独自の高電圧回路で歪みを生みだす真空管エフェクター

METASONIXTS-21

今回紹介するMETASONIX TS-21は、はっきり言って、スペックやファンクションを論じるエフェクターではない。好きか嫌いか? 使えるか使えないか? 完全に趣味の領域の製品だ。そういった意味では、ライバルがいない孤高の製品と言えるだろう。基本的にはディストーション、モジュレーター、オート・パンなどの機能と発振器が一体化したようなものなのだが、従来の製品のように目的意識をもってコントロールすることは不可能に近い。換言すれば使用目的も特定できず、出たとこ勝負で使ってみるしかないといった類のモノなのだ。リング・モジュレーターなどもそうしたジャンルに属するエフェクターの1つだが、本機もまた異様なサウンドで、この手のサウンドが欲しい人には垂涎ものなのだろうが、逆にピュアな音楽や生楽器を主体とする人には、全くお薦めできない。いずれにしても、このレビューを読んで買う買わないを判断していただくわけにはいかないくらい、個性のあるモノだ。機会があれば、ぜひとも自分の耳で聴いてみていただきたい。

入力ジャック、ノブ、スイッチ類は
すべてフロント・パネルにレイアウト


さて、とりあえず外観から攻めてみよう。入力のフォーン・ジャックはパネルにナットで締め付けられている。最近では珍しいくらいダイレクトな取り付け方法だ。スイッチ類もトグル・スイッチがフロント・パネルに直付けされている。コントロール・ノブも含めて、無骨といえばそれまでだが、音の印象と相まって何とも言えない感覚を覚える。96kHzだの24ビットなどと騒いでいる業界を完全に無視し、独自のサウンドを追い求めた本機に拍手を送るべきなのだろう。電源を除く、すべての入出力のコネクターおよびすべてのコントローラーはフロント・パネルにレイアウトされている。スタジオのラックにマウントして使うというよりも、楽器用のエフェクターとして考えられたのだろう。それはコネクターとしてフォーン・ジャックを採用していることや、ロー・レベルのラインに対応している点からもうかがえる。


独自のビーム・モジュラー回路による
個性的な歪みの真空管サウンド


さて、サウンドを聴いてみよう。電源を入れると、フロント・パネル中央の5センチもある大きな窓のなかにネオンのような灯りがゆっくりと灯る。ゆらゆらと揺らめきながら次第に安定してゆくさまは、レトロな雰囲気があり、かつエキサイティングだ。マニュアルに記された、安定するまでの数分の待ち時間に期待感が高まる。


音声信号を通してインプット・レベルを上げると、異常に歪んだ音が聴こえだす。平たく言えば、ディストーションなのだろう。しかしながらその歪み感は、今までにない新しいものだ。歪んだと言うより、割れたと言う方が近いかもしれない。あるいは発振音を合成している感じだ。真空管が用いられているということなのだが、従来の真空管によるディストーションやプリアンプなどは、古き良き時代の真空管サウンドを再現するという大前提の上に設計されていたように思う。しかし本機は、そうした郷愁的な再現とは一線を画した新しいものだ。恐らくはノーマルな回路設計の上に成り立つものではなく、斬新な回路を採用しているに違いない。果たして文字でこの音を伝えられるのだろうかと思うくらい、個性的なサウンドだ。


メーカーの資料に目を通すと、"音声信号を高電圧ビームに変換し、さらに高電圧バイアスで揺さぶることによって得られる前人未体験のサウンド"とあった。確かに何とも太く存在感のある音ではあるが、決して上品なサウンドではない。割れたような鋭く尖った音だ。


コントローラーが幾つかあるのだが、前述したように任意にコントロールできない。また設計意図もよく分からない。PWMにしても、シンセサイザーのそれと同じような意味は持っていないようだ。しかし、とにかくうねりとフィードバックを加えることはできるようになっているのだ。


プリアンプ部、モジュレーション回路などで構成されるプロセッサー・ブロックの最終段階には"ビーム・モジュラー"と呼ばれる、個性的な歪みを作り出す回路が搭載されている。そして、これらのサーキットが真空管により構成されており、鋭い中にも存在感のある太いサウンドが得られる仕組みだ。しかし音自体にリニアリティは無く、原音とかけ離れているという印象だ。


外部CV用インプットを使って
モジュラー・シンセと組み合わせる


アウトプットはステレオ・フォーン・ジャックになっており、変換ケーブルを用いれば、ステレオ・アウトも可能になっている。また、パンニングされるスピードをコントロールすることもできる。これだけのパネル面積を持ちながら、どうして2つのジャックを付けなかったのだろうと疑問に思いながらも、そうした細かいことがなぜか許されてしまうような不思議な魅力も感じる。


一方、外部からのCVで本機を調節するためのVCA CVインプットや、BEAM/PWM CVインプットも搭載されているので、モジュラー・シンセなどと組み合わせてみるのが、サウンド的にも用途としても適しているだろう。


ただ、設定によっては、全く音が出なくなったり、LFOの発するプツプツいうノイズだけが聴こえるようになったり、さらには唯一の表示であるセンターの灯りが消えてしまったりすることもあるので、使いこなすにはそれなりの粘りと根性が必要かもしれない。



METASONIX
TS-21
148,000円(受注生産)

SPECIFICATIONS

■アナログ入力/TRSフォーン×1
■アナログ出力/TRSフォーン×1
■BEAM/PWM CVインプット/TRSフォーン×1
■VCA CVインプット/TRSフォーン×1
■信号入力インピーダンス/250kΩ
■信号出力インピーダンス/10kΩ
■電源/AC120V/240V
■外形寸法/484(W)×88(H)×356(D)mm
■重量/8kg