Macintoshとの連携が考慮された24ビット対応HDR

TASCAMMX-2424

TASCAM MX-2424は、24ビット録音対応の24トラック・ハード・ディスク・レコーダーです。読者の皆さんは、以前このページで私が紹介した、同社のMMR-8というハード・ディスク・レコーダーを覚えているでしょうか。MMR-8はリムーバブル・ハード・ディスクを使った8トラックのレコーダーでしたが、トラック数や同期関係の機能の充実ぶりから、どちらかというとポストプロ向けの製品という印象でした。それに対してこのMX-2424は、一般的なマルチトラック録音での使用を前提とした設計がなされているようです。MX-2424とMMR-8ではコンセプトが違うので比較することは難しいですが、同期関連の機能など共通する部分もあるので、今回は両者の比較などを交えながら説明していきたいと思います。

999もの録音トラックを装備
最大32台のシステムを構築可能


まず本機の概要を見ていきましょう。サンプリング周波数は44.1/48kHzのほかに、それぞれのサンプリング周波数に対して、映像用途のためのプルアップ/プルダウン機能も用意されています。さらに、今後のバージョン・アップで88.2/96kHzにも対応する予定とのこと(ただし88.2/96kHz時は12トラック仕様となります)。ビット数は16/24ビットの2つから選択可能です。


トラック数は24ですが、本機には975のバーチャル・トラックが用意されています。つまり本機は1プロジェクト(1曲)につき、最大999トラックまで使用することができ、このうちの24トラックを選択して物理トラックで再生するわけです。テイクをキープしたい場合なども、トラック数を心配することはまずないでしょう。


ハード・ディスクはあらかじめ9GBのものを内蔵し、48kHz/24ビット/24トラック時で約43分の録音が可能です。ハード・ディスクのインターフェースにはUltra 2 Wide(最大転送レート80MB/sec)のSCSIを採用しており、これによって、より高速かつ安定したデータの書き込みと読み込みを実現しています。また、外部のUltra 2 Wide機器を接続する68ピン・コネクターを装備しているので、外付けハード・ディスクなどを接続することができます。ちなみに、変換ケーブルを使えばUltra 2 Wide以外のSCSI機器を接続することも可能です。データのバックアップ・メディアに関しては、今のところDVD-RAMとTRAVAN社製の10GBテープ・ドライブの2種類ですが、今後のバージョン・アップで対応機器は増えていくでしょう。


なお、本機を複数台使用する場合、TL-Busというコネクターで接続し、最大32台(768トラック!)をサンプル精度で同期走行させることができます。また、オプションのリモート・コントロール・ユニットRC-2424(248,000円)を使えば、本機を最大6台まで同時に制御可能。RC-2424は機能的には本体のフロント・パネル部からLEDメーターを取り除いた構成になっていますが、マクロ・キーという複数のキー操作を記憶し、ワン・アクションで実行できるファンクション・コントロールを装備しています。


ハード・ディスクはHFS標準形式
オーディオ・ファイルはSDIIを採用


本機の特徴として、Macintoshベースのアプリケーションとの互換性が挙げられます。ハード・ディスクのフォーマットにはMacintoshで使用されているHFS標準フォーマットを採用しているので、Macintoshでフォーマットしたハード・ディスクを本機でそのまま使用することができます。逆に、本機でフォーマットしたハード・ディスクも、MacintoshでFWB Hard Disk Tool Kitを使用し、ドライバーを書き込むことによってデスクトップにマウントすることも可能です。


その際、本機はオーディオ・ファイル形式にSDIIを採用しているため、ほとんどのアプリケーションでオーディオ・ファイルをインポートすることができます。さらに、本機はSDIIのタイム・スタンプという機能を利用し、オーディオ・ファイルに対して常に絶対時間を記録するようになっています。この機能と後述するテープ・モードを併用することで、マルチトラックの素材でも、本機のデータをSDIIのタイム・スタンプに対応している他のアプリケーション上で正確に再現することが可能になっているのです。


