WAVESより新たにリリースされたローファイ・シミュレート・プラグイン、その名もRetro Fi。最近のトレンドでもあるこの手のサウンドを感覚的に操作できるプラグインで、気になっている方も多いのではないのでしょうか? 早速レビューしていきます。
4つの年代ごとの質感を選択可能。リバーブとディレイはローファイに適した響き
Retro Fiでは4つのモジュール群(DEVICE/SPACE/NOISE/MECHANICS)を組み合わせることで原音に年代別の質感を与えたり、キャラクターを加えることが可能です。筆者もこの手のプラグインは幾つか手持ちにあり比較をしてみましたが、Retro Fiは独自のキャラクターを有しており、インターフェースも感覚的でユーザー・フレンドリーなため、クリエイターの想像力をかき立ててくれます。さすがプラグイン界のビッグメゾンであるWAVES、Lo-FiではなくRetro Fiと名付けた理由に深く納得がいく仕上がりです。
左側のDEVICEセクションでは、処理の起点となるサウンド・モデルを選択可能です。DEVICEノブを左側に回し切った状態では明るくキレが良く、右側に回していくにつれて深く鈍い音へと変化していきます。サウンドはTONEノブによってさらに細かく調整が可能です。このDEVICEノブの効果はインパルス・レスポンス技術によるもので、ナチュラルな音の変化が楽しめます。
SQUASHとRINGERは、それぞれワンノブのコンプ&エキスパンダーとリング・モジュレーターです。圧縮して揺らぎを与え、時に大胆な変化を生み出していきます。DEVICEノブの一番右側のポジションはフラットなサウンドのため、前段で色付けをせずにSQUASHとRINGERのみを使用して音を作ることも可能です。
STYLERノブでは、50s/60s/70s/80sという4つの年代ごとの録音/再生の質感を選択することができます。それぞれで奥行きや強調される帯域が違うため、元素材からは想像できなかったアイディアを呼び起こしてくれました。精度が高く、音やせも全くせず、嫌な味付けではありません。まさにタイムスリップした感覚を得られます。エレピやギターの音色だと効果が分かりやすいでしょう。年代ごとにパネルのフォントを変えているところも胸熱なポイントです。
中央のSPACEセクションでは、ECHOとREVERBによって音像を広げられます。おまけ感は無く、ローファイ専用機といったキャラクターの強さが特徴です。ECHOのディレイ・タイムはBPM単位やホストDAWに合わせる設定のほかにms単位でも調整でき、非常に気が利いている設計。PING PONGモードも内蔵されていて、リズム・パートに埋もれず音像を広げていくことが可能です。フィードバックはFDBKノブでコントロールします。音がぶっといまま伸び続けるので、派手にかけてレイジやドリルなどの強烈なビートと組み合わせて印象的な楽曲を作り出せそうです。
REVERBはPLATEとSPRINGの2種類を選択でき、LENGTHとLEVELでかかり具合を調節します。どちらもアナログ感のあるサチュレートしたレトロ・サウンドで、奥行きに対して濃密さがあり、ビンテージ・エフェクターを通して録音したような“汚しの効いたサウンド”を作り出せます。
有機的な効果が得られるNOISEと音の揺らぎを加えるMECHANICS
NOISEセクションはその名の通り、サウンドに計64種類からなる多様なテクスチャーを有するノイズを付与します。ノイズはVinylやCassette、Synth、Digital、Electric、FX、Mechanicsといった7つのカテゴリーに分けられており、元素材との組み合わせからさまざまな予想外の変化が得られました。独自のノイズ生成アルゴリズムが用いられているようで、ありがちなループ素材を張り付けたような質感にはならず、非常に有機的な効果が得られます。
NOISEセクションにはDUCKとGATEというダイナミクス・モードがあり、DUCKは入力信号が大きいとノイズ・レベルが下がり、GATEは入力信号に合わせてノイズ・レベルが上がります。ダイナミクス・モードの反応具合はTHRESHOLDノブでコントロール可能です。まずはセンター位置で始めて徐々に調節していくとよいでしょう。また、LEVELノブの右側には、ノイズを加える位置を切り替えられるSPACE PRE/POSTスイッチがスタンバイ。前者ではSPACEセクションの前段となり、機材のシグナル・ノイズのようにリバーブにノイズが混ざった状態に。後者では後からテープ・レコーダーに通したようなシチュエーションとなります。
MECHANICSセクションでは、テープやアナログ機材特有の経年劣化などによる音の揺らぎを与えることが可能。ローファイ系のプラグインではアナログ機材によるひずみや不完全さを演出する機能はマストですが、Retro Fiのユニークな点は独立した2つのエンジンが搭載されていることです。Aはカセット・テープ、Bはレコードの不完全さに重点を置いています。これによりエフェクターのトレモロやLFOでのモジュレーションとも違う、アナログ録音特有の揺らぎを与えることができ、より“現在のものではないサウンド・メイク”を強調することが可能です。
プラグイン画面の最下段にはINPUTとOUTPUTレベル・ノブのほか、2種類のフィルター・ノブ(HP、LP)とステレオ・イメージを調整するMONOノブも搭載されています。プロジェクト全体の中でのバランス・コントロールも容易に行えるでしょう。
Retro Fiの魅力は、やはり感覚的にレトロ・サウンドを作り出せること。各セクションが有機的に絡み合いユーザーのイメージを反映するため、魅力的なアナログ・マジックを体験できるプラグインです。
Albino Sound
【Profile】プロデューサー梅谷裕貴のソロ・プロジェクト。ハードウェアを駆使した実験的なベース・ミュージックやモダン・テクノを生み出している。資生堂やGOOGLE、NIKEなどのCM楽曲も担当
WAVES Retro Fi
24,200円
REQUIREMENTS
▪Mac:macOS 10.14以降、INTEL Core I5/I7/I9/XeonまたはAPPLE M1プロセッサー、AAX Native/AU/AudioSuite/SoundGrid/VST3に準拠
▪Windows:Windows 10以降、INTEL Core I5/I7/I9/Xeonのプロセッサー、AAX Native/AudioSuite/SoundGrid/VST3に準拠
▪共通項目:8GB以上のRAM、8GB以上の空きディスク容量、1,024×768以上のディスプレイ解像度(1,280×1,024または1,600×1,024を推奨)