UNIVERSAL AUDIO Luna Recording System「オーディオI/Oとソフトの連携により機能を高めた音楽制作システム」

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 今回レビューするのは、The NAMM Show 2020で発表されたUNIVERSAL AUDIO Luna Recording SystemUNIVERSAL AUDIOのオーディオI/Oと新たに開発されたソフトを統合し、録音からミックス/マスタリングまでを担う音楽制作システムです。驚きなのは、基本的なソフトは無償ということ。システムのあらましをひもときつつ、その実力を試していきます。

 

Luna Applicationを母艦として
プロセッサーと専用音源を用意

 まずは動作環境から確認しましょう。UNIVERSAL AUDIOのオーディオI/O、ApolloシリーズもしくはArrowのThunderbolt接続モデルが必要となります。つまりMacだけに対応しているということです。ちなみに、UAD-2プラグインを動作させる同社DSPアクセラレーターのみでは使用することができません。ライセンスの管理はiLok Cloudもしくは iLok USB Key(第2世代以降)で行う方式を採用しています。

 

 Luna Recording SystemはオーディオI/Oに加え、3つのソフトから成り立っています。ミキサー機能をはじめとしたすべての基本機能をつかさどるLuna Application(上の画面)、Luna ApplicationにアドオンできるプロセッサーのLuna Extensions、そしてLuna Application専用のソフト音源Luna Instrumentsです。Luna Applicationは無償ですが、ほかの2つは無償のコンテンツに加え、有料オプションもラインナップ。Luna ApplicationではUAD-2プラグインはもちろんのこと、サード・パーティ製のAUエフェクト/インストゥルメントも使えます。

 

 ビット/サンプリング・レートは最高24ビット/192kHzに対応。内部処理は32ビット・フロートとなっています。

 

 Luna Recording Systemの大きな特徴の一つとして挙げることができるのが、その高性能なモニタリング環境です。Luna Recording System以前のUAD環境では、ハードウェア・モニタリングやUAD-2プラグインのかけ録りを可能にするコンソール・アプリ=ConsoleとDAWを同時に使用してきましたが、Luna Recording Systemではソフト間を行き来せずとも、それらの機能がLuna Applicationに統合されています

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Luna Applicationには、同社オーディオI/Oのルーティングや、かけ録りに使うエフェクトのアサインなどが行えるアプリ、Consoleの機能が統合されている。画面右側にはコントロール・ルームやキュー、出力のルーティングが設定できるボタンや、オーディオI/Oの操作子とリンクしているMONITORノブがスタンバイ(赤枠)。そのほかDSPの使用状況など、Consoleで確認できた項目も設ける

 さらに、内蔵DSPで極限までレイテンシーを抑えたAccelerated Realtime Monitoring(以下ARM)というモニタリング機能によって、よりスムーズかつスピーディなレコーディングが可能になりました。これは同社オーディオI/O内蔵のDSPとソフトを高度に統合した結果で、録音と再生のモード切り替え時に処理時間を要したネイティブ・システムにおける問題点をクリアしていると言えるでしょう。例えばUAD-2プラグインを介して低レイテンシーでモニタリングしている際に、狙った部分でパンチ・イン/アウトを何度でも切り替えられます。これは再生/録音のモード切り替えに時間がかからなくなったからこその恩恵です。

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 Accelerated Realtime Monitoring 機能は、Luna Application 上部に配置されたコン トロール・バーのGLOBALセクション(赤枠)でオ ン/オフを切り替え。オーディオI/O 内蔵のDSPが 立ち上がり、UAD-2プラグインを使った低レイテン シーでのモニタリングが可能になる

 ARMをオフにすると、チャンネル内のUnisonスロットやRecord FXスロットといった、かけ録り用にインサートされているUAD-2エフェクトが自動的にバイパスされます。これはDSPの使用率も軽減できるのでありがたい機能です。

 

