ZOOMから32ビット・フロート録音に対応したハンディ・レコーダー、H1 XLRが発売されました。同社で32ビット・フロート録音対応の小型レコーダーというとF3などがリリースされていましたが、本機はHシリーズの新ラインナップとして、より分かりやすく、使いやすくなっているようです。では早速細かく見ていきたいと思います。
単3アルカリ電池2本で最長12時間駆動
H1 XLRは、片手で持ちやすいボディで32ビット・フロート/44.1、48、96kHzの録音に対応する2trレコーダーです。録音フォーマットはWAVのみで、録音メディアはmicroSDHCまたはmicroSDXCカード(最大1TB)。本機をmicroSDカード・リーダーとして使用することも可能です。電源は単3電池2本かUSB-C端子に接続した専用ACアダプター(別売り)、または市販のUSBモバイル・バッテリーで、パソコン接続時はバス・パワーでも駆動します。アルカリ電池で最長12時間駆動するのが素晴らしく(ファンタム電源使用時は4時間)、電池込みで164gと、軽過ぎず重過ぎずなのも良いところです。本体底面にはしっかりしたゴム脚が付いていて、ミキサーや机の上に置いても安定します。こういうところに気が配られた製品は意外と少なく、この時点で好感度が爆上がりです。底面にはほかに、カメラ・リグなどに取り付けるのに便利な1/4インチのネジ穴があり、さらにスピーカーが内蔵されています。これにより録音した音声の簡易的なチェックはもちろん、アクセシビリティ設定でガイド音を出すこともできます。Fシリーズには基本的にスピーカーがないので、Hシリーズならではの便利さだと言えるでしょう。
XLR/TRSフォーン・コンボ入力を2つ実装
本体上面には各種情報を表示するディスプレイのほか、録音モードをステレオ/モノラル/モノラル×2で切り替えるSTEREO/MONOボタンやミキサー画面を表示させるためのMIXERボタンなどがあり、小型の割にボタン類が多い印象です。ただ、そのどれもが“いちいちメニューに入らなくても設定できるといいな”と思えるものばかり。特にSTEREO/MONOボタンが装備されている点は、かゆいところに手が届く便利な機能だと感じました。
本体背面に2つあるマイク/ライン入力(XLR/TRSフォーン・コンボ)は、マイク・レベルから最大+4dBuのライン・レベルまで対応します。
マイク入力時はメニューから48Vファンタム電源の供給やローカットの設定も可能です。マイク/ラインの入力レベルの切り替えは本体両側の物理スイッチで行います。“32ビット・フロート録音ならレベル設定の必要はないのでは?”と思う方がいるかもしれませんが、アナログ回路の部分はレベル設定が必要ですので、接続機器に合わせて切り替えてください。それだけで32ビット・フロート録音のメリットを最大限に活用できます。
2イン/2アウトのオーディオI/Oとしても機能
本体右側にはプラグイン・パワー対応のマイク/ライン入力(ステレオ・ミニ)があり、カメラ用の小型マイクなどを接続できます。
ただし背面のXLR端子とは排他なので、どちらかのみを使用することになります。その横にはUSB-C端子があり、パソコンやタブレットとつなげば本機を2イン/2アウト、最高48kHz/32ビット・フロート対応のオーディオI/Oとして使用できます(Mac/Windows/iOS/Android OSに対応)。USB端子の隣には電源/ホールド・スイッチがあり、ホールドにしておくとボタンの操作を一切受け付けなくなるため、録音開始後はセットしておくと安心です。
本体左側にはヘッドホン/ライン出力(ステレオ・ミニ)があります。
本体の音声をカメラなどの外部機器に出力できるので、映像にガイドとして音声を入れておくような使い方も手軽にできます。ちなみに、外部機器への出力ゲイン設定のために1kHz/20dBFSのテスト・トーンを出す機能があり、これに合わせて事前にゲイン調整しておけば、“本番時に思いのほか入力が大きくてレベル・オーバーしてしまった”というようなトラブルを防ぎやすくなるでしょう。
マイク/ライン録音共に色付けなく素直な音質
では、肝心の音質を見ていきましょう。外部ミキサーからの2ミックスのライン録音と、コンデンサー・マイクによるマイク録音を試したところ、どちらもZOOMらしい、色付けのない素直な音質。鳴っている音がちゃんと録音できているという安心感があります。ライン録音の際、ディスプレイの波形表示が真っ黒になり、あれ?と思うことがありましたが、本機のミキサー画面でモニター・レベルを調整することで自然な表示になりました。初めは少し注意が必要かもしれません。
続いてMacBook Airと本機を接続しオーディオI/O機能も試してみたところ、DAWへ録音しながら、本体へ96kHzで同時録音できるのが便利。外部ミキサーの2ミックスを本機に録音しつつ、それを直接配信に使用するような使い方が想定できますし、万が一配信が止まっても、本体にはひずませずにしっかり録音できるのはメリット。ほかにも、メーター系のプラグインを立ち上げたパソコンで周波数特性などを確認しながら本機で録音、といった使い方もできそうです。
“素晴らしい!”と声に出してしまったのが、1~60分で録音開始タイマーの設定ができること。個人的に、ライブの記録や映像用などでミキサーの出力を録音する必要がある方が本機のメイン・ターゲットだと思っているのですが、そういう人には最高に便利。録音ボタンの押し忘れはよくある話ですので、タイマーをセットできるのは精神衛生上とてもいいです。逆に気になる点は、電池の残量の表示でしょうか。絵ではなく“%”にしてくれると安心感が増すと思いました。
H1 XLRは、手軽かつ安心安全にライブを録音したい人や、映像クリエイターの方など、幅広くお薦めできる製品です。価格的にも導入しやすく、さまざまな現場で確実に活躍してくれるしょう。とりあえず私は購入しようと思います。
森田良紀
【Profile】studioforestaを拠点として録音からミックス、マスタリング、映像撮影、配信までを行う。Fender Music Japan、TikTok LIVE、地経学研究所などの映像や配信番組の制作に携わる。
ZOOM H1 XLR
オープン・プライス
(市場予想価格:17,900円前後)
SPECIFICATIONS
▪録音フォーマット:32ビット・フロート/44.1、48、96kHzのWAV(BWFおよびiXMLフォーマット対応)、ステレオ/モノラル ▪最大入力レベル:マイク/+4dBu、ライン/+24dBu ▪記録メディア:microSDHCまたはmicroSDXCカード(最大1TB) ▪電源/単3電池×2、専用ACアダプター、モバイル・バッテリー、USBバス・パワー ▪内蔵オーディオ・インターフェース:2イン/2アウト ▪内蔵オーディオ・インターフェースのビット/サンプリング・レート:最高32ビット・フロート/48kHz ▪外形寸法:62.1(W)×39.3(H)×107(D)mm ▪重量:164g(乾電池含む)