24ビット/96kHz対応A/Dを搭載した2ch真空管マイクプリ

APHEXModel 1100

今回レポートするAPHEXのModel 1100は、24ビット/96kHz対応のADコンバーターを内蔵した2chマイク・プリアンプです。最近発売されるマイク・プリアンプには、このADコンバーターを搭載したタイプを多く見かけます。これは、現在のデジタル・レコーディングの流れに対応するためだと思いますが、各メーカーごとにいろいろな音質、機能などで差別化を図っているようです。そんな中でこのModel 1100は、どのようなキャラクターを持っているのでしょうか。

マイク・プリアンプ部には真空管と
Class Aディスクリート回路を採用


本機のマイク・プリアンプ部はClass Aのディスクリート回路とチューブを組み合わせた構成になっています。チューブには6N1Pまたは6DJ8というちょっと聞き慣れない型番のものが使われていますが、低ノイズなどの理由で採用されているようです。マニュアルにはその他の互換性のあるチューブが記載されているので、チューブを入れ換えて音のキャラクターを変えることもできるでしょう。ADコンバーター部はサンプリング周波数が44.1/48/96kHzの3つから選択できるようになっており、ビット数は24ビット固定になっています。ディザーやノイズ・シェイピングといった機能はなく、24ビットでの使用が前提のようです。クロック・ソースは内蔵のほかに、リア・パネルにあるBNC端子に接続された外部クロックも選択できるので、他のデジタル機器との同期も問題なく行なえます。外観は渋いブルーのパネルで、落ち着いた印象を受けます。セッティングの際に、1Uの割には重い感じがしたのですが、これはトランスなど電源周りにしっかりしたものが使われているためではないでしょうか。フロント・パネルを見てみると、プリアンプ部はインプットGain(21〜65dBまで4dBステップで可変)、Low Cut(Off〜195Hzの間で11ステップ)、Line Outputのキャリブレーション用ポットと、−20dBのPad、Polarity(位相)、Tone、Phantom、Mute、MicLimの各ON/OFFスイッチが、ch1/2で左右対称にレイアウトされています(各機能については後述)。ADコンバーター部はパラメーターが2個所に分かれており、クロック・ソースのセレクト・スイッチがch1、サンプリング周波数のセレクト・スイッチがch2に装備されています(*)。細かいことですが、ADコンバーター部のパラメーターは1個所にまとめた方が良かったのではないでしょうか。その方が現在の設定を確認しやすいと思います。リア・パネルにある入出力周りを見てみましょう。アナログ部はMic InがXLRのバランス入力になっています。Line OutはXLRのバランスと、TRSフォーンのバランスの2つを装備しており、出力レベルはスイッチにより、+4dBと−10dBを切り替えられるようになっています。そのほかにMuteという端子がありますが、ここにラッチ式のスイッチを接続すると、外部から出力のOn/Offをコントロールすることができます。デジタル部は、XLRによるAES/EBU Outと、Clock In/Outが装備されています。デジタル・アウトがAES/EBUのみというのは、一般のユーザーの方にはちょっとつらいところかもしれません。

音ヌケが良く存在感のある音質で
特に生楽器の録音に威力を発揮


では本機の特徴的な機能を見て行きましょう。まず、Mic Limです。これは瞬間的なピークが入力された際に起こるクリップを防止する機能ですが、一般的なリミッターとは効果、回路構成共に異なっています。Mic Limはプリアンプの前段にあり、プリアンプの後段にあるピーク検出回路からの信号をサイド・チェインし、リミッティングします。これにより、プリアンプ部でのクリッピングのない、より高い増幅が可能なため、結果としてレコーダーへの高レベルな出力が可能になります。機能的にはAPOGEEのADコンバーターに搭載されているソフト・リミットに近いものですが、本機はそれをアナログ回路で構成しています。その他、Toneというスイッチが装備されていますが、このスイッチを押すと700Hzの正弦波がヘッドルーム−20dBで出力されます。この信号とLine Outのキャリブレーションつまみを使って、レコーダーとのレベル調整を簡単に行なうことができます。次に音質のチェックです。まずプリアンプの音質を、マグネットスタジオにある幾つかのプリアンプとコンソールのヘッドアンプなどを使用し、比較してみました。初めにアコースティック・ピアノで試してみましたが、音ヌケの良さが印象的でした。低域から中低域にかけての太さも十分あり、とても存在感のある音です。この辺りはチューブを採用した特徴がよく表れていると思います。次にボーカルで試してみましたが、アコースティック・ピアノでの音ヌケの良さや存在感の印象は変わらず、声がしっかりと前へ出てくる感じです。これならばボーカルがオケに埋もれてしまうこともなく、ミックス時のバランスも取りやすくなると思います。次にADコンバーターの音質を、普段使用しているADコンバーターやDIGIDESIGN 888|24 I/Oなどと比較してみました。音質的にはかなりフラットな印象で、プリアンプの音を忠実にコンバートしているように感じました。本機の特徴であるMicLimも、パーカッション音源を入力してチェックしてみました。ドラムなどの音源に対してMicLimをOnにすると、不自然な印象を与えずに余分なピークを適度に削ってくれるので、より高いレベルでレコーダーに出力することができ、聴感上音圧も上がったように聴こえます。レコーダーにフル・ビットで録音したいときにとても有効な機能です。本機は機能的にはシンプルですが、ベーシックな部分はしっかり押さえられており、どんなソースにも対応できるオールマイティなプリアンプではないでしょうか。特に生音をイコライジングせずにしっかり録りたいという方にお薦めできると思います。*写真はデモ機のため、ch1/2ともクロック・ソース切り替えの表示になっていますが、製品版では異なります
APHEX
Model 1100
360,000円

SPECIFICATIONS

■プリアンプ・ゲイン/21〜65dB(4dBステップ)
■アウトプット・マッチ・トリム/0〜12dB(3回転精密ポテンショ・メーターによる)
■ミュート減衰値/70dB以上(オプティカル・ソフト・スイッチによる)
■ローカット・フィルター周波数/Off/30/36/44/53/63/77/92/111/134/162/195Hz
■アナログ・ダイナミック・レンジ/97〜101dB(プリアンプのゲイン設定状態による)
■アナログS/N/76dB(基準レベル+4dBu)
■デジタル出力分解能/24ビット
■デジタル出力サンプリング周波数/44.1/48/96kHz切り替え
■デジタルS/N/98dB(基準レベル0dB FS)、80dB(基準レベル−18dB FS)
■外形寸法/483(W)×44(H)×229(D)mm
■重量/3.8kg