コスト・パフォーマンスに優れた真空管コンデンサー・マイク

SEIDEPC-VT1

SEIDEから、シリーズ2本目のコンデンサー・マイクとなるPC-VT1が発売されました。しかも今回のマイクはチューブ・タイプながら、1号機のPC-M1同様、リーズナブルな価格でのリリースとなっています。早速、このPC-VT1の実力を試してみることにしましょう。

高級感溢れる外見と
使用範囲の広い指向性

まずPC-VT1の大きさですが、スタジオでスタンダードになっているNEUMANN U87を少し細身にしたほどのサイズです。ボディの色は高級感溢れるしゃれた薄いゴールドがかったシルバー(最近の流行かな?)。ウインド・スクリーンは、鋭角なところをわざと残し、印象的な角張ったスタイルです。スクリーン・ネットの目はかなり細かく、加工も丁寧に仕上げられています。ロー・コストのマイクにありがちな安っぽい作りとは違い、全体的にりりしく堂々とした雰囲気のマイクになっています。メーカーの設計コンセプトでしょうか、手を抜いていないという印象を受けます。実際、ソロ楽器やボーカルなどはマイクに向かって演奏したり歌うのですから、マイクの顔つきは結構大事なものです。さらに、PC-VT1は真空管のマイクですから、当然専用電源が付属しています。ショック・マウント・アダプターとウレタン製のウインド・スクリーン、それとすべてが収納できる、豪華ハード・ケースが標準装備されています(保管のことも考えると、これはとても重宝します)。

指向性は、単一指向性、無指向性、双指向性の3ポジション・タイプ。多彩な録音シーンに対応できそうです。また、ローカット・スイッチ(100Hz、−10dB)とパッド(−10dB)が装備されています。1号機のPC-M1では、指向性は単一指向性のみだったり、ローカット・スイッチが内部に付いていたため、1度セッティングをばらしてからスイッチングしなくてはいけなかったり、外からローカットのオン・オフの確認ができなかったりしたのですが、今回のモデルではその辺りの不都合がすべて解消され、より使いやすくなっています。これは大いに評価できると思います(ユーザーからの声が反映されているのでしょう)。

クリアで抜けの良い
真空管独特の豊かなサウンド

それでは、音を聴いてみましょう。今回はボーカルのレコーディングで、NEUMANN U87と比較してみました。マイク・アンプやケーブル・セッティングはできるだけ同じ状態にして2本のマイクをボーカルにセッティングし、同じテイクを録音して聴き比べてみることにしました。出力差がある(PC-VT1の方が2〜3dB大きい)ので、これは録音時に調整しました。実際、その出力の違いがあるので当然ですが、S/NはPC-VT1の方が断然良いです。そして、設計コンセプトの違いなのか、真空管を使った回路の特性のせいなのか、サウンド・キャラクターの違いには驚かされました。

特に、中域から高域の表情の違いは、歴然と差が出るようです。良い意味で音の輪郭が艶っぽくなって、明るく前に出てくる感じです。サシスセソなどの子音(高域)も出過ぎた感じはしません。高域に少しクセがありますが、抜けは非常に良くて中/低域のもたつき感もなく、全体的に歯切れの良いクリアで真空管独特の豊かなサウンドになっています。U87はスタジオではスタンダードなマイクですが、PC-VT1に比べると"少々面白みに欠ける真面目なキャラクター"に感じるほどで、正直ビックリしたくらいです。

ここで、ビンテージのチューブ・マイクのTELEFUNKEN U47と聴き比べてみるというちょっと意地悪なチェックをしてみました。出力差はもちろんありますが、S/NはPC-VT1の勝ち! 音のまとまりもレンジの広さもPC-VT1の方が良いです。しかし、音の厚みとか表現力とか言い出したらきりがなく、PC-VT1の方が残念ながら総合力としてはスケール・ダウンした感は否めません。ただ、決して安っぽい音がするわけではなく、価格(U47はビンテージなので現相場で見ると)で15〜20倍の差があるので比較自体が無茶なのですが、"価格差ほど音質の差があるのか"と言うと、まったくそんなことはありません。

今回は、女性/男性のボーカルのみのチェックだったので、よりレンジの広い楽器でも試してみたくなりましたが、それでも十分にPC-VT1の能力は堪能できました。さらに、チューブ・マイク全般に言える注意事項として、録音する1時間以上前からマイクに電源を入れて、温めておいた方が良いということがあります(電源投入時から回路が安定するまでに時間がかかるので)。その点、このPC-VT1はビンテージ・マイクよりは比較的早く安定してくるようです。

最後に少しだけ残念な点を挙げておきましょう。おそらくこのマイクを手にするユーザーはミュージシャンやボーカリストなど、マイクを扱い慣れていない人たちが多いでしょうから、コンデンサー・マイクのつなぎ方や電源投入時の注意事項などを付属のマニュアルにもう少し親切に書いてほしかったという点です。また、指向性の違い、ローカット、パッドの実際の使い方や、簡単なセッティングのヒントになるような項目なども、ユーザーの目線でアドバイスがあるとより良かったのではないでしょうか......。

ビンテージの香りを残しつつ、現在のデジタル機器と混在した中での使い方を考えて設計されたこのPC-VT1。「絹」を意味するSEIDEの名の通り、「絹のような滑らかな音」というコンセプトを実現し、しかもコスト・パフォーマンスに優れています。レコーディングやライブ、PAなどさまざまな音楽シーンでも、存分にその実力を発揮することでしょう。

SEIDE
PC-VT1
140,000円

SPECIFICATIONS

■指向性/単一指向性、無指向性、双指向性
■周波数特性/20Hz〜20,000Hz
■感度/−36±2dB(0dB=1V/Pa1,000Hz)16mv
■最大音圧レベル/135dB
■出力インピーダンス/350Ω以下
■等価雑音レベル/18dB
■電源/専用付属電源
■ロール・オフ・スイッチ/100Hz、−10dB
■外形寸法/55(φ)×210(H)mm
■重量/545g