また、本機にはEthernetポートが装備されています。これはMacintoshと接続し、ViewNet MXというソフトを使って本機をコントロールするためのもの。このソフトは製品には付属せず、TASCAMのWWWページからダウンロードできます。


オーディオのマルチI/Oは
用途に合わせてオプション対応


次に外観を見てみましょう。フロント・パネルにはレベル・メーターやトラック、トランスポート、ロケート等のコントロール・キー、編集に使用するコマンド・キー、SCRUB/SHUTLホイールが整然と配列されています。左下には5.25インチの拡張スロットがあり、内蔵ハード・ディスクの増設や、リムーバブル・ドライブを内蔵することが可能です。右側にはスマート・メディアのスロットがありますが、これはフラッシュROMに記録された本機のOSをアップデートしたり、バックアップするために使用します。


リア・パネルにはアナログ/デジタル入出力ボードのスロットや、AES/EBUとS/P DIFの2chデジタルIN/OUT、同期関連の入出力端子、MIDI端子などが並んでいます。本機の場合、オーディオ入出力は2つの2chデジタルIN/OUT以外、すべてオプションとなっています。アナログ入出力ボードIF-AN24(248,000円)は24ビットのAD/DAを搭載し、D-Sub25ピンのマルチケーブルを使ってコンソール等と接続します。デジタル入出力ボードはTDIF(IF-TD24/80,000円)、ADAT(IF-AD24/80,000円)、AES/EBU(IF-AE24/198,000円)の3種類が用意されており、使用環境に応じて選択できるようになっています。なお、いずれのスロットも24ch単位での対応となるため、1つのスロットに異なるフォーマットのボードをインストールすることはできません。


非破壊/破壊モードを選択可能
音質は高域の伸びが好印象


では実際に音を出してみましょう。デジタル・マグネット・スタジオに本機を持ち込み、YAMAHA 02RやDIGIDESIGN ProToolsと組み合わせてチェックしました。まず録音するためのセットアップを行います。最初に新規のプロジェクトを作り、サンプリング周波数やビット数、リファレンス・クロック等をセットアップ・パラメーターで選択。そして、レコード・モードを決定します。


本機にはNon-DestructiveとTL-Tapeという2つのレコード・モードがあります。Non-Destructiveはデータ非破壊のモードで、録音したオーディオ・データが書き換えられることはありません。一方TL-Tapeは、いわゆるデータ破壊のモードで、例えばパンチ・イン/アウトを行った場合、元のオーディオ・データに対してその部分を消去し、書き込む形になります。従ってTL-TapeモードではUNDOなどの操作できなくなります。


TL-Tapeモードの利点としては、ハード・ディスクの容量を節約できることと、前述したMacintoshベースのアプリケーションへのデータ・コンバートが容易であるということが挙げられます。ただし、ハード・ディスク・レコーディングの利点であるデータ非破壊録音ができないため、通常はNon-Destructiveモードで作業する方が無難でしょう。Non-Destructiveモードで録音したプロジェクトを後からTL-Tapeモードのプロジェクトに変換することも可能です。


セットアップができたら、録音して音質をチェックしましょう。MMR-8ではレコーダー部は24ビットでしたが、AD/DAは20ビットでした。この点が残念だったのですが、本機のオプションのアナログ入出力ボードIF-AN24のAD/DAは24ビット仕様になっています。CDやProToolsの素材を使ってAD/DAの音を聴いてみましたが、良い意味で今までの同社の音とは違った印象を受けました。これまでの同社製品に共通していた低域から中低域の再現性はそのままに、高域の伸びが加わった印象。派手になったというわけではないですが、より自然に高域成分が再生されている感じです。AD/DAが24ビットになったからという単純な理由ではないと思いますが、この変化は音質の部分で今まで以上に使いやすくなったと思います。


録音/編集時の操作性は快適
同期機能も充実している


レコーダーとしての操作性も分かりやすく、テープ式のMTRを扱ったことのある人なら違和感なく操作することができるでしょう。ハード・ディスク・レコーダーの苦手とするリアルタイムのパンチ・イン/アウトも音が途切れたり、タイミングがコケるといったこともなく、非常に快適です。ループ・レコーディングにも対応しており、自動的にバーチャル・トラックを作成し、テイクをキープするようになっています。


