超低価格でベーシックを押さえたマルチエフェクト・プロセッサー

BEHRINGERVirtualizer Pro DSP1000P

BEHRINGERと言えば、コンプなどのダイナミクス系の製品を自宅録音環境などで多く見かける。同社の製品はアマチュアにはうれしい超低価格ながらもパラメーターは本格的で、ラフな録音での鋭いピークもしっかり抑えてくれるといった点が魅力だろう。今回ご紹介するDSP1000Pは、特にミックス・ダウン時に重宝するベーシックな空間系エフェクター。モジュレーション系のDSP1200Pなどと共にDSPシリーズとしてラインナップされたデジタル・プロセッサーだ。

バリエーション選択だけで
パラメーターの簡易設定が可能


"Virtualizer"という名前から特殊なシミュレーター系エフェクトを想像する人もいるかもしれないが、中身は空間系を中心としたベーシックなエフェクトだ。驚くのは価格からは信じられないくらい高級感溢れるシルバーのフロント・パネル。インプットLEDも8段階だ。さらにリア・パネルには−10dBVと+4dBuの入力切り替えも付いており、フォーン・ジャックに加えて何とXLRのバランス入出力(2イン/2アウト)も装備した本格仕様だ。このクラスにありがちなACアダプターが必要ないのもうれしい。


エフェクト・アルゴリズム数は32で、各種リバーブ、ディレイ、ピッチ・シフト、コーラス、フランジャー、トレモロなどの空間系がメイン。特殊なところではボコーダー、ロータリー・スピーカーも用意されている。またディレイ&リバーブやコーラス&リバーブといった複合タイプに加え、ディレイ/リバーブの形の左右セパレート・タイプも選択でき、ステレオ仕様のエンジン(L/Rエンジン)をフル活用できるようになっている。


個人的にはリバーブ類は長めよりも短めのルーム系が好印象。トレモロやコーラス系も雰囲気があって結構いい感じだ。単純なディレイ系は高音質過ぎてなじめない感じだが、一番気に入ったのがアルゴリズム14番の"Vocal Distortion"。軽い歪みとディレイが組み合わさった魅力的なプログラムだ。僕だったら常にこれ専用で使っちゃいそうなくらいにダントツであった。


さらにそれぞれのアルゴリスムには32のバリエーションが用意され、この選択だけでも大抵は事足りてしまう。つまり自分の目的のエフェクトが決まっている場合"まずEFFECTボタンを押してフロント・パネルの表を見ながらアルゴリズム番号を決定。そしてVARIATIONを押してピッタリの状態を探す"といったシンプルな流れになる。素早く幾つかの結果を得られるのがいい。


しかしそれでも希望の感じが得られず、さらなるエディットがしたければ、パラメーター表(本体上部にも印刷あり)を見ながらEDIT A/Bボタンを押してダイヤルで設定する。エディット可能なパラメーターはL/RボタンのそれぞれのエンジンにA/B2つが用意されており、合わせて2つ〜4つの値が変更可能だ。実際は既にバリエーション側で大きな変化が得られているので、こちらでは細かいアジャストだけを行えばいい。ただし困るのがディレイ・タイムの設定で、素早く正確な時間を入れるにはマニュアル内の表を参照する必要がある。まあこのクラスのエフェクターは大抵数値入力できないから、表が添付してあるだけでも良心的かも(ただし最小単位は5msecまで)。


また実用的なのがプログラムごとにメモリー可能なHI/LOのEQ。この微調整ができるとミックス時にはとても重宝するのだ。例えば太めの素材にかけるリバーブなどはローカットすることが多いし、逆に高域が多めの素材ならハイカットが必要。専用ボタンでEQに直接アクセスできるのは大変便利だ。上記の高音質のディレイ・プログラムもここでハイカットすればだいぶ使える音になってくれた。


MIDI端子経由でデータ保存や
各種コントロールも可能


これらエディットした自作プログラムは100のユーザー・メモリーに保存可能だ。ただしプリセット上に上書きしなければならず(つまり合計で100)、名前も付けられないので、何番を消去するのかをあらかじめチェックしておこう。


MIDIはIN/OUT/THRU端子を装備。システム・エクスクルーシブでの一括データ保存はもちろん、任意のプログラムだけをダンプして外部シーケンサーに保存/呼び出しすることも可能だ。なお同社のWebページ(http://www.behringer.de/)ではWindows版のコントロール・ソフト(執筆段階ではベータ版)がフリー・ダウンロードできる。これを使えばMIDI経由でエフェクト・パラメーターをグラフィカルにエディットできるのでWindowsユーザーなら積極的に利用したい。本機のように価格を抑えるためにツマミ類を減らし本体でアクセスできる範囲が狭くなった代わりに、フリー・ソフトでMIDIによる本格エディットの余地を残すというスタイルは最近多い。これがユーザーとしては実にありがたく、購入に踏み切る大きなきっかけにもなっていると思う。


最後に注意点を挙げてみると、まずアウトプットにダイレクト音をミックスするかどうかの切り替えが少し特殊なので注意。EQのHIとLOのキーを同時に2秒以上押し続けることで、切り替えることが可能なのだ。これを間違えると通常のセンド&リターンで使った場合に"単にリバーブをかけただけなのに位相が変になった"ってことになってしまうので注意しよう。またファクトリー・プリセットの番号を選んだだけではそれが何のアルゴリズムなのか見えていないので、添付のプリセット表を一覧したくなるケースが多い。これを無くしてしまうと結構不便なことになるだろう。自分なりに"10〜30番台はリバーブ系"といったジャンル分けをしておくと探しやすいかも。


本機の中身はごくベーシックなエフェクトがほとんどで、国産の豪華な上級マルチエフェクト機と比較すると物足りない人も多いだろう。しかし通常のミックス作業ではサウンドをまとめるのに"メイン・リバーブと単純なコーラス1台"といったシンプルな処理で済むケースが多いので、とにかく超低価格で基本を押さえた本機は、自宅録音の強い味方と言えよう。



BEHRINGER
Virtualizer Pro DSP1000P
19,900円

SPECIFICATIONS

■プリセット数/100
■アナログ入出力端子/XLR、フォーン
■入力インピーダンス/60Ω(バランス)、30Ω(アンバランス)
■出力インピーダンス/60Ω(バランス)、30Ω(アンバランス)
■AD/DA変換/20ビット、64/128倍オーバー・サンプリング
■サンプリング周波数/46.875kHz
■MIDI端子/IN/OUT/THRU
■外形寸法/483(W)X45(H)X190(D)mm
■重量/2kg