PAに必要なツールをすべて搭載したプロセッサー・システム

DBXDrive Rack 480

"ドライブ・ラック!"という、まさに文字通りのシステムが登場しました。PAシステムの音の処理に必要なすべての機能を搭載した、まさに次世代の夢のマシンです。まずは、Drive Rackとはどんなマシンかを探っていきましょう。

高性能かつ多機能な
PAツール・システム


今まで、ハウスおよびモニター・コンソールの出力信号の処理を行っていたさまざまなツールをディスプレイ付きの2Uに集結させたのが、このDrive Rack 480。一見、4入力8出力のデジタル・チャンネル・ディバイダーのようですが、31バンド・グラフィックEQ、ノッチ・フィルター、スピーカー・ディレイ、マルチクロスオーバー、スピーカー補正EQ、コンプレッサー/リミッター等のダイナミクス・セクションに加え、ドライバー・アライメント・ディレイをも兼ね備えています。当然24ビットA/D変換で、超高音質です。


このDrive Rackは、本体であるDrive Rack480と、そのリモート・コントローラーDrive Rack480R(380,000円)、1Uのスレーブ・ユニットDrive Rack481S(220,000円)、2Uのスレーブ・ユニットDrive Rack482S(240,000円)というシステムから成ります。


このシステムでは、マスター本体であるDrive Rack480ですべてのパラメーターの調整が行えます。加えて、独自のリアルタイム・アナライザーも兼ね備えています。さらに480Rを使用することにより、480のすべての操作はもちろん、31フェーダーによるネットワーク上のEQを瞬時にリコールでき、グローバルなEQコントロールも簡単に行えます。この480Rはマスター480から200m離れていてもコントロール可能で、まさにフロント・オブ・ハウス・ミキシングの理想の形と言えるでしょう。また、ディスプレイを除き480のすべての機能を含むスレーブ・ユニット、481S、482Sを使えば、480をマスターとして何台でも自由にリンクできます。なおプログラム機能は、480、480Rはもちろん、パソコンからも使えます。


480のフロント・パネルには、大型LCDディスプレイ、12個のファンクション・キー、3個のパラメーターつまみ、4つの独立した入力メーター、スレッショルド・メーター付きの8つの独立した出力メーター、そして8つのミュート・ボタンのみと、実にシンプルなものです。わずかこれだけのボタンとつまみだけで、さまざまなパラメーターを操作できるのです。では早速、さまざまなSRのシーンを想定しながら、数々の使用例を紹介していきたいと思います。


分かりやすい構造で
簡単に操作が可能


さて実際のパラメーターの操作ですが、480または480Rの12個のファンクション・キーと3個のつまみで操作することは先ほど紹介しました。本当にこれだけ?っと思うかもしれませんが、実際に操作してみると実に簡単で分かりやすいのです。操作方法としては、ファンクション・ボタンでブロック・ダイアグラムに表示されている、すべてのセクション(エフェクター)を瞬時に選択でき、その選択したセクションの編集を、3個のノブで行うといった感じです。もちろんその操作環境は、ディスプレイ上にも表現されています。配列としては、ディスプレイの一番左から、"IN"(4つのインプット)、"EQ"(プリEQ)、"N"(ノッチ・フィルター)、"DLY"(プリディレイ)、"X-OVER"(クロスオーバー)、"EQ"(ポストEQ)、"DNY"(ダイナミクス)、"DLY"(ポストディレイ)、そして"OUT"(8つのアウトプット)と、分かりやすく配列されています。そしてそれぞれのブロック(セクション)は、プログラムごとに線でパッチされています。


では、早速"X-OVER"の設定をしましょう。ファンクション・キーの"X-OVER"を押すと、各周波数のクロスポイントを表すディスプレイになります。そこで、各帯域ごとにクロスする周波数を設定していくわけです。スロープも12dB/Oct〜48dB/Octまで調整でき、当然フィルターも装備しています。


