UNIVERSAL AUDIO SD-1 レビュー:Apolloユーザー向けのプリセットを用意するダイナミック・マイク

UNIVERSAL AUDIO SD-1 レビュー:Apolloユーザー向けのプリセットを用意するダイナミック・マイク

 UNIVERSAL AUDIOから新しく発売されたダイナミック・マイクのSD-1は、ボーカルや楽器だけでなく、動画配信やポッドキャストにも最適とのこと。昨今の幅広いユーザーのニーズにマッチしたマイクです。

脚色が少なく素直な印象の録り音

 SD-1の指向性はカーディオイドで、本体にウインド・スクリーンとマイク・ホルダーを装備。3〜5kHzを持ち上げるアーティキュレーション・ブーストや200Hzのローカットを選択できるスイッチを搭載しており、その周波数帯域からも人間の話し声にフォーカスしたスペックと言えるのではないでしょうか。

マイク・ホルダーはSD-1の両側面に取り付け。ネジを調節して角度を変更できる

マイク・ホルダーはSD-1の両側面に取り付け。ネジを調節して角度を変更できる

SD-1の底面には、マイク接続端子のほか2種類のスイッチを用意。左側の1が200Hz(6dB/oct)のローカット・スイッチで、右側の2が3〜5kHzを持ち上げるブースト・スイッチとなっている

SD-1の底面には、マイク接続端子のほか2種類のスイッチを用意。左側の1が200Hz(6dB/oct)のローカット・スイッチで、右側の2が3〜5kHzを持ち上げるブースト・スイッチとなっている

 とはいえ、ボーカルや楽器にも広く対応。UNIVERSAL AUDIOのオーディオI/O、Apolloシリーズのユーザー向けに、用途別のApollo Consoleのチャンネル・ストリップ・プリセットが用意されており、そのおかげで誰でもいきなり完成された音による録音や配信が可能です。プリセットについては後述します。

 声を録る前に、まずはエレキギターとアコースティック・ギターを録音してみたところ、非常に素直な音が録れるマイクという印象でした。ダイナミック・マイクでエレキギターを録音するときは、近接効果がどう作用するか、ハイミッドのレゾナンスの出方がどうか、といった辺りでそのマイクの個性が決まります。

 SD-1は、そのいずれについても意外なほど脚色の少ない音だと感じました。ゴリゴリのロックなサウンドというよりは、スムーズで素直な音ですね。もちろんつまらない音というわけではなく、一般的なダイナミック・マイクを使ったときに感じる周波数特性のムラや隙間をあまり感じさせない、密度の濃い音が録れます。

 トップエンドも16kHzという必要十分なポイントまでの伸びなので、高域が録れすぎるあまり薄っぺらい音になるといった心配もありません。注意する点としては、低域特性が50Hzまでに設定されていることもあり、ギター・キャビネットに立てる場合はローカットを使わなくてもいいかと思います。マイクの設置ポイントは、キャビネットやスピーカー・ユニットとの組み合わせにもよりますが、割とグリルにベタ付けするくらいのイメージでもよいでしょう。

 アコースティック・ギターでも概ね同じ印象です。ほかのマイクであれば録ってからダイナミックEQなどで削りたくなるような低音が最初から入ってこず、録音後の扱いが楽な音と感じました。エレキギター同様にローカットやハイミッドのブーストもさほど必要ないと思います。ただ、感度は一般的なダイナミック・マイクと大差ないので、マイクプリでかなり持ち上げる必要があります。楽曲のスタイルや使っているギターにもよりますが、弦鳴りよりもボディの鳴りを多めに捉えるような気持ちで、低域を録り逃がさないようにマイクをセットすると良いかもしれません。

言葉の聞き取りやすさが向上する3〜5kHzのブースト

 ギター録音でも良好な結果が得られましたが、SD-1が最も良い仕事をするのはやはり声の録音かと思います。ウインド・スクリーンのおかげで吹かれの影響を最小限にとどめることができ、近接効果による低域の盛り上がりがそれほど顕著ではないため、多少マイクとの距離が近づいたり離れたりしても声質に大幅な変化は見られません。

 また、3〜5kHzのブーストも声を録るときにこそ大きな効果を発揮し、言葉の聞き取りやすさが向上するのを感じられるはず。動画配信の際にはカメラ・マイクを使う人が多いかもしれませんが、SD-1を用意すれば指向性のおかげで背面側で鳴っている空調などのノイズも低減でき、一気に音声の品質が上がることでしょう。

 以上がマイク本体の性能についての所感なのですが、ここからはApolloユーザー向けの恩恵について。冒頭でも触れた通り、Apollo Consoleのチャンネル・ストリップ・プリセットが用途別に用意されています。

プリセットはUNIVERSAL AUDIOの公式サイトでダウンロード可能。用途や楽器に合わせた16種類を用意する。画面は“SD-1 PODCAST”のプリセットを立ち上げている模様で、UA 610-B、Pultec EQP-1A(Legacy)、UA 1176LN(Legacy)がアサインされている

プリセットはUNIVERSAL AUDIOの公式サイトでダウンロード可能。用途や楽器に合わせた16種類を用意する。画面は“SD-1 PODCAST”のプリセットを立ち上げている模様で、UA 610-B、Pultec EQP-1A(Legacy)、UA 1176LN(Legacy)がアサインされている

 例えばエレキギター用のプリセットを選べば、UA 610-BとPultec Pro Equalizers(Legacy)の設定が呼び出され、この設定が“大丈夫、近接効果とレゾナンスが欲しいのは分かっているよ”と言わんばかりに良いところを盛ってくれるのです。録った後の処理に自信のない方であれば、まずはこのプリセットにアクセスするのが正解と言えるもしれません。アコースティック・ギターのプリセットも、ストロークのムラをUA 1176SE(Legacy)でうまい具合にならしてオケなじみが良い音にしてくれます。

 そしてなんと言っても一番しっくりきたプリセットが、やはりポッドキャスト向けのプリセットでした。SD-1本体のローカットとハイミッドのブーストを両方ともオンにした状態でプリセットを適用すると、何も考えなくても即座に配信音声に最適な声の音作りを行ってくれます。Apollo Consoleを介したDSP処理を行うため、配信ソフトや動画編集ソフト側で追加のプロセスをすることなくこの音にできてしまう。これは、ハードウェアとソフトウェアを作り続けてきたUNIVERSAL AUDIOならではかもしれません。

 SD-1の見た目も格好良さとかわいさを兼ね備えているので、カメラの画角内にマイクが写り込んでもちょっとワクワクするのではないでしょうか。

 

青木征洋
【Profile】作編曲家/プロデューサー。『ストリートファイターV』の作曲のほか、アジアや北米、欧州のタイトルも手掛ける。ギタリストでもあり、レーベルViViXを主宰しつつギター・インストの流布に努める。

 

UNIVERSAL AUDIO SD-1

オープン・プライス

(市場予想価格:44,000円前後)

UNIVERSAL AUDIO SD-1

SPECIFICATIONS
▪タイプ:ダイナミック ▪指向性:カーディオイド ▪周波数特性:50Hz〜16kHz ▪感度:1.3mV ▪出力インピーダンス:200Ω ▪ローカット・フィルター:200Hz(6dB/oct) ▪アーティキュレーション・ブースト:3〜5kHz ▪付属品:5/8インチ-3/8インチ変換アダプター ▪外形寸法:60(W)×195(H)mm(マイク本体のみ) ▪重量:735g(マイク本体のみ)

製品情報

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