スマート・メディアを利用した超小型/多機能レコーディング・マシン

ZOOMPS-02

ZOOM社は、低価格で使えるマシンを続々輩出していて、私もフロア・タイプのマルチエフェクターZOOM Player 2100を愛用している。今回の新製品PS-02は、Palmtop Studioという愛称の付いた"手のひらサイズのスタジオ"で、マルチエフェクター、ドラム+ベース・マシン、デジタル・マルチレコーダーが一体になったものだ。とにかく驚くのはその小ささと軽さで、ほぼポータブルMDのサイズ、重量はわずか140gだ。普段から小さく軽いマシンに目がない私としては、これは大きな事件で、注目しないわけにはいかない。

電池駆動も可能な
シンプルでコンパクトな設計


PS-02の実物は、写真で見た印象よりはるかに小さく、重量もACアダプターの方が重いほど。また単4電池4本でも駆動でき、アルカリ電池で連続4時間の使用が可能だ。こうした"小さ過ぎる"マシンの弱点としては、ケーブル類を接続すると引きずられて机から落下することだが、PS-02は底面に4本の脚があり、その先のスポンジでテーブルに密着するようになっているので簡単にすべることはない。なお、脱着できるプラスチックのベルト・クリップも同梱されている。フロント/リア・パネルの構成は写真に見る通りで、左サイドはボリューム、スマート・メディア用のスロット、右サイドは電源とACアダプター端子となっている。なお、データ用のスマート・メディアは現在8〜64MBのものまで対応していて、今後128MBにも対応予定とのことだ。

ギター・アンプ・モデリングを含む
充実のエフェクト・パラメーター


まず、エレキギターを接続し、プリセットのエフェクトを聴いてみた。エフェクトのパッチはプリセット60/ユーザー60の計120で、フロント・パネル下端のパッチ・キーでいつでも切り替えられる。プリセット1〜14と38〜60までがエレキギター用プログラムで、ZOOMがGM-200などで培ってきたVAMS(ギター・アンプのモデリング技術)の効果は大きく、歪みや軽いクランチ・サウンドはよくできている。また、エフェクトのパラメーターのうち代表的なもの3つが液晶下の3つのスライダーに割り振られていて、イージー・エディットがすぐできるようになっている。さらにバイパス・ボタンを軽く押すとエフェクトがバイパスされチューナー表示になり、しばらく押し続けると出力自体がミュートされる。プリセットにはベース、マイク、アコギ/インスト、キーボード、ミックス・ダウンといったさまざまな用途向けのものがあるので、これらも試してみた。まず、ベース用のプリセットはなかなかいい感じ。特にプリセット19のB-SLAPはコンプがほどよく効き、低音がよく出ていて2フィンガーにも適している。次に、ダイナミック・マイクを直接入力してみた。なるほど、ギターに比べゲインが上げてあるのでレベル的に問題はない。1人遊び用のディレイ・ホールドやロボット・ボイスも面白い。また、MICボタンを押すと赤く点灯し、PS-02の内蔵マイクも使える。これは無指向性のコンデンサー・マイクで、低音はないが素直な音という印象だった。さらに、アコギ/インスト用のプログラムにエレクトリック・バイオリンを直接入力してみた。ふむ、これも問題なし。ミックス・ダウン用のエフェクトについては後述することにして、次にエフェクト・エディットを試してみた。PS-02のエフェクトは、下図のような流れになっている。カーソルでEFFECTを選び、EDITキーでエディット・モードに入る。後は、通常のマルチエフェクターと同じようなやり方で、それぞれのモジュールで使うエフェクトのタイプを選び、ディスプレイでパラメーターを確認しながらエディットしていく。パラメーターの種類は各モジュールで絞り込まれ、スライダーでエディットできるので、設定はかなりスピーディに行える。CABはキャビネットのシミュレーター(DRIVEモジュールでアンプのモデリングを使っているときは使用不可)、REVにはリバーブのほかにディレイやルーム・シミュレーターが含まれている。モジュールの中で面白いのは、やはりDRIVEモジュールの中のアンプ・モデリングだ。J-StationやPodのような本格派ではないが、どれも使える音だし独特のキャラクターがある。軽いクランチ・サウンドなどは以前のエフェクターでは得られなかった音質だ。なお、このモジュールの中にはマイク用に入力感度を調整し本体もマイクを使用可にするMICPREや、マスタリング用にEQとリバーブを調整するMIXEFXなども含まれている。また、MODULAION系も面白く、TREMOLO、PITCH、VIBRATO、STEPなどは独特の質感だ。