次に、皆さんが一番関心深いだろう"4Way FOH w/RTA"。そうです、4ウェイのハウス・オブ・フロントのラウド・スピーカー・システムです。そして"w/RTA"は、先述のリアルタイム・アナライザーのことです。これは、入力の3、4にコンデンサー・マイクを使用してのリアルタイムの測定結果を見ることはもちろん、入力1、2のLINEのアナライザーにすることも可能です。


プログラムで、"4Way FOH w/RTA"を選択した瞬間に、ディスプレイ上にまさしくアウトボードの各エフェクターをパッチングしたかのようなブロック・ダイアグラムが現れます。非常に分かりやすい表現です。


ストレスなく快適に操作可能な
EQセクション


そして、大変興味深いEQセクションです。ファンクション・キーのEQというボタンを押すと、ディスプレイにグラフィックEQの画面が現れます。これはプリEQという部分で、メインのステレオEQの調整です。操作は、3個のつまみで行います。いわゆるデジタルのグラフィックEQと同じですが、480Rを使用することにより、アナログのグラフィックEQと同じ操作性が楽しめます。これは、ストレスもなく快適にイコライジングが行えます。なおこのプリEQセクションには、ステレオ31バンド・グラフィックEQのほかに、9バンド・パラメトリックEQを装備しています。さらに次のブロックにはプリEQとは別に、ノッチ・フィルターを搭載しています。ノッチ・フィルターは、各チャンネルごとに5バンド、合計10バンド使用可能です。プリEQのほかにこのノッチ・フィルターを別に使用できるのは、大変重宝するのでうれしいところです。


また、このEQセクションには、後半のブロック(X-OVERの後)に配列されているポストEQも装備されています。これは、各バンド(帯域)ごとに使用することのできる、9バンドのパラメトリックEQになっているので、トータルEQとは別に各アウトのそれぞれ異なったイコライジングが可能です。


今度はディレイ・セクションを見てみましょう。プリディレイ・タイムは、各チャンネルごとに680msecまで可能です。さらに"Time"だけでなく、"Feet or Meters"という距離表示での編集も可能となっています。最大距離は234mまで表示でき、これはディレイ・タワーを使用する際には非常に便利な機能です。そして、各出力ごとのポストディレイも装備され、ディレイ・タイムは170msecまで可能。これもEQセクション同様に、それぞれ同時使用が可能となっています。ディレイ・タワーを使用しつつ、各バンド(帯域)ごとにディレイを使用する......などの複雑な操作も簡単に行えるわけです。


細かな調整も可能な
ダイナミクス・セクション


次は、ダイナミクス・セクションです。これは、ピーク・ストップ付きのコンプレッサー/リミッターで、当然トータル・コンプとしての機能もありますし、各バンド(帯域)ごとの調整なども可能です。パラメーターは、スレッショルドおよびレシオの調整が可能で、アタック、リリースはオートになっています。当然、"Over Easy"付きで、細かな調整も可能です。さすが、DBXのダイナミクス・セクションと言えます。ファンクション・キーの"DYNAMICS"を押すと、ディスプレイにコンプ/リミッターを表すグラフが現れます。そして、スレッショルドとレシオを調整することにより、表示されているグラフも変化していきます。視覚的にも非常にも分かりやすく、簡単に調整できます。加えて、コンプレッションの動作を表すシグナルや"GR"(ゲイン・リダクション)の表示もあります。やはりダイナミクス・セクションは、パラメーターの数字とシグナルだけでなく、こうしたグラフ表示があると調整が行いやすいものです。これもDBXの細かな配慮とも言えましょう。


そして、ファンクション・スイッチ"OTHER"で、イン/アウトのレベル設定および最終段のフェイズ(0゜/−180゜)の調整が行えます。さらにこのセクションでは、RTA(リアルタイム・アナライザー)使用時の"Pink Noise"のオン/オフおよびレベル調整も行えます。


