もなくナチュラルで分かりやすい。ミッドのQを高くしてフリケンシーをスイープするとVCF的なサウンドに近いシャープな変化が得られる。


エフェクターは2組用意されていて、それぞれ幾つかのモードを使うことができる。EFFECT1は5種類のエフェクターが同時に使えるマルチエフェクターを単独でソースに使うか、またはシングル・ステレオ・エフェクターをミキサーのエフェクト・ループの中で使用できる。EFFECT2は8つの独立したコンプレッサー、ステレオ・ダイナミクス、つまりトータル・コンプとして、またEFFECT1に加えて2つめのエフェクト・ループ用として使うことができる。


エフェクターの質はこのクラスのオールインワンHDRに内蔵のものとしては十分なものと言える。リバーブも全般的に、きめの細かいナチュラルな感じのするサウンドである。EFFECT2をトータル・コンプとして使ってみたが、デジタルとしてはくせのない自然なサウンドと言えるだろう。パラメーター設定をうまく行えば十分に使えるクオリティだ。マルチエフェクターなども実用的なものがそろっている。エフェクトの種類はリバーブ、ディレイ、コーラス、フランジャー、ディストーション、エキサイターなどだ。


指定した信号経路を記憶する
ルーティング・ライブラリー


788にはパッチ・ベイなどで指定した信号の経路を128種類まで記憶させることができるルーティング・ライブラリーという機能が用意されている。これは録音、ミックス・ダウンやオーバーダブ時の定型的な作業のルーティングを記憶しておき、これを随時呼び出すことによって効率的な作業を行うというものだ。


シーン・メモリーはソングごとに10パターンを記憶することができる。これを多いと見るか少ないと見るかは取り扱うジャンルや制作作業のやり方によって意見の分かれるところだが、大抵の場合は十分と言えるだろう。メモリーされるパラメーターとしてはパンやフェーダー、EQなどの基本的なものに加えて、エフェクト設定、バーチャル・トラックの選択などほとんどすべてのものがリコールの対象となっている。なお、シーンはレコーダーが停止中にのみ呼び出すことができる。


レコーダーのトラック数は基本的に8トラックだが、250のバーチャル・トラックを使用することでマルチテイクの中から後でベスト・テイクを選べるようになる。また、250あるバーチャル・トラックはベーシックな8トラックの部分に自由にアサインすることができる。


オート・パンチ、リピート再生、ゼロ・リターンといったレコーダーのオペレーションに必要な標準的な機能はすべて備わっており、イン・ポイントとアウト・ポイントの設定時や再生時に、選択しているトラックの波形が見えるので便利だ。さらに、ロケーション・ポイントを設定したリストを表示させて、そこから簡単にロケーションを変更できるなど、効率的な作業が期待できる。


編集機能にはCOPY→PASTE、COPY→INSERT、MOVE→PASTE、MOVE→INSERT、OPEN、CUT、SILENCE、CLONE TRACK、CLEAN OUTなどというオペレーションが用意されている。このコマンド名を見るだけで大体どんな内容かが分かるので、使いやすく感じられる。


ピッチを変えずに再生速度を落とす
SSA(Slow Speed Audition)機能


788ではデータの非破壊編集をコンセプトにしている。つまり、何らかの編集をしても、元のデータは捨てずに新しいデータを作っていくという考え方だ。この結果、999回までのアンドゥ/リドゥが行えるのだ。アンドゥは履歴となって残るので、好きな段階まで操作を行き来することができる。この対象にはトラック編集はもちろん、パンチ録音やマスタリングなども含まれている。


また、アナログMTRのようなバリスピード機能があり、±6%の範囲でスピードを調整できる。バリスピードではアナログMTRのようにスピードを変えるとピッチも変わってしまうが、SSA(Slow Speed Audition)という機能を使うとピッチを変えずに再生スピードを落とすことができる。これは言わば、リアルタイムのタイム・ストレッチみたいなものだ。楽器のフレーズをコピーするときなどにも便利だろう。


同期はMTCとMIDIクロックが使用できる。MTCを使用する場合には788はマスターにも、スレーブにもなることが可能だ。また、MIDIクロックとソング・ポジション・ポインターを送信して、小節/拍ベースでの同期の管理が可能なほか、テンポ・マップに基づいたメトロノーム機能も内蔵されている。MMCに関してはマスター/スレーブともに対応可能となっている。


そのほかにはSCSI-2インターフェースが用意されており、ここにいろいろなリムーバブル・メディアを接続することができる。ここにハード・ディスクを接続してディスク・スペースを増やすことも可能だし、CD-Rドライブを接続しCD-Rを焼いてしまうことも可能だ。


マスタリングではCD-Rに焼きたい曲を788の内部または、外部のDATやMDから取り入れる。CD-Rへの記録方式は追記ができるトラック・アット・ワンスと音楽CDの通常の方式ディスク・アット・ワンスを必要に応じて選択できる。曲の始点と終点を指定してやれば、あとはほとんど何もしないでCD-Rを焼くことが可能。また、曲間の空白時間も簡単に指定することができ、パソコンのCD-Rライティング・ソフトよりいっそう手軽な感じだ。また、バックアップ機能を使うと、アンドゥなどすべてのデータを含んだソング・データをCD-Rに保存することができるので、作品をマルチのまま忠実に保存しておきたいときなどにも役立つ。1枚で容量が足りない場合でも複数のメディアに記録することができる。


最後に、使用しての感想をまとめておこう。操作性に関しては全体的にストレスのないメニュー構成で、スムーズなオペレーションを行うことができそうだ。メカニカルな感触のボタン・スイッチは好みによるが、個人的にはクリック感が強く、操作に対して確かな反応が返ってくるので好感が持てる。EQやパンはボタン・スイッチで選択してからジョグ/データ・ダイアルで値を入力するという方式。直接データ・エントリー・ポットを操作する方式よりも幾分手間がかかるが、画面を見ながらの操作は案外スムーズな感じだ。


音質に関しては、24ビット・モードが期待通りアコースティック楽器のレコーディングに十分対応できるものである。アコースティック・ギターとボーカル中心のユニットならば、6トラック同時録音を生かした一発録音も可能だろう。ボディもコンパクトで多くの場所を占有しないので、基本的に自宅で、ちょっとしたデモや作品を気楽に作るのに最適だ。



TASCAM
Digital Portastudio788
118,000円

SPECIFICATIONS

■トラック数/8リアル・トラック+各ソングにつき250仮想トラック
■サンプリング周波数/44.1kHz
■録音解像度/リニア、16ビット/24ビット(ソングごとに選択可能)
■周波数特性/20Hz〜20kHz
■バリスピード/±6%
■SSA(Slow Speed Audition)/通常スピードの50%、65%、85%で2トラック再生
■接続端子/インプットA〜D(フォーン)、AUXイン/アウト(フォーン)、ステレオ・アウトL/R(RCAピン)、モニター・アウトL/R(RCAピン)、デジタル・アウト(S/P DIFコアキシャル)、MIDI イン/アウト、SCSI端子、リモート端子、ヘッドフォン端子(フォーン)、電源アダプターPS-P788用端子
●記憶装置関連
■外部端子/SCSI-2
■パーティション/各ディスクにつき最大4
■パーティション・サイズ/512MB、1GB、2GB、4GB
■データ・フォーマット/TASCAMオリジナル・フォーマット
■外形寸法/414(W)×96(H)×288(D)mm
■重量/3.1kg