 一方標準のインサート・スロットに挿さったUAD-2プラグインは、ARMのオン/オフを問わずモニター用としてアクティブのまま(ARMオン時の標準インサート・スロットは上から順に4つが使用可能)。なので、録音時でも再生時でも同じモニター・セッティングを作ることができます。なお、ARMオンにしたトラックでは、サード・パーティ製AUプラグイン・エフェクトがバイパスされます。

 

表示する項目を選べるミキサー画面
トラックやバスの出力を複数アサイン可能

 それではLuna Applicationを使用していきます。使いやすそうな洗練されたユーザー・インターフェースです。オーディオとMIDIトラックは、タイム・ラインと呼ばれる画面に配置します。この画面でオーディオ/MIDIの記録と編集が可能です。タイム・ライン上で選択したトラックは、左側のフォーカス・チャンネルでミキサー情報を確認できます

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タイム・ライン上で選択したトラックは、左側にフォーカス・チャンネル(赤枠)としてミキサー情報が表示される

 タイム・ラインではフェード処理やカットといった基本的な操作はもちろん、オーディオのTRACK FOLLOWS MODEをTEMPOにすることで、オーディオをテンポに追従させることなども可能。タイム・ストレッチを行ったときのピッチ・アルゴリズムの精度も非常に高く、直感的に操作できるようにデザインされていると感じました。

 

 ミキサーはConsoleアプリを踏襲した作りになっています。今までConsoleアプリを使ってきた方ならなじみやすいでしょう。各チャンネルの上部にさまざまな設定項目が集約されていて、分かりやすく配置されています。これらは表示の有無を設定できるので、作業中に見る必要の無い項目は隠しておくこともできますね。また、それぞれの項目は表示する大きさをLARGE/SMALLの2つから選べます。LARGEで表示した場合、インサートされたUAD-2プラグインはアイコンで表示されるので、一瞬で何が挿さっているか確認することができますね

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Luna Applicationのミキサー画面。タイム・ラインからの切り替えは、コントロール・バーのVIEWセクションから行う。上部のINPUT、TAPE、INSERTS、SENDSといった項目は詳細情報を折りたたんだり、項目自体を非表示にすることもできる。項目の表示設定をラージにすれば、インサートしたUAD-2プラグインは、サムネイルで表示される。この画面でもAccelerated Realtime Monitoring機能のオン/オフを切り替えられる(赤枠)

 アウトプットのルーティングもかなり自由で、任意のトラックやバスを、複数のバスやアウトプットへ同時にアサインできます。例えば、複数のバスを使ったパラレル・コンプレッションが簡単にできるのは非常に便利です。

 

各チャンネルに使用できるTAPEと
バス/マスター用のSUMMINGを用意

 次はLuna Extensionsと呼ばれるアドオンを試していきましょう。これはLuna Recording Systemのサウンドを特徴付けるいわばエフェクトで、TAPEとSUMMINGという2つのジャンルに分かれています。TAPEにはOxide(無償)とStuder A800(349ドル/UAD-2のStuder A800を所有している場合は無償)、SUMMINGにはNeve Summing(299ドル)をラインナップ。Luna ExtensionsはUAD-2プラグインとは異なり、コンピューターのCPUで動作する仕様となっています。

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Luna Applicationsのミキサーで使えるアドオンのLuna Extensionsは、TAPEとSUMMINGの2種類が用意されている。TAPEは画面左のOxide(無償)とStuder A800(349ドル/UAD-2のStuder A800を所有している場合は無償)をラインナップ。それぞれサチュレーション・ノブを装備しており、各チャンネルにインサートできる。バスとマスターにアサインできるSUMMINGは、画面左のNeve Summing(299ドル)が用意されている。ヘッドルーム、トリム、インピーダンスの調節が可能

 TAPEはミキサーのチャンネル上部からアサインできます。Oxideは、明るめでキレの良いサウンドでありながらファットな傾向。これが無償で使えるとは驚きです。Studer A800はソリッドでありながらも落ち着きのあるひずみが得られます。存在感が増す音色変化だと感じました。