編集に関しては必要と思われるすべてのコマンドに加え、リバースなどの特殊なコマンドも装備されています。曲全体のサイズ編集やボーカル・トラックのエディットなど、どのような編集にも対応できるでしょう。編集の方法も簡単で、IN/OUTスイッチに編集ポイントを登録してから編集したいトラックを選択し、目的のコマンドを実行するだけ。編集ポイントは数値で登録することも可能ですが、再生しながらIN/OUTスイッチを押して登録することができるので、大体のポイントをこの方法で登録し、細かくサブフレーム単位で数値を追い込んでいくと効率がいいと思います。


最後に同期関係の機能を見てみましょう。リア・パネルの入出力端子を見ても分かるように、本機の同期機能はかなり充実した仕様になっています。MMR-8にはTIMELINE社のLyncs2シンクロナイザーが搭載されていましたが、本機もフロント・パネルのTIMELINEのロゴで分かるように、シンクロナイザー部分にその技術が生かされているようです。


リファレンス・クロックは内部のほかにボード・スロットや2chデジタルINからのクロック、外部からのワード・クロック、ビデオ・シンク信号に対応しています。タイム・コード・チェイス時はLTCからクロックを生成することもできるので、アナログ・レコーダーのワウ/フラッターに対しても追従し、シンクがずれてしまうことはありません。精度的にも全く問題はなく、シビアなプロの現場でも十分通用するレベルだと思います。


デジタルMTRがどんどん低価格になっていく中で、本機の648,000円という価格は高く感じるかもしれません。しかし、音質も含めて全体がしっかりと作られており、信頼性の高いレコーダーという意味では妥当な価格設定だと思います。さらに、OSのアップグレードによる機能/操作性の向上や、88.2/96kHzへの対応など将来性も期待できるので、気になる方は実際にチェックしてみてはいかがでしょうか。



▲MX-2424を最大6台まで同時に制御可能なリモート・コントロール・ユニットRC-2424



▲AF-AN24を装着した状態のリア・パネル。一番上がAF-AN24で、アナログ出力(D-Sub25ピン)×3、アナログ入力(D-Sub25ピン)×3を装備。その下はデジタル入出力オプション用スロット。さらに下は左からタイム・コードIN/OUT/THRU(フォーン)、RC-2424を接続するリモート・コントロール端子(D-Sub9ピン)、MIDI IN/OUT/THRU、S/P DIF入出力(RCAピン)、AES/EBU入出力(XLR)、最下段左からフット・スイッチ端子(フォーン)、ワード・クロックIN/OUT/THRU(BNC)、複数台のMX-2424やTL-Sync対応機器を接続するTL BUS入出力(D-Sub9ピン)、ビデオ・シンク(BNC)、Ethernet(100base-T/RJ-45)、SCSI(Ultra 2 Wide/D-Sub68ピン)。なお、デジタル入出力オプションの端子は、AF-TD24がTDIF入出力(D-Sub25ピン)×3、AF-AE24がAES/EBU入出力(D-Sub25ピン)×3、AF-AD24がADAT(オプティカル)入出力×3


TASCAM
MX-2424
648,000円

SPECIFICATIONS

■同時録音・再生トラック数/24(バーチャル・トラック975)
■サンプリング周波数/44.1/48kHz(88.2/96kHzはバージョン・アップで対応予定)※いずれもプルアップ/プルダウン可能
■量子化ビット数/16/24ビット
■ピッチ・コントロール/±12.5%(0.1%単位)
■外形寸法/482(W)×176(H)×445(D)mm
■重量/14kg
●IF-AN24搭載時
■AD/DA/24ビット
■周波数特性/20Hz〜20kHz±0.2dB
■ダイナミック・レンジ/106dB以上(20Hz〜20kHz, A-WTD)
■SN比/106dB以上(10Hz〜22kHz, A-WTD)
■全高調波歪率/0.04%以下(1kHz, クリップ・レベルの0.5dB下)