ZOOM ZPC-1 レビュー:生楽器の収録や屋外での録音にも向けたコンデンサー型ペア・マイク

ZOOM ZPC-1 レビュー:生楽器の収録や屋外での録音にも向けたコンデンサー型ペア・マイク

 低価格帯のマイクが群雄割拠する昨今、ZOOMからステレオ・マッチング・ペアとしては価格の限界とも言えるペンシル・マイクZPC-1が発売されました。

アコースティック・ギターなどにマッチする素直でバランスの良いサウンド

 ZOOMの名前がフィールド・レコーディングやライブ、リハーサル現場で広く認知されるようになったのは、ステレオ・マイク内蔵のハンディ・レコーダー製品がヒットしたことからだったと思います。最近ではガン・マイク、Ambisonics形式のマイク・カプセルなどの製品もあり、時代のニーズにすぐさま対応していく企業精神にも感服です。

 それゆえ、スタジオ用ステレオ・マイクの発売と言われるとある意味すんなり納得できるところがありました。価格も、一般的なステレオ・マイクと比べて非常に手頃な設定です。

 ZPC-1の指向性はカーディオイドのみとのこと。まず比較してみたのが、同じカーディオイドの指向性を持ちレコーディング・スタジオではご用達の高価格帯コンデンサー・マイクです。ドラムのオーバーヘッドに立てて、音色の違いを確認してみました。

 ステレオ・イメージを確保するためにドラマーから見て左にクラッシュ、右にライド系シンバルを中心としつつ、キック、スネアからの等距離を目指し正三角形を作ります。マイクプリはMILLENNIA HV-3D-8を用意。ZPC-1による録り音は、変にギラついたり、飛び出したりするといった不自然さは特になく、とても素直でバランスの良さを感じました。スペック的な差は、比較用マイクの周波数帯域が20Hz〜20kHz、ZPC-1は40Hz〜20kHz。ですから、オーバーヘッドの用途では絶対に必要ではないにしろ、いわゆるロー感、フルレンジという意味ではさすがに比較用マイクに軍配が上がります。しかしZPC-1には、一部のオーバーヘッド用途のマイクに見られるような、好き嫌いが分かれるシャリっとしたハイ上がりといった印象もありません。どの場面にも適応するように、色付けを控えているように感じられます。そうした特性を踏まえて使いどころを考えると、より力を発揮できるのではないでしょうか。特に、金モノ全般に使用して全く問題ないように感じました。バンド内でのアコースティック・ギターなどにもうまくハマりそうな印象です。

ZPC-1にはマイク本体×2のほか、ウインド・スクリーン、マイク・ホルダー、ネジ式アダプター、キャリング・ポーチがそれぞれ2つずつ付属する

ZPC-1にはマイク本体×2のほか、ウインド・スクリーン、マイク・ホルダー、ネジ式アダプター、キャリング・ポーチがそれぞれ2つずつ付属する

ピアノのメイン・マイクにブレンドするとオケ中での役割を明確にする

 次にスタジオのグランド・ピアノSTEINWAY B-211で、無指向性のピアノ用マイクを使い、グランド・ピアノのマルチマイキング用として、ほかのマイクとどれくらい共存できるか試してみました。

 今回使用したピアノ用マイクは構造上、セッティングの自由度があまりありません。そのため、ピアノのペダル操作がさほど上手でないピアニストの場合には、ペダルの音から逃れることができずEQせざるを得ないことも多々あります。そんなときのために、複数のマイクをセットしたマルチマイキングでレコーディングすることがよくあるのです。今回は、ピアノ用マイクに加えて、ピアノ天板を30cm程度の突上棒で支えた少し閉じめの状態で、ZPC-1をピアノ内の中央にORTF的なステレオ感でマイキングしました。

 まずはソロ・ピアノをZPC-1のみで収録してみたところ、まっさらでトランスペアレントなサウンドという印象を受けました。音をそのまま捉える癖のない音像といったところでしょうか。耳に痛いところが飛び出してくる感じもありません。さすがフィールド・レコーディング用に研究を重ねて、さまざまな用途に向けたアタッチメント仕様のマイクを開発してきているZOOMの気概を感じました。

 続いてドラム、アコースティック・ベース、アルト・サックス、ピアノ・カルテットでのピアノを、マルチマイキングでレコーディングしてみました。今回使用したピアノ用のステレオ・マイクは周波数帯域がとても広く、ピュアで壮大な音を楽しめます。ただその反面、低音をカットしたり、またワイド感を減らすためにステレオ・パンをある程度閉じたりすることもあります。しかし、今回のマルチマイキングでは、ZPC-1をブレンドしたことにより中高域を程よくプッシュして、バンド内で非常に良い立ち位置となるピアノの音色を作ることができました。レコーディングの際、マイクプリにMILLENNIA HV-3D、コンプにEMPIRICAL LABS Fatso Jr. EL7を使い、トラッキング・コンプ仕様で程良くたたいたのも良かったのかもしれません。ピアノ用マイクもZPC-1も、特別なEQ処理を施す必要がなかったのもポイントです。

 ジャズ・カルテットにおいてはリーダー的な楽器とは言えないピアノですが、トリオになった状態では明らかにリーダー的になり絶大な存在感が必要となります。しかし、ホーン奏者がいる場合などでコンピングに回った際には目立ちすぎるとわずらわしくなってしまうため、ミックスの際には少々気を遣います。今回はZPC-1の主張しすぎないキャラクターが、バンド内のピアノの立ち位置に適していたという理由もあるかもしれません。

 余談にはなりますが、付属品として同梱する屋外での風除けのポップ・フィルターの中には、なんとプラスチックのアタッチメントが。直にフィルターを被せる仕様ではないところにも、奥ゆかしさを感じて少しキュンとしてしまいました。

 

森田秀一
【Profile】 サウンド・エンジニア。バークリー音楽大学出身で、NYのKampoスタジオでエンジニアを務めた後、現在はReBorn Woodにてスタジオ・マネージャー、エンジニア、レーベルA&Rを兼任する。

 

ZOOM ZPC-1

オープン・プライス

(市場予想価格:20,000円前後)/ペア

ZOOM ZPC-1

SPECIFICATIONS
▪タイプ:バック・エレクトレット・コンデンサー ▪指向性:カーディオイド ▪周波数特性:40Hz〜20kHz ▪感度:−38dBV/Pa ▪最大音圧レベル:134 dB(@THD≦1%、1kHz) ▪SN比:82dB ▪出力インピーダンス:200Ω ▪外形寸法:127(H)×20(φ)mm ▪重量:109g(1本) ▪付属品:ウインド・スクリーン×2、マイク・ホルダー×2、ネジ式アダプター×2、キャリング・ポーチ×2

製品情報

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