ステレオのリズム・パターンには
豊富なプリセットを用意


PSー02には、あらかじめ6種類のドラム・キット(ステレオ)と5種類のベースの音色が内蔵されている(図②)。ユーザーがオリジナル・パターンを作る機能はなく、既にプリセットされている多くのリズム・パターンの中から使いたいものを選択し、順番に並べてリズム・トラックを作るという仕組みだ。ここで注意が必要なのは、単純にリズム・パターンを聴くだけのモードがなく、事前にソングを組まないとリズムが鳴らない点だが、これは簡単な2小節くらいのソングを作っておき、後でそのテンポやパターン、ドラム・キット等を変更すればよい。リズム・トラックを作るには、まず1曲分の小節数を入力し、途中に小節単位でパターン・チェンジ情報を入力する。曲中でのテンポ・チェンジはできない。▲図② ドラム・キットとベース・プログラム さて、ベース・パターンはリズム・パターンに合わせてプリセットされている。組み上がったリズム・トラックに対し、拍単位でコード・チェンジを入力していくことによって、自動的に曲にフィットしたベース・パターンが出来上がるわけだ。ベースの音色のバリエーションも順当なところだが、こうした自動伴奏機能の常としてキッチュになることは否めない。どちらかといえば、自動演奏のベース・パターンの音量を0にし、次に述べるオーディオ・トラックの1つをベースに当てて手弾きするほうが現実的だろう。

バウンス機能に優れた3トラックの
デジタル・レコーダー部


デジタル・レコーダー部はトラック数がモノラルで3だが、各トラックごとに10のテイクが録音でき、再生時に選択する。録音時にHF(ハイファイ)とLG(ロング:音質は落ちるが、録音時間は約2倍)の音質を選ぶことができ、これは同じ曲の中でもトラックやテイクによって変えることが可能。HFは31.25kHzのサンプリング周波数だと思われるが、音色は素直でフラット、高域もちゃんとある。可能な録音時間はスマート・メディアの容量次第だが、8MBのカードでは1トラックに換算してHFモードで3分12秒、LGモードで6分24秒になる。64MBだとHFで33分33秒まで録音時間が伸び、1枚のカードに複数のソングを録音することも現実的になる。録音の手順としては、まずソングを選択し、次にトラックを指定して録音する。元ソングのリズム・トラックの小節数が少なくてもリピート再生をオンにしておけばスマート・メディアのメモリーの許す限り録音可能。録音ソースは、インプット/AUXイン両者のミックスが選択でき、録音時に入力レベルも調節できる。インプットや内蔵マイクを使う場合は、もちろんエフェクトのかけ録りができ、録音ソースにAUXインまたはミックスを選び録音トラックで"23"を選択すれば、ステレオ録音も行える(再生時にトラック2と3のパンを左右に振り切ること)。また、マイクを使って録音する場合は、UTILITYモードの中でマイクのゲイン設定ができ、これで内蔵マイクを使う場合でもオン/オフマイクの調整が行える。また、再生中にポイントを指定することでオート・パンチ・イン/アウトも可能。録音後、各トラックごとにパン/ボリュームも設定できる。録音後のエディット機能としては、不要なテイクのイレースと、複数のトラックをまとめるバウンスの2つがある。バウンス先のテイクは元のテイクに上書きすることも、新しいトラックに移すことも可能(図③)。バウンスしたトラックは元トラックの演奏における実時間となり、バウンス元にHFモードのトラックが1つでもあるとHFモードになる。デジタルのバウンスということで音の劣化が少なく、ボリュームやパン(2トラックにバウンスする場合)の設定もバウンスに反映されるので、空きメモリーに注意してバウンスしていけばかなり厚いサウンドも得られる。▲図③ バウンスの使用例 こうして作成した曲に最終段階でミックス・ダウン用のエフェクトをかけることもできる。といっても、低域と高域のカット/ブーストと、全体のリバーブ量の調整程度だが、印象は随分と変わる。このエフェクトは、ほかと異なりドラム、ベースのリズム・トラックにも有効だ。

