ゲイン調整不要で音割れしない録音技術を売りにするZOOMから、この機能を搭載した超コンパクトなデジタル・ミキサーのLiveTrak L6がリリースされました。筆者もライブ配信で同社のLiveTrakシリーズを使用してきましたが、本機はマシン・ライブとライブ配信向けという意外な組み合わせ。その正体に迫ってみましょう。
デュアルA/Dコンバーター搭載のマイク入力が2系統 5種類の空間系エフェクトやコンプも装備
LiveTrak L6は、アナログ入力10ch/アナログ出力6chを備えたデジタル・ミキサーで、ミキサーのチャンネル数は6ch。基本的な機能は同社のLiveTrakシリーズと共通で、最大12イン/4アウトのオーディオ・インターフェース(Mac/Windows/iOS/Android OS対応)やレコーダー機能を備えていながら、本体は幅223mm、奥行き114mmと、限界まで小型化したサイズです。本体の側面に備えられた電源専用のUSB-C端子や、単3乾電池4本で駆動します。
それではトップ・パネルを見てみましょう。
パネル左側は入力のセクション、右側は出力のセクションに分かれています。まずは入力セクションから。入力1/2はモノラルのマイク/ライン入力(XLR/TRSフォーン・コンボ)で、ファンタム電源も使用可能。この2つの入力にはZOOMが得意とするデュアルA/Dコンバーターが搭載され、レベル・オーバーしても音割れしません。一方、入力3〜6はシンセやリズム・マシン向けに割り切った仕様で、アンバランス接続のライン入力(フォーン)がステレオ4系統。モノラル入力にも対応し、入力3/4はそれぞれモノラル2系統に切り替えることも可能です。
左側の下部には、ミキサーをコントロールするボタンやロータリー・エンコーダーなどが並んでいます。ミキサーの操作は、本体中央に縦に並んでいるチャンネル・ストリップ・セクションで、EQ、SEND、PAN、LEVELなど操作したいパラメーターのボタンを押して、各チャンネルのロータリー・エンコーダーで調整します。EQはアナログ・ミキサーでよく見られる構成の3バンド。こちらもHIGH/FREQ/MID/LOWをボタンで選び、ロータリー・エンコーダーで調整する仕様です。
トップ・パネル右側は、主に出力に関するセクションです。レベル・メーターや出力レベルの調整用エンコーダーに加え、ポン出し用のサウンド・パッドやレコーダーの操作子などが配置されています。出力はステレオのマスター出力(フォーン)とヘッドホン出力(フォーン)が1系統ずつと、モノラルのAUX出力(フォーン)が2系統です。入出力の数はマシン・ライブやライブ配信にちょうど良いと感じました。ほかにも、パソコンやモバイル機器を接続するUSB-C端子、MIDI入出力(ステレオ・ミニ)、録音用のmicroSDカード・スロットまで備えています。
また、本機はエフェクトも内蔵しています。空間系のみの5種類で、筆者の好きなスプリング・リバーブを搭載するなど、マシン・ライブを意識して厳選されている印象です。さらにマスター・チャンネルにはコンプレッサーを搭載。これはマキシマイザーのようなエフェクトで、ボタン1つでナチュラルに音圧が上がります。ただし、このコンプは+20dBまで増幅するマスター・フェーダーの前段にあるため、マスターのレベルには要注意です。
分離が良くすっきりとした音質 32ビット・フロート対応のオーディオI/O機能
今回はマシン・ライブを想定して、リズム・マシンやモジュラー・シンセなどを接続してテストします。ch1には出力レベルが大きいモジュラー・シンセを接続し、ch3〜6入力にはグルーヴ・ボックスや小型のシンセをステレオで接続しました。多くのミキサーは入力ゲインを調整するトリムを備えていますが、本機にはありません。レベル・メーターに赤が点灯しない限り音割れしない仕様なので、ロータリー・エンコーダーで各チャンネルのレベルを調整して、赤になりそうであればマスター出力を下げれば大丈夫です。
ひと通りテストしてみると、サウンドは分離が良く、すっきりして癖がないZOOMらしい音質。サイズと機能と音質のバランスに優れ、コスト・パフォーマンスが良いと感じました。
次に、LiveTrak L6をパソコンに接続して、オーディオI/Oとして使用してみます。使い勝手としては普通のオーディオI/Oと変わりませんが、LiveTrak L6は32ビット・フロートに対応しているのがポイント。デュアルA/Dコンバーターを搭載した入力1にモジュラー・シンセを接続し、32ビット・フロートでDAWに録音します。モジュラー・シンセは出力が大きいので、DAWからはレベル・オーバーしたように見えますが、DAW側で音量を下げると音割れしていません。マイク録音にも向いた素晴らしい技術です。パソコンからのUSBオーディオ出力は本機のch5/6に立ち上がるので、パソコンから音を出す場合でもセッティングは簡単。DAWから本機のMIDI入出力ポートも使用できます。
ただ、気になる点もありました。音声をパソコンや内蔵レコーダーへ送るポイントが、EQやフェーダーを通る前のみであること。他社製品でもこの仕様が多いですが、本機にはトリムがないので、モニターしているマスター出力と録音したマルチトラックでバランスが大きく変わります。また“卓の演奏”も録音できないので、今後はポストフェーダーの音声も録音できるようなアップデートを期待したいところです。
テストする前は、ライブ配信とマシン・ライブ向けという組み合わせが、少し謎でした。しかし、限られたスペースにたくさんの機材を並べることや、求められるスペック、使用するチャンネル数など、ライブ配信とマシン・ライブには共通点が多いことに気付かされ、面白いテストでした。小型で多機能なミキサーを探している方にはお薦めの一台です。
KOYAS
【Profile】電子音楽シーンで活躍するアーティスト/プロデューサー。パソコンとハードウェアを組み合わせたライブ、イベント/レーベルの運営、ABLETON認定トレーナーなど、多岐にわたって活動。
ZOOM LiveTrak L6
オープンプライス
市場予想価格:36,900円前後
SPECIFICATIONS
▪レコーダー:最大同時録音12tr、最大同時再生2tr ▪録音フォーマット:32ビット・フロート/48kHzのWAV(モノラル/ステレオ) ▪記録メディア:microSDHCまたはmicroSDXC ▪オーディオ・インターフェース:12イン/4アウト ▪オーディオ・インターフェースのビット/サンプリング・レート:最高32ビット・フロート/48kHz ▪電源:単3電池×4、付属のACアダプター、USBバス・パワー ▪外形寸法:223(W)×46.5(H)×114(D)mm ▪重量:526g(電池含まず)