WARM AUDIO WA76-D2 レビュー:名機を元に現代的な機能性を追加した2ch仕様のFETコンプレッサー

WARM AUDIO WA76-D2 レビュー:名機を元に現代的な機能性を追加した2ch仕様のFETコンプレッサー

 2011年の創業以来、アナログ音響機器にこだわり、クオリティの高い製品を安価で発表し続けているWARM AUDIO。その代表機器であるWA76がリニューアルされ、UNIVERSAL AUDIO 1176 Rev AとRev Dを元にしたモデルが展開された。その中から、Rev Dインスパイアのステレオ・モデルWA76-D2を紹介しよう。

入力インピーダンス切り替えやDRY/WETのつまみを装備

 1967年のローンチ以降、“スタジオのど定番コンプレッサー”として世界中で長きにわたり使用され、プラグインとしてもモデリングしまくられている1176。長い歴史の中で何度かリビジョンが施されており、それぞれ仕様が異なる。とりわけファースト・モデルのRev Aや、1970年代中期に生産されていたRev Dの評価が高い。WA76はそのRev Dを再現した製品ということで人気を博してきたのだが、今回新たな機能を追加しWA76-Dとして一新。そのWA76-Dが2ch分備わっているのがWA76-D2だ。

 2台の1176をステレオ仕様に……というコンセプトはビンテージ機UREI 1178をほうふつさせる。ただ、あちらはRev H期のシルバー・パネル1176がベース。オリジナルには存在しないRev AおよびD期のステレオ・モデルとなれば、その仕上がりに興味が湧くことしきりだ。

 ではW76-D2の各操作系を説明していこう。まずはオリジナル1176とほぼ同じパラメーターが並ぶセンター部分から。INPUT、OUTPUTのつまみは1176と同程度の大きさで細かい調整がしやすい。

フロント・パネルの左側。左上はZ-IN(入力インピーダンス)切り替えスイッチ(10kΩ/600Ω)で、その下がBYPASSスイッチ。CHANNEL A/BのパラメーターはINPUT、OUTPUT、ATTACK、RELEASEの構成。RATIOは4/8/12/20を選択でき、全押しも可能だ

フロント・パネルの左側。左上はZ-IN(入力インピーダンス)切り替えスイッチ(10kΩ/600Ω)で、その下がBYPASSスイッチ。CHANNEL A/BのパラメーターはINPUT、OUTPUT、ATTACK、RELEASEの構成。RATIOは4/8/12/20を選択でき、全押しも可能だ

 WA76に採用されていたクリックは本機には採用されていない模様。チャンネルごとにATTACK/RELEASEが用意されているのは1178よりフレキシブルな仕様だ。ATTACKつまみは反時計回りに回しきったポイントにクリックがあり、リダクション動作をバイパスできる。4つのRATIO切り替えスイッチはオリジナルを踏襲。過激動作で有名な“全部押し”も選択可能だ。やや小ぶりなVUメーターを挟んで縦に並ぶメーター切り替えと最下部の電源オフ/スイッチもオリジナル通りである。

 次に新たに加わった機能を見ていこう。正面左上部がZ-IN(入力インピーダンス)切り替えスイッチ。現代にマッチすべく用意されたこのスイッチは大変気が利いている。10kΩはDAWに対してハードウェア・インサート的に使用するときに、600Ωはマイクやマイクプリなどアナログ機器につなぐときにセレクトするのがよいだろう。その下には機器全体のBYPASSスイッチが備わっている。

フロント・パネルの右側。各チャンネル用のVUメーターの右横には、メーター表示の切り替えボタン(GR/出力基準レベル+8dB/+4dB/オフ)があり、さらにその右はDRY/WETつまみ、動作モード・スイッチ(STEREO/A>AB/A|B)を装備。その下にはサイドチェイン・ハイパス・フィルターのオン/オフ・スイッチとつまみ(30〜300Hz、12dB/oct)が並ぶ

