H2Essentialは最高32ビット・フロート/96kHzの録音に対応したハンディ・レコーダーです。操作性がとてもシンプルで、誰にでも扱いやすく設計されているのが魅力。手のひらにすっぽりと納まるコンパクトさでありながら、優れた機能がギュッと凝縮されています。
3つのマイクと3種類の指向性でシーンに合わせた録音パターンを選べる
今回、H2Essentialを連れて山へフィールド・レコーディングに行ってきました。長時間歩き回るので、バッグパックの中身はなるべく軽くしたいもの。このような小さくて軽量なレコーダーは、移動しながら録るフィールド・レコーディングでとても重宝します。
H2Essentialは、正面と背面に向いた2つの単一指向性Midマイクと、左右に向けた双指向性Sideマイクを搭載しています。録音方向の設定ではFRONT/REAR/FRONT+REARのパターンが選択可能。指向性はモノラル(ハイパーカーディオイド)/ステレオ90°/ステレオ120°の3種類から選択でき、録音方向と指向性を組み合わせると9種類のパターンで録音が行えます。使用シーンに応じて最適な収音範囲を設定することが可能です。
実際に使用してみると、音源に近づけた録音がとてもスムーズに行えました。マイクはFRONT、ステレオ90ºに設定し、歩くときの足音や川の水の流れの音を至近距離で狙います。例えば24ビット対応のレコーダーでは、ピークを気にして録音レベルの設定をするところからスタートしますが、32ビット・フロート録音ではそのような設定が必要ありません。少ないボタン操作で、素早く録音を開始できました。
現場へ向かう途中の電車の中でもテストしてみました。電車走行中は“ガタンガタン”という車両の動く音や、車内アナウンスの放送が入る際にピークがついたり、ゲインを大きくしていると音が割れてしまいがちです。H2Essentialで録った音を聴いてみたところ、音割れのノイズもなく、車両の音や人の話す声などもバランス良く録音されていました。
どんな場面の録音でも、H2Essentialを立て、使うパターンの設定を行い、あとはポンッと録音ボタンを押すだけ。シンプルな操作で瞬時にレコーディングを開始できるので、録りたい一瞬を逃さず捉えることができます。
MS RAW形式の録音にも対応。収録後にステレオ幅のコントロールが行える
H2Essentialは、録音時だけでなくポストプロダクションにおいてもその威力を発揮します。今回、静かな山頂でのサウンドスケープも録音しました。主に虫や鳥、風の音が聴こえてくる場所です。マイクはFRONT+REAR、ステレオ120°に設定。チェック時には収録音量が小さく感じましたが、下山後のポストプロダクションで録音ファイルをノーマライズしてみたところ、捉えたかった音がしっかりと持ち上がり、奇麗に収録できていることが分かりました。24ビットの場合、録音レベルが小さいとノーマライズをした際に余計なノイズの部分まで持ち上がってしまいがちですが、32ビット・フロート録音の広いダイナミック・レンジのおかげでその心配もありません。
ゲインを気にしなくてもいい点は、対話型ポッドキャストの収録でも有効だと感じました。話し声と笑い声など音量差が生じる場面などにおいても、H2Essentialであれば快適なレコーディングが可能でしょう。低周波ノイズを抑えるローカット・フィルターをはじめ、最大2秒前にさかのぼって録音できるプリ録音、大きな音が鳴ったら録音を開始するオート録音、セルフタイマー録音、再生時のスピード可変機能など、レコーディングをサポートするさまざまな便利機能もありがたいです。
H2EssentialはMS RAW形式のレコーディングにも対応しています。Mid成分がLch、Side成分がRchに録音されるので、後からステレオ幅を調整したいときにも柔軟に対応することが可能です。さらに、オーディオ・インターフェース機能(Mac/Windows/iOS/Android対応)も備えており、32ビット・フロート対応のUSBマイクとして使うことができます。その際は、接続デバイス先だけでなくH2Essential内蔵のmicroSDHC/microSDXCカードにも音を収録できるので、バックアップも万全です。加えて、H2Essentialをリモートで操作することも可能。別売りのBluetoothアダプターBTA-1を装着すれば、iOS用アプリZOOM Handy Control & Syncが利用でき、iPhoneやiPadからリモート操作ができる上に、複数台のH2Essentialの操作も行えます。
H2Essentialは素早いセットアップが可能で、音割れしないハイクオリティな録音ができる……そんな万人にお薦めできるコンパクトなハンディ・レコーダーです。今回、フィールド・レコーディングを中心にテストしましたが、日常のボイス・メモからコンサート、ライブ配信に至るまで、さまざまな場面において活躍するレコーダーになっていると感じました。
Yuri Urano
【Profile】大阪を拠点に活動する電子音楽家。フィールド・レコーディングや声を用いたアナログ・サウンドと、シンセやコンピューターを使ったデジタル・サウンドを融合させ、独自の世界観を構築する。
ZOOM H2Essential
オープン・プライス
(市場予想価格:19,900円前後)
SPECIFICATIONS
▪内蔵マイク:Midマイク(FRONT/REAR、単一指向性)、Sideマイク(双指向性) ▪外部入力:マイク/ライン入力(ステレオ・ミニ) ▪出力:ヘッドホン/ライン出力(ステレオ・ミニ)、内蔵スピーカー ▪録音フォーマット:WAV、32ビット・フロート/44.1/48/96kHz、ステレオ/モノラル、BWFおよびiXMLフォーマットに対応 ▪記録メディア:microSDHC/microSDXCカード ▪外形寸法:60(W)×97(H)×44(D)mm ▪重量:170g(電池含む)