ブロック構成は、以上のセクションとなります。そして、各セクションの設定などについては、ファンクション・キーの中にユーティリティ・ボタンというのがあり、そこで設定することができます。また、MIDI接続やPCを接続する際のID設定なども行えるようになっています。このようにブロック図に基づいて、各セクションの設定をファンクション・スイッチと3個のつまみとで編集を行っていくわけです。文章にすると複雑そうですが、実際操作してみるとディスプレイとつまみのコンビネーションが非常に良いです。さらに前半で少し触れた480Rを使用することにより、操作性はかなり増します。


以上が、FOH(フロント・オブ・ハウス)での使用を想定したセッティングと説明でしたが、このシステムに481Sや482Sを複数台リンクすることにより、バイアンプ・タイプのモニター・システム"MONITOR"のコントロールを同時に行うこともできます。ほかに、ディレイ・タワーを使用するシステム"Delay 3-Way Towers"、サラウンド・再生の5+1システム"L-C-R+Sub+Rear"等もシステムの変更はなく、481Sや482Sを追加してリンクするだけで行えます。当然、すべての調整は480のフロント・コントロールで行えますが、480Rを使用することによりコントロールする場所を選びません。


現在のSRシステムは、プロセッサー・タイプのシステムが多くなってきていますが、チャンネル・ディバイダーを使用するシステムも新たに登場しています。私も最近、デジタル・ミキサーを使う機会が多いのですが、セパレート・システムのために入/出力がハウス・サイドに無いことが多いのです。そのようなマルチウェイのシステムを使用する際に、480をステージ側にセッティングして入/出力を行い、コントロールは480Rを使用することで、ハウス・サイドでのオペレーションが可能となったというわけです。


ここではコントロール・ラックを集結させたシステムでの使用例を紹介しましたが、少し発想を変えて、4イン/8アウトのコントロール・エフェクターとして使用するのも良いでしょう(贅沢かもしれませんが)。例えばSRシステムが、いつもマルチウェイやバイアンプのシステムとは限らない場合でも、ノッチ・フィルターやコンプ/リミッター付きのグラフィックEQとして使用するのも良いのではないでしょうか。わずか2Uというサイズの中に、ステレオ31バンドのグラフィックEQがダイナミクス付きで使えるこのDrive Rack 480。これからは、いろんなシーンでの使用が期待できそうです。そういった意味も含めて、これはまさに次世代のシステムの形となること間違いなしでしょう。



▲Drive Rackシステム制御用マスター・リモート・コントローラー480R 。マスターである480から200m離れていても、480のすべての操作やEQなどのコントロールが簡単に行える。スペックは次の通り。入力数/RTAマイク入力(ファンタム48V)、コネクター/XLRメス、インピーダンス/>40kΩ、フェーダー数/31フェーダー、最大入力レベル/ー10dBu、CMRR/>40dB typical , >55dB@1kHz、ネットワーク/RS-485、GUI/RS-232



▲480のリア部。左上からMIDI IN/OUT/THRU、その下がCONTROL IN/THRU(D-Sub9ピン、RJ-45)、PC接続端子(D-Sub9ピン)、CONTROLLER IN(D-Sub9ピン)、アナログ出力(XLR)×8、アナログ入力(XLR)×4


DBX
Drive Rack 480
280,000円

SPECIFICATIONS

■入力インピーダンス/40kΩ
■出力インピーダンス/120Ω
■最大入力レベル/+30dB
■最大出力レベル/+26dBu
■AD/DA/24ビット
■ダイナミック・レンジ/112dB以上
■インターチャンネル・クロストローク/<−85dB@1kHz
■クロストローク入出力/>+80dB
■プリEQ/31バンド・グラフィックEQ、9バンド・パラメトリックEQ
■ノッチ・フィルター/各チャンネル1〜5、合計10個使用可能
■プリディレイ/680msec/channel
■ポストEQ/パラメトリック・タイプ、9バンドEQ
■ポストディレイ/170msec
■サンプリング周波数/48kHz
■全高調波歪率/0.002%(+4dBu/1kHz)
■周波数特性/20Hz〜20kHz
■外形寸法/283(W)×88(H)×483(D)mm
■重量/4.89kg