ADコンバーターを備えた2chチューブ・ヘッド・アンプ

DBX386

DBXと言えば、皆さんもご存じのようにシグナル・プロセッサーのしにせですが、最近は特に"シルバー・シリーズ"の評価が高いようです。私がよく行く某アーティストのプライベート・スタジオにも、ヘッド・アンプ/イコライザー/コンプレッサーを一体にした同社の586が導入されており、ボーカル録りによく使用しています。そのシルバー・シリーズに、2チャンネルのチューブ・ヘッド・アンプと24ビット/96kHz対応のADコンバーターを組み合わせた386が新たに登場しました。ヘッド・アンプ部はもちろんですが、ADコンバーター部の音質も気になるところです。

豊富な入出力環境で
外部デジタル機器との連携も十分


本機は1Uのラック・マウント式になっており、左右に各チャンネルのヘッド・アンプ・セクション、中央にはADコンバーター・セクションが配置されています。左右のヘッド・アンプ・セクションにはスリットが設けられており、電源を入れると中にあるチューブ(12AU7を使用)がオレンジ色に光っているのが見えます。これは、放熱対策にはもちろんですが、本機がチューブ式のヘッド・アンプということをアピールするのに一役買っています。フロント・パネルを細かく見てみましょう。ヘッド・アンプ・セクションには、チューブのドライブ・レベルを設定するDRIVE、アナログ/デジタルそれぞれのアウトプット・レベルのつまみと、LINE/MICの入力切り替え、ファンタム、−20dBのパッド、フェイズ、75Hzのローカットのスイッチがあり、12セグメントのLEDを使用したレベル・メーターも装備しています。このレベル・メーターは、アナログ/デジタルのレベル表示をスイッチにより切り替えることができます。また、リア・パネルのMIC/LINEインプットとは別に、ハイ・インピーダンスのアンバランス機器を直接入力できるInstrument Inputがあり、DIなどを使用しなくてもギターやベースなどを直接入力することが可能になっています。ADコンバーター・セクションには、ディザー、ノイズ・シェーピング、サンプリング周波数、ビット・デプス、アウトプット・フォーマットの切り替えスイッチがあり、各スイッチは選んだポジションによって、LEDの色が変化します。リア・パネルにはアナログ/デジタルの各入出力が並んでおり、アナログ部にはバランス式のMIC/LINEインプット、アウトプットのほかにインサート端子も装備しています。これにより、ヘッド・アンプで増幅した信号をコンプレッサーやイコライザーなど外部のプロセッサーで加工し、ADコンバートすることが可能になります。デジタル部はAES/EBU、S/P DIFのアウトプットのほかにワード・クロックのIN/OUTが装備され、他のデジタル機器と組み合わせる場合に便利です。

サチュレーション効果を生む
独自のTYPE IVコンバージョン


では、音質をチェックしてみましょう。まず、ヘッド・アンプからです。いろいろな音源で試してみましたが、どんな音を入力してもDBXらしい音がします。実は、音を出す前からこんな感じの音かなあと頭の中で想像していたのですが、実際に音を出してみて、想像通りの音が出てきたので、ちょっとびっくりしました。具体的には、中低域に張りのある男らしい(?)パワー感のある音です。相性が良さそうなのはエレキギターとベースで、特にディストーション・ギターの録りに使用した場合、豊かな太い音のミッド・レンジが録れそうです。ボーカルに関しては、コンデンサー・マイクを使って繊細な音を録るといった場合には若干不向きな面もありますが、ダイナミック・マイクを使って録る場合には相性は良いと思います。また、DRIVEのツマミを上げていくと、チューブらしいスムーズな歪みを得ることができます。ヘッド・アンプ部の印象としてはハイファイな音という感じは薄く、オールマイティではないかもしれませんが、DBXの音が好きな人や、ロックっぽい音で録りたい場合には非常に良いと思います。次にADコンバーターです。インサート・リターンに2ミックスを入力して、ヘッド・アンプをバイパスした状態でチェックしました。ADコンバーターはヘッド・アンプのときとは対照的に、高域に倍音成分が多い派手な印象です。その分、低域が少し物足りなく感じますが、ヘッド・アンプの特性を考えると、むしろこういう傾向の音の方が良いのかも知れません。ヘッド・アンプとADコンバーターを組み合わせてチェックしてみると、両者の特徴がうまくミックスされて、バランスの良い音に聴こえます。基本的には両者を組み合わせたときの音が本機の音ということになるのでしょうか。ディザーやノイズ・シェーピングに関しては、さすがにそれ専用に特化された製品にはかないませんが、本機の価格を考えれば、十分納得できる音質だと思います。また、最近のDBX製品に搭載されるADコンバーターに共通の特徴として、TYPE IVコンバージョン・システムがあります。これは、アナログ・テープ・レコーダーのサチュレーション効果をシミュレートしたもので、特にドラムやベースなどはタイトに気持ち良く聴こえます。TYPE IVコンバージョンはADコンバーターに固定で搭載されている機能なので、ユーザー側でON/OFFを切り替えることはできません。全体的に見ると、本機はチューブの特徴がうまく表現されていると思います。ヘッド・アンプ部とADコンバーター部を切り離して使うこともできるので、さまざまなセッティングに対応できるし、ワード・クロック端子も装備されているので、周辺のデジタル機器にも組み込みやすくなっています。特にチューブ・サウンドをデジタル・システムにうまく取り入れたいと思っている方には、お薦めできると思います。
DBX
386
70,000円

SPECIFICATIONS

■周波数特性/10Hz〜75kHz
■最大出力レベル/+21dBu
■ファンタム電源/48V
■ピーク・プラス・リミッター/0dBu〜+22dBu(オフ)
■フィルター/20dBパッド、75Hzロー・カット、フェイズ
■3バンドEQ/ミッド・スウィープ
■メーター・ソース/ドライブ、インサート、アウトプット
■AD変換/DBX TYPE IVコンバージョン・システム
■サンプリング・レート/96/88.2/44.1kHz
■量子化ビット数/24/20/16ビット
■デジタル出力/AES/EBU、S/P DIF、ワード・クロックI/O
■外形寸法/485(W)×45(H)×197(D)mm
■重量/3.3kg