 

 SUMMINGのNeve Summingは、NEVE 80シリーズ・コンソールのサミング回路全体をエミュレートしたもの。こちらはTAPEのように各チャンネルにインサートするのではなく、バスかメイン出力(マスター)でのみ使用可能となっています。実機のアンプ回路やトランスの仕様なのか、素材や突っ込むレベルなど、状況によって音色変化の傾向が異なります。どのソースを入力してもコンプレッションとクリッピングの表現が素晴らしく、音が収まりつつパンチ感が強まって密度が増していくように感じました。各パラメーターの効きも分かりやすいですね。

 

実機を卓に通したようなMinimoog
マイクをブレンドできるピアノ音源Ravel

 最後にソフト音源、Luna Instrumentsを使ってみます。用意されているのはさまざまな楽器を収録したクリエイティブ・ツール・キットShape(無償)と、ソフト・シンセのMoog Minimoog(299ドル)、ピアノ音源のRavel Grand Piano(299ドル)。加えてSPITFIRE AUDIOから、Luna Instrumentsとして使える有償のオーケストラ音源が3種類リリースされています。Luna Extensionsと同じく、コンピューターのCPUで動作する仕様です。今回はShapeとMoog Minimoog、そしてRavelをチェックしました。

 

 Shapeは高品位なマルチ音源です。各種音源に合わせたエフェクトのプリセットが用意されているので、すぐ求める音色にたどり着けました

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マルチ音源のShape。4つの音色をアサインでき、それぞれの詳細なパラメーターは、サンプル名の下のエリアをクリックすると出現する。エンベロープ(ADR)やフィルター・カットオフを画面上部のノブでまとめてコントロールできる。画面下部には空間系やモジュレーション、ダイナミクスといったエフェクト・スロットを2つ配置

 ソフト・シンセのMoog Minimoogは芯のあるどっしりとした音色で、存在感のある大きな音像が特徴。ありし日に実機のMOOG Minimoogをコンソールに立ち上げたときのような感動が得られました。

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ソフト・シンセのMoog Minimoog。オシレーターとラダー・フィルターのあらゆるニュアンスをとらえ、ディスクリートのトランジスターVCAモデリングを活用することによって、実機を忠実に再現しているという

  ピアノ音源のRavelは目の前にピアノが存在しているかのような、誇張の無いリアルなサウンドです。面白いのはルーム・マイクとクローズ・マイクの割合を調整できるところ。その変化は非常にナチュラルで、さすが響きの描写を得意とするUNIVERSAL AUDIOといったクオリティです

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ピアノ音源のRavel Grand Piano。音量、トーン、ダイナミクスといったパラメーターを備え、リバース音も付加できる。マイクはCLOSEとROOMのセッティングをブレンド可能

  魅力のすべては語り切れませんが、設計の思想にとても共感できました。リリースされたばかりなのにここまでやるか、というほどです。ひとつ要望があるとすれば、カスタム・キー・コマンド機能が欲しいと思いました。今後のアップデートも非常に楽しみです。

 

問い合わせ:フックアップ

製品ページ:https://hookup.co.jp/products/universal-audio/apollo-twin-x/luna

 

UNIVERSAL AUDIO

Luna Recording System

無償

(同社ApolloシリーズおよびArrowのThunderbolt接続モデルが必要)

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REQUIREMENTS ▪オーディオI/O:Thunderbolt端子を備えるApolloまたはArrow ▪コンピューター:Thunderbolt1、2、3を内蔵するAPPLE Mac ▪推奨スペック:INTEL Quad Core I7以上のプロセッサー、16GB以上のRAM、SSDのシステム・ディスク、サンプル・ベースのLuna Instruments用SSD(APFS フォーマット済みのもの) ▪Mac:macOS 10.14または10.15

 

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