アメリカ・ルイジアナ州バトンルージュに拠点を置くUNITED STUDIO TECHNOLOGIESから、リアンプ・ボックスのReplay Boxが登場しました。同設計のモデルはもともと市販化されておらず、これまで一部のトップ・エンジニアたちの秘密兵器として使われていましたが、20年以上のフィードバックと改良を経てついに市販化。筆者は日常的にリアンプを行っており、多数のリアンプ・ボックスを使用してきた経験があるため、Replay Boxをレビューするのが非常に楽しみです。群雄割拠の分野の中で新たなスタンダードを掲げるReplay Boxの実力を徹底解剖していきましょう。
信号分岐が便利なスルー出力を装備 クリーン系/カラー系の2つのトランス
Replay Boxは優れたグラウンド・アイソレーションを標ぼうし、卓越した信号分離と超低ノイズ設計を特徴とするパッシブ・タイプのリアンプ・ボックスです。2種類のユニークな音色を持つカスタム・トランスを1つのユニットに統合しており、その音質はマスタリング・グレードとされ、リアンプ・ボックスの新たなスタンダードとして注目されています。
筐体はアルミニウム製シャーシを採用し、重量は780gとしっかりした重さ。4点支持の取り外し可能なネジ止めの足があり、設置時の安定性も抜群です。サイズはリアンプ・ボックスとしてはやや大きめで、2つのトランスが搭載されていることを考慮すると、その存在感も納得でしょう。
フロント・パネルにはCOLORスイッチがあり、TRANSPARENTとHARMONICの2種類のトランス回路を選択可能です。TRANSPARENTは、特注で製作されたアメリカ製の5043ステップアップ・トランスを使った回路で、クリーンでアイソレートされたマスタリング品質の信号を提供するとのこと。一方、HARMONICのトランスは、高域をわずかにロールオフしつつ、低域に倍音&位相ひずみを加えることで中低域を太く聴かせるというカラーレーション系。さらに、位相反転スイッチやグラウンド・リフト・スイッチ、レベル・コントロールが装備されています。
リア・パネルの左端にあるINPUTはXLR端子で、ここにオーディオ・インターフェースやミキサーの出力を接続します。
入力にXLR端子を使用しているときは、THRU/INPUT(フォーン)はスルー出力となり、2台目のReplay Boxやほかのプロセッサー/デバイスへ信号を送ることが可能です。XLR端子を使っていない場合は、THRU/INPUTがフォーン端子の入力として機能します。OUTPUT(フォーン)はギター・アンプやエフェクト・ペダルなど、楽器レベルを受けるデバイスに接続するためのアンバランス出力です。パッシブ設計のため、バッテリーやACアダプターなどの電源は不要で取り回しが良く、スタジオ内で非常にスムーズに使用することができます。
クリアで元気が良い音のTRANSPARENT 音の密度とビンテージ感が生まれるHARMONIC
今回、ダウン・チューニングしたモダンなギター・リフのDI録音データを使用し、エッジの効いたフルレンジのハイゲイン・サウンドを再現して、Replay Boxの音質とキャラクターを検証しました。接続はシンプルで、オーディオ・インターフェースの出力をReplay BoxのINPUTに接続し、OUTPUTからギター・アンプに接続するだけです。ギター・アンプの前段にはお気に入りのエフェクト・ペダルを挟んで自由に試してみてもよいでしょう。
COLORスイッチを試してみます。まずTRANSPARENTでは、非常にクリアでエネルギッシュなサウンドが得られました。低域が削られているような印象もなく、“これくらい出てほしいな”というバランスの良い再現度で、しっかりした骨格のサウンドが形成されます。高域も癖がなく、かといって何かを足したり変質しているような感じも皆無で、純粋な音質が保たれて出力されているといった印象です。本体や外部のノイズが気になることも全くありません。
HARMONICに切り替えると、サウンドの密度が増し、温かみのあるビンテージ感が加わりました。トランスによるサウンドの色付けがはっきりと感じられ、特に低域でのわずかなひずみが音の豊かさを向上させ、全体として有機的なキャラクターを提供してくれます。この特性により、ミックスでもほかの楽器と自然に調和してくれる印象です。リアンプ時にこのようなサウンドの色付けが可能であることは、音作りの幅を広げる上で非常に重要。特にトランス非搭載のマイクプリやオーディオ・インターフェースを使用している場合、Replay Boxはその真価を発揮してくれます。長年にわたりエンジニアの秘密兵器とされてきた本機の真価を十分に感じることができ、キャラクターや雰囲気を積極的に付けたい方には非常に魅力的なツールだと感じました。
筆者としてはTRANSPARENTのマスタリング品質のサウンドに感銘を受けました。リアンプの時点で個性を付けないのが個性という、ハードルが高い問題をクリアできているからです。それはあたかも“ギターを直接つないでいる”とギター・アンプに錯覚させているかのよう。さらに特筆すべきは出力のレベル・コントロールです。可変幅が広く、予想以上に高い出力も可能で、ギター・アンプにしっかりと信号を送り込むことができます。ゲイン不足もなく、ギター・アンプに直接つないでいるかのように元気良くドライブできました。この出力レベルの調整具合はリアンプ・ボックスによって異なりますが、Replay Boxはほかの製品と比べて繊細な調整ができ、ゲインを簡単に追い込めるので非常に快適です。音の再現度も非常に高く、あいまいさが一切ありません。
Replay Boxは、音質を犠牲にすることなく、多様な音作りの可能性を提供する優れたリアンプ・ボックスです。これまでの製品にはない、確かな信頼性と豊かなサウンド・キャラクターを持っており、今後のスタジオ作業において新たなスタンダードとなることでしょう。特にトランス非搭載の機材を使用している方にとって、Replay Boxは強力なサウンドを得るための絶好の機会となるはずです。
Hiro
【Profile】METAL SAFARIのギタリストを経てプロデューサー/エンジニアに。録音~マスタリングまでこなす。NOCTURNAL BLOODLUSTやUnlucky Morpheusなