安価で個性的な音が魅力のステレオ真空管マイク・プリアンプ

PRESONUSBlue Tube

コンパクトなハーフ・ラック・タイプの2chコンプレッサーBlue Maxを発売しているPRESONUSから、ハーフ・ラック・シリーズの第2弾として真空管を使用したステレオ仕様のマイク・プリアンプ、BlueTubeが発売されました。価格も38,000円(!)とリーズナブルな設定になっていますが、その実力はどんなものでしょうか。

XLR/フォーンが共に入力可能な
コンボ・タイプ端子を使用


PRESONUSはアメリカにある比較的新しいメーカーです。今回紹介するハーフ・ラック・タイプのものや、8chのマイクプリ/リミッター/エンハンサーと8chのADATオプティカル、S/P DIFのデジタル・アウトを組み合わせたDigiMaxなど、数々の特徴的な製品を送り出しています。また同社のラインナップを見ていると、デジタル・レコーディング全盛の時代に、アナログ・サウンドをうまく融合させようという姿勢もよく感じられます。そういう意味では、本機はデジタル・アウトなども装備していませんが、真空管を使用している辺りに、デジタル機器とアナログ機器間における本機の位置付けが見えるような気がします。


冒頭でも述べましたが、このBlueTubeは真空管を使用したステレオ仕様のマイク・プリアンプです。真空管はおなじみの12AX7を使用しており、入力段にはデュアル・サーボ・ゲインを採用しています。外見的にはツマミの配列なども含め、先に発売されたBlueMaxにかなり近いようです。これらの2台をラック・マウントすれば、ちょうど1Uサイズのマイクプリ+コンプ/リミッターのようなルックスになるのではないでしょうか。また電源はACアダプターを使用するタイプで、本体に電源を搭載していないため、全体の重量は1.8kgと軽くなっています。


マイクプリとしての機能は、フロント・パネルを見て分かるようにひと通りそろっています。左右には各チャンネルの入力端子があり、その間に真空管の歪みの量を決めるDRIVE、GAINツマミと、位相、PAD(−20dB)のスイッチがそれぞれのチャンネルごとに用意されています。レベル・モニター用のLEDも各チャンネルごとに独立して付いており、視認性もハーフ・ラック・サイズということを考えると十分だと言えるでしょう。


中央にはファンタム・スイッチがありますが、これは左右のチャンネルで共通となっており、独立してのON/OFFは不可能になっています。入力端子にはXLRとTRSフォーンの入力を1つのコネクターで可能にした、NEUTRIK製のコンボ・タイプが使用されています。また、本機の入力部はハイ・インピーダンスにも対応しているので、ギターなどインピーダンスの高い機器によるフォーン入力の場合でも、DIなどを使わず直接接続することができます。


リア・パネルにはXLR(バランス)、フォーン(アンバランス)の出力端子がそれぞれのチャンネルごとに独立して装備されています。よって本機の後に接続する機器に合わせて使い分けができるようになっていて便利です。


良く歪むDRIVEにより
パワー感のある音作りができる


では、実際に音質をチェックしていきましょう。今回もマグネット・スタジオに本機を持ち込み、SSLコンソールのヘッド・アンプや普段自分が使っているマイクプリと比較しながらチェックを行いました。


初めはアコースティック・ピアノにコンデンサー・マイクを立てて本機に入力し、そのアウトプットをコンソールのフェーダーに直接接続して聴いてみたのですが、フェーダーを上げてまず感心したことは、S/Nが良いことです。カタログに記載されているスペック表をみても、120dB以上となかなかの数値になっています。実際の印象も数値通りといった感じでしょうか。音質はひとことで表すと個性的というか、本機特有の特徴を持った音だと思います。具体的に言うと、低域はタイトで締まった印象ですが、高域に関してはちょっと足りないように感じます。しかし、中高域がしっかりしているので、オケの中でもヌケが悪く感じるといったことはないでしょう。特にミッド・レンジが充実しているので、全体的な印象としては太い音に感じられます。この辺りは真空管を使用している特徴が表れているようです。


次は、ボーカルでチェックしてみました。若干レンジが狭いかな?と思わせるところがあるのですが、ボーカルに使用した場合、ミッド・レンジ部分のちょっと張り出したところがオケ中でグッと前に出てくるので、逆に音圧感が出て良い場合もあるのではないかと思います。もしヌケが悪いと感じたとしても、若干のEQ補正で十分対処できるレベルだと言えるでしょう。


本機の音質を決定する重要な部分にDRIVEツマミがあります。簡単に言ってしまうと歪みの量を調整するツマミですが、これがかなりよく歪んでくれます。音色的には全く違いますが、ギター・アンプ並みに歪ませることが可能です。マニュアルにはギターやブルース・ハープの録音にとても有効と書かれていましたが、なるほどという感じがしました。一般的な使い方としては、歪むか歪まないかの微妙な位置にセッティングして余分なピークを削り、全体的な音圧感を上げるというのが効果的だと思います。実際にそのセッティングで試してみたのですが、その通りパワー感のある音になりました。ただ少し気になったのは、歪みの細かい調整がやりにくいところです。ツマミが9時ぐらいで既に歪みっぽくなり、12時の辺りでは完全に歪んだ状態の音になってしまいます。エフェクティブな音にするときは良いのですが、微妙なコントロールが必要なことも多々あると思いますので、これは改善した方が良いのではないでしょうか。


本機の音質などから考えると、オールマイティーなマイクプリとは言えませんが、用途をはっきりさせればとても個性的で魅力のある音だと思います。また、本機は単なるマイクプリというだけでなく、1つのエフェクターとしても考えることができるでしょう。すでにマイクプリを持っていて、2台目として別のキャラクターが欲しい方にお薦めします。



PRESONUS
Blue Tube
38,000円

SPECIFICATIONS

■THD+Noise(Unweighted)/0.05%@0dBTubeDrive、10%@30dBTubeDrive
■入力インピーダンス/5kΩ(XLR)、1MΩ(Hi-Zフォーン)
■出力インピーダンス/51Ω(XLRバランス、TRSフォーン・アンバランス)
■SN比/120dB以上
■残留ノイズ/−94dBu
■外形寸法/203(W)×44(H)×127(D)mm
■重量/1.8kg