さらに進化したデジタルMTR、VSシリーズのニュー・カマー2機種

ROLANDVS-890/VS-840GX

早いもので、レコーディングからエフェクトを含めたミキシングまでを1台でこなせるHDR界の革命児ROLAND VSシリーズが登場して4年、これまでにも時代のニーズに合わせたマイナー・バージョン・アップ・モデルが何機種も登場してきた。最近でも、OSのバージョン・アップ(ROLANDのWebサイトにてOSのバージョン・アップ・プログラムをフリー・ダウンロードできた)を行ったり、トレンドとも言えるAD/DA部の24ビット化など、常に進化を遂げているこのVSシリーズだが、ここにきて新たに2機種がバージョン・アップ。これでVSシリーズの現行モデルは、VS-1880、VSR-880、VS-890、VS-840GXの計4機種というラインナップになった。では新たに登場したこの2機種の特徴を前モデルと比較しながらチェックしてみよう。

VS-890はAD/DAコンバーターが
24ビットへとスペック・アップ


最初にVS-890とVS-840GXの位置付けを簡単に確認しておくと、VS-890は基本的にかつてのVS-880EXを改良強化したモデルである。いわばVSシリーズの中堅機種といったところか。VS-840GXの方はVS-840EXの後継機で、手軽にデジタル・レコーディングを楽しめる扱いやすさを追求したモデルと言える。では両機種の基本スペックを見ていこう。まずVS-890は、ボディ・サイズや入出力関係はVS-880EXと同じ。一見しての変更点と言えば、新モデル共通の黒を基調としたカラーリングと、パネル上にCD制作用のボタンが追加されたことくらい。好評の、暗闇でも見やすいバック・ライト付きLCD液晶をはじめ、初心者でもレコーディングからミックス・ダウンまでの流れを簡単に設定できるEZルーティングといった優れた各特徴はVS-880EXからそのまま受け継いでいる。トラック構成は、8トラック×8Vトラック×2バンクの合計128Vトラック。最大同時録音/再生トラックは8だが、サンプル・レートを48kHzに指定した場合のみ最大同時録音トラックは6に、バリピッチを使用すると最大同時録音トラックは4に制限される。VS-880EXとの最も大きな違いと言えばやはり、既にVS-1880、VSR-880で採用されていた24ビットAD/DAコンバーターの搭載であろう。本誌でVSR-880のレビューをした時にも書いたが、このAD/DA部は前述のVSシリーズはもちろん、同社のデジタル・ミキサーVMシリーズに搭載されているものと同じであり、その原音に忠実な音質は生楽器だけでなく電子楽器の録音にも威力を発揮する。本機のレコーディング・モードをVSRに指定すれば、24ビット・レゾリューションで録音/再生を行うことも可能になる。一方のVS-840GXは、カラーリングは同じだがボディ・サイズはVS-890に比べて一回り小さい(余談だがVS-880を担いでモバイル・レコーディングを行っていた僕にすれば、このサイズはさらに手軽に感じる)。入出力端子では、ギターなどをダイレクトに接続できるハイ・インピーダンス対応のギター・インプットも装備されている。トラック構成はVS-890と同じく8トラック×8Vトラック×2バンクの合計128Vトラック。フィジカル・フェーダーの数は7本で、トラック5/6と7/8がステレオ・ペアとなる。最大同時録音トラック数は4(最大同時再生は8)となっており、これは右側面の250MBの内蔵Zipドライブに直接ソング・データを書き込むためだろう。VS-840GXではこのZipドライブがカレント・ドライブとなるのだ。ちなみにこちらに用意されたAD/DAコンバーターは従来の20ビットのもの。レコーディング・モードはMT1、MT2、LV1、LV2の4種類。両機種のレコーディング・モードの違いによるHD、またはZipディスク消費量は表①を参照していただきたい。表①VS-890(左)とVS-840GX(右)の録音時間 

好評の"CDRモード"を装備し
CD制作が身近になったVS-890


VS-890では、既にVS-1880やVSR-880で好評の"CDRモード"が搭載されている。外部PC+CD-Rライターを使ってのオーディオCD作成が随分と身近になってきた昨今だが、本機でも別売のCDR-88RW-2(オープン・プライス)を接続することで、VSシステム内でのCD作成はもちろん、650MBの大容量でマルチトラック・データのバックアップも行える。また最初からCD作成が目的の場合は、レコーディング・モードを"CDR"に指定しておけばオーディオCD作成時にソング・データの変換作業が必要なくなる。これらCD作成に使用するパラメーター群に素早くたどり着けるような、パネル上への"CD-RWマスタリング・ボタン"の搭載もうれしいところだ。次に操作性だが、両機種ともオペレーティング・システムとフィジカル・コントロール部の扱いやすさには感心させられる。初代VS-880のころから培われてきた素晴らしいユーザー・インターフェースである。特にVS-840GXでは液晶上の各項目がアイコン風に表示されるのでさらに扱いやすい。HDRならではのトラックのコピー&ペーストや、波形のノンディストラクティブ編集、音質の劣化なしで行えるトラックのバウンシング/ミックス、999段階までさかのぼれるアンドゥ/リドゥ機能など、考えられる編集機能はすべてそろっているし、デジタル・ミキサー部、内蔵エフェクトなどのセッティングをシーンとして記憶できるほか、時間軸に沿ったフェーダーの動きなどを記憶できるオート・ミックス(VS-890のみ)など、文句の付けようがない。もちろんMMC、MTCにも対応し、外部シーケンサーとの同期や複数台のVSシリーズとの同期も簡単に行える。定評あるエフェクト部もリバーブやステレオ・ディレイといった定番はもちろん、ギター・アンプ・シミュレーターやボイス・トランスフォーマー、かつての名フランジャーSBF-325をシミュレートしたマニアックなものも用意され、プリセット数も膨大。またVS-890には、マスタリング時に最適なエフェクト・セットを集めた"マスタリング・ツールキット"も搭載されている。一般的なミックス・ダウンに最適に調整されたキットからクラブ・ミュージック作成に的を絞ったものまで多彩なラインナップだ。さらに強力なのはスピーカー・モデリング機能で、小型ラジオのスピーカーから大型パワード・モニターのシミュレートまで、合計11種類の特性を選択可能で、例えばCM曲やゲーム音楽の作成をするなら、14型テレビのスピーカー・シミュレートを参考にミックス・ダウンを行う、といった使い方もできるのだ。

