WARM AUDIO WA-19 レビュー:1960年代のサウンドを復刻した可変フィルター搭載のダイナミック・マイク

WARM AUDIO WA-19 レビュー:1960年代のサウンドを復刻した可変フィルター搭載のダイナミック・マイク

 このたびWARM AUDIOから発売されたWA-19。音楽好きであれば一度は見たことがあるであろう、1960年代を代表するダイナミック・マイクを忠実に復活させたモデルです。元となったマイクはビートルズも使用しており、ドラムの上からぶら下げていたり、別のボーカル・マイクにテープでぐるぐるに巻いてあったりしました。コンデンサー・マイクであれば復刻やリイシューなども多いですが、今回はなんとダイナミック・マイク。このタイミングで復活させるということは、何か理由があるのでしょう。その辺りを探っていきたいと思います。

トップエンドの表現力に優れ、ハイパス・フィルターは理想的なポイントでカットできる

 WA-19の箱を開けると本体とホルダー、ソフト・ケースが入っています。小さく可愛い本体の側面にはスリットがあり、これは単にデザインというだけでなく、近接効果を軽減するためのものとのこと。マイクのくびれ部にあるリングは回すことができ、アコースティック・ハイパス・フィルター(50Hz)として機能します。内部には手作業で丁寧に組み立てられた真ちゅう製ダイナミック・カーディオイド・ハムバッキング・カプセルを搭載し、多くのスタジオ用ダイナミック・マイクを凌駕する透明度の高さと、ディテールを強調してくれる生き生きとしたトップエンドを実現するとのことです。

WA-19のパッケージ内容。本体のほか、スタンドに取り付けるためのホルダーとキャリング・ケースが付属する

WA-19のパッケージ内容。本体のほか、スタンドに取り付けるためのホルダーとキャリング・ケースが付属する

 では早速音を聴いていきましょう。まずはボーカルから。ゲインを上げて気づくのは、一般的なスタジオ・ダイナミック・マイクと比べると部屋鳴りを多く拾うということ。これはトップエンドの表現力が高く、コンデンサー・マイクのような特徴を持つWA-19ならではのポイントだと思います。ハイパス・フィルターは50Hz以下を0〜−10dBでカットできるので、近接効果を生かしつつ、不要なポイントを削ることができました。EQでローカットするよりも位相が崩れにくいので積極的に使っていけそうです。また、ハイパス・フィルターを使ってみて分かったのですが、この横のスリットからも低域を収音しているらしく、手で覆ってしまうと中低域がグッとなくなります。そして、このスリットの位置でもトップエンドのオープン感が微妙に変化するので、セッティングをするときには工夫が必要かもしれません。ボーカルではスリットが天井を向いているときにトップエンドが広がり、床に向いているときには抑えられた状態になりました。向きによってトップエンドのキャラクターを調整するとよいかもしれません。

1960年代のサウンド演出にぴったり

 次にアコースティック・ギターで試します。一般的なダイナミック・マイクと比べると、情報量の多さと表現力の高さにまず驚きました。サステインが長く、トップエンドの表現力があることでアタックも奇麗に収録され、それらが合わさってWA-19の個性的な音になっています。サウンド・ホールで多少ブーミーになってしまっても、ハイパス・フィルターでカバーできるのは心強いです。指弾きの小さい音はあまり適さないのではと思いましたが、思い切ってマイクを近づけてフィルターをオンにすれば良い音で録ることができました。

 次はピアノ。1960年代のスタジオでアップライト・ピアノへオリジナルのマイクが立てられているのを写真で見たことがあり、興味があったので試してみました。WA-19自体の印象はアコースティック・ギターのときと変わらずですが、ピアノの音を聴いて正直ニヤつきました。聴いたことのある“ポップスのアップライト・ピアノ”というドストライクの音がします。この明るさとアタックの強さ、サステインの長さ、ほかの楽器を邪魔しないローエンドの質感……。もう録ったままで最後のミックスまでほぼ行けるのではないかと思うほどです。個人的にはピアノの録り音が一番響きました。

 さて、ドラムに移りましょう。これも1960年代の写真でよく見かけるので試したくなりますね。僕の中ではドラムのトップにぶら下がっている印象が強く残っていたので、まずはトップから使ってみます(もちろんモノラルで)。近年のトップ・マイク=シンバルを拾う用みたいな音では全くなく、キック/スネア/タム全体をバランス良く捉え、トップからドラムの音を作っていくタイプの音です。部屋鳴りも奇麗に収音される印象でした。足りないと感じるところはオンマイクで補えばよいですが、キック以外はあまり必要ないかなというくらいの音になっています。

 WA-19をドラムのオンマイクで使用する場合は、タムとハイハットへ立てるのがお勧めです。タムはやはりハイエンドの抜けの良さから相性はバッチリで、これ以上のものはないでしょう。ハイハットは意外と耳に痛くなく、中域で押していくようなサウンドになりました。1960年代のドラム・サウンドっぽいキャラクターにしたいときに役立つでしょう。

 最後にギター・キャビネットで試したところ、面白いことにこちらも1960年代の音がしました。あらためてWA-19の作り込みには関心させられます。高域はツンと耳に痛く刺さるところはなく、中域のバランスの良さとアンビエンスの混ざり具合でオケ中に入っても埋もれない音です。一般的なダイナミック・マイクと比べてキャラクターの差がよく感じられたのがギター・キャビネットかもしれません。ただ、WA-19のみを使うとかなり年代感が強い音になるので、現代的なマイクを立てて混ぜ、中域の旨み成分を利用するというのも面白いと思います。

 今回、WA-19をいろいろなソースに使ってみて感じたのは、音楽制作に情熱を持つ熟練の技術者により、一本一本が丁寧に作られているということ。どのソースに立てても、ただ音が鳴っているのではなくて、雰囲気とアティチュードが必ず含まれているというところに関心しました。自分のマイク・コレクションに加えて、スパイス的に、いやWA-19がメインとなるのではないか、と思わせるくらい興味深いマイクでした。

 

鈴木鉄也
【Profile】Syn StudioやRinky Dink Studioを経て、2006年からフリーのレコーディング・エンジニアに。MONKEY MAJIK、COLDFEET、オーサカ=モノレール、遊佐未森らの作品に携わってきた。

 

 

 

WARM AUDIO WA-19

32,800円

WARM AUDIO WA-19

SPECIFICATIONS
▪タイプ:ダイナミック ▪指向性:カーディオイド ▪ハイパス・フィルター:50Hz(0〜−10dB可変) ▪出力インピーダンス:270Ω ▪周波数特性:30Hz〜18kHz ▪最大音圧レベル:145dB ▪感度:−53dB ±3dB@1kHz(0dB=1V/Pa) ▪外形寸法:152(H)×35(φ)mm ▪重量:200g

製品情報

WARM AUDIO WA-19

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