新たな音色やリズム・パターンは
Webからダウンロード可能に


UTILITYモードでは前述したマイク・ゲインの調節のほか、再生/録音時のプリカウント、パンチ・イン時のプリロール、電池駆動時のバック・ライトの調整、スマート・メディアからのロードやフォーマットが行える。ところで、PS-02に付属するスマート・メディアには各種システム・ファイルのほかに、リズム・トラック用のドラムとベースの音色ファイル、プリセットのソング/パターン/エフェクトのパッチ、デモ・ソングのデータなどが記録されている(電源投入時に読み込むので、起動に20秒ほどかかる)。PS-02で新たにスマート・メディアをフォーマットするとオーディオ・データ以外がコピーされるので起動用としても使えるようになる。さらに、これらのデータはスマート・メディア対応のカード・リーダーとコンピューターによってバックアップもでき、ZOOMのWebサイトでは、これらのファイルの無償ダウンロードも可能で、将来的にはドラムやベースの音色、リズム・パターンなどの新しいバリエーションも公開していく予定だという。PS-02は、未来のデジタル・レコーダーの可能性を感じさせてくれるモバイル・ギアだ。長所としては非常にコンパクトなサイズと重量、エフェクトの音の良さ、多彩な入力対応(特に内蔵マイク)、録音の音質の良さ(スマート・メディアに録音するため、本体のノイズが無い)、マルチトラックとバウンス機能などが挙げられる。ちょっとしたデモやアイディアのメモ用には最適で、これでコンパクトなカセット4トラック・レコーダーの居場所は無くなるのではないかと感じた。一方、弱点は何と言ってもスマート・メディアの記憶容量が小さく、メディアの価格が高いことだ。128MBに対応すれば1時間以上の録音が可能になるが、単価は2万円を超えると思われる。また、個人的にはリズム・パターンをより現代的な使えるものにしてほしいし、ベースの自動伴奏機能は必要ないとも思う。一番欲しいのはパソコン用のPS-02エディット・ソフトで、WAVファイルをリズム・パターンとしてスマート・メディアに取り込めるようになるのが望ましいのだが......。
ZOOM
PS-02
35,000円

SPECIFICATIONS

■サンプリング・レート/31.25kHz
■AD変換/20ビット、64倍オーバー・サンプリング
■DA変換/20ビット、8倍オーバー・サンプリング
■DSP/ZFx-2(内部処理24ビット)
■リズム・パターン数/201
■エフェクト・パッチ数/プリセット60、ユーザー60
■エフェクト・モジュール数/6
■エフェクト数/50
■入出力端子/アナログ・イン(フォーン/Guitar Gain Low/High、Mic Gain Low/Highの各入力レベルに対応)、Auxイン(ステレオ・ミニ)、アナログ・アウト(TRSフォーン)、ヘッドフォン(ステレオ・ミニ)
■内蔵マイク/無指向性コンデンサー・マイク
■電源/ACアダプター(付属)、単四乾電池×4(アルカリ電池使用時、連続4時間稼動)
■外形寸法/85(W)×90(D)×35(H)mm
■重量/140g(電池含まず)