VSシリーズの他機種の
データも扱える優れた互換性


VS-890では、他のVSシリーズとの互換が保たれているが、VS-880/VS-880EX/VS-840/VS-840EXで作成したソング・データをVS-890で新たに編集/録音するためには、取り込んだデータをVS-890用に変換する必要がある。VS-1680/VS-1880のデータは1〜8トラック分のみを扱うことができる(パーティション1GB時のみ)。ただし、VSR-880で作成したソングは変換不要。この2機種はソング・データ互換上の区別が無いからだ。その意味では本機VS-890はVSR-880のフィジカル・フェーダー版と言えるだろう。一方、VS-840GXはカレント・ドライブがZipドライブであることから、他機種とのデータのやりとりにはZipディスク経由が前提となる。またVS-840GXと互換性を持つソング・データは基本的にはVS-880フォーマットのものだけである点に注意したい。これは裏を返せば他のVSシリーズでもデータをVS-880フォーマットに変換してZipに保存すればVS-1880だろうがVS-890だろうがVS-840GXで扱える、ということだ。ただし、互いに対応するサンプル・レートとレコーディング・モードであるのが前提で、変換される内容は演奏データとVトラック・データのみ、EQやエフェクトの設定に互換性は無い。さらに本機では、Windowsの標準サウンド・フォーマットであるWAV形式での書き出しが可能、という一風変わった機能も搭載している。変換できるトラックはL/Rの2チャンネル分(任意のトラックを指定)。WindowsフォーマットのZipディスクを用意し変換を開始すれば、Zipディスクを交互に入れ替える手間はあるものの、WAVフォーマットへのコンバートが可能となるのだ。これによって本機で作成したソング・データをZip経由でPCに取り込むことも可能で、PC標準のオーディオ・ボードやRCA端子よりは高音質だし、VS-890で可能と述べたCD-RによるオーディオCD作成機能も、外部PCとCD-Rを使うことで可能となる。さて駆け足で紹介したが、誌面の都合でこのレコーダーの魅力の半分ほどしか紹介できなかった気がする。何はともあれ、このVSシリーズは操作性はもとより、音質の高さや信頼性などすべての面において文句の付けようがない次元に突入している。しかも、VS-890の方は前モデルより高機能になったにもかかわらず価格は下がっているのだ。VS-890は中堅的位置付けと書いたが、自宅スタジオのメイン・レコーダーとして十分機能するだろう。それ故のCDRモードなのだからこれを使わない手はない。特に打ち込みものならば外部スタジオの存在価値を揺るがしかねないほどだ(実際僕のバンドP-MODELでは録音からミックス・ダウンまですべてVS-1680で行った)。一方、VS-840GXは自宅でのプリプロやコンパクトなレコーディング・システムを構築するのに最適だし、その扱いやすさから手軽にデジタル・レコーディングを楽しみたい方にも自信を持ってお薦めできる機種だ。 

▲VS-890のリア・パネル



▲VS-840GXのリア・パネル

ROLAND
VS-890/VS-840GX
VS-890(128,000円)
VS-840GX(99,800円)

SPECIFICATIONS

VS-890
■トラック数/8、Vトラック:128(8トラック×8Vトラック×2バンク)
■最大同時録音トラック数/8
■最大同時再生トラック数/8(サンプル・レートが48kHzの場合は6)
■最大記録容量/32GB(最大パーティション容量:1GB×32)
■ソング数/200(各パーティション)
■イコライザー/HI/MID/LOW(8チャンネル)、HI/LOW(16チャンネル)
■AD変換/24ビット、64倍オーバー・サンプリング
■DA変換/24ビット、128倍オーバー・サンプリング
■接続端子/SCSI(D-sub25pin)、MIDI IN、MIDI OUT/THRU、インプット1〜6(標準/TRSバランス)、デジタル・イン/アウト(コアキシャル/オプティカル)、AUXセンドA/B(RCAピン)、マスター・アウト(RCAピン)
■外形寸法/434(W)×89(H)×317(D)mm
■重量/4.7kg(内蔵HDは除く)
VS-840GX
■トラック数/8、Vトラック:128(8トラック×8Vトラック×2バンク)
■最大同時録音トラック数/4
■最大同時再生トラック数/8
■最大記録容量/250MB(Zipディスク)
■ソング数/200(各ディスク)
■イコライザー/HI/MID/LOW
■AD変換/20ビット、64倍オーバー・サンプリング
■DA変換/20ビット、128倍オーバー・サンプリング
■接続端子/MIDI IN/OUT、インプット1〜4(標準)、ギター入力(標準)、デジタル・アウト(コアキシャル/オプティカル)、MON/AUXセンドA/B(RCAピン)、マスター・アウト(RCAピン)
■外形寸法/410(W)×88(H)×307(D)mm
■重量/4.5kg