フロント・パネルの右側。各チャンネル用のVUメーターの右横には、メーター表示の切り替えボタン(GR/出力基準レベル+8dB/+4dB/オフ)があり、さらにその右はDRY/WETつまみ、動作モード・スイッチ(STEREO/A>AB/A|B)を装備。その下にはサイドチェイン・ハイパス・フィルターのオン/オフ・スイッチとつまみ(30〜300Hz、12dB/oct)が並ぶ

 右端に移り、上のつまみがDRY/WETバランス。こちらの採用も大変ありがたい。1176系コンプはアタック・タイムがかなり速いので、強めにリダクションさせると音に独特の凝縮感が生まれ、存在感のある音像を得られる。反面、アタック音がつぶれすぎて押しが弱く感じられる……という板挟みに直面することが多い。そんなとき、DRY/WET調整によってちょうど良いバランスを追求可能なのだ。

 ところでこちらのDRY100%と先ほどのBYPASSスイッチ、そしてATTACKつまみでリダクションをオフにした信号にはどんな差異があるのだろうか? 検証したところ、BYPASSはいわゆるトゥルー・バイパスで、インプット信号をアウトプットへ機械的にそのまま返している。切り替え時に一瞬ミュートがかかり、若干ノイズが信号に乗るので注意が必要。ATTACKつまみをオフにした場合、リダクションしないがインプットとアウトプットのアンプは通っているのでどちらのつまみも動作する。DRY100%はインプットのアンプだけを通っているようだ。より的確な操作のためにも、これらの違いを把握しておく必要はあるだろう。

リア・パネル。左から電源端子、アウトプットB/A(XLR、TRSフォーン)、インプットB/A(XLR、TRSフォーン)

リア・パネル。左から電源端子、アウトプットB/A(XLR、TRSフォーン)、インプットB/A(XLR、TRSフォーン)

片方のチャンネルをトリガーに利用してサイドチェイン・コンプも可能

 一番右上のスイッチがステレオ・モデル最大の特徴OPERATIONAL MODE SELECTOR。3種類用意されたモードのうち、STEREOがいわゆるステレオ・リンク。両チャンネルの信号に反応し、その都度両チャンネルに同じリダクションをもたらす。ただ、アタックはより速い側、リリースはより遅い側の設定に準拠する。A>ABモードはAchで設定したリダクション挙動が両チャンネルに反映される。例えばステレオ・トレモロ音源などの左右のレベルが周期的に変化する音に使用すると、Achに信号が来たときだけAB両チャンネルに同様のリダクションがかかる仕組みだ。さまざまな使い方が考えられるが、サイドチェイン入力機能を備えていない本機でも、Achにサイドチェイン用信号を入れリダクションさせてBchのメイン信号に挙動を反映させれば、いわゆる “ダッキング”が可能となる。最後のA|Bはそれぞれ独立したモノラル機として使えるモード。フロント・パネルの一番右下がオン/オフ・スイッチを備えたサイドチェイン・ハイパス・フィルターとなる。

 肝心の音色は比較的クリア。強めにかけてもSN比が良く、音像がボケすぎることはない。もちろんアナログ機らしい豊かさ、程良いひずみ感などはしっかり備えており、1176的な中域の充実具合も申し分ない。ビンテージ機の中にはメインテナンスが不十分で、音や挙動が怪しい個体に当たることも少なくない。“状態の良い1176系コンプをステレオで使用できる”と考えると、コスト・パフォーマンスに優れた魅力的な製品だと言えよう。

 

林憲一
【Profile】 ビクタースタジオでサザンオールスターズなどの作品制作に携わり、フリーランスのレコーディング/ミキシング・エンジニアに。近年は、阿部真央、斉藤壮馬、DISH//、紫今らを手掛ける。

 

 

 

WARM AUDIO WA76-D2

178,000円

WARM AUDIO WA76-D2

SPECIFICATIONS
▪周波数特性:20Hz〜20kHz(±1dB ) ▪合計アンプ・ゲイン:53dB ▪総ひずみ率(THD):-64dB(-8dBu時) ▪SN比:86dB ▪外形寸法:483(W)x90(H)x203(D)mm ▪重量:4.81kg

製品情報

WARM AUDIO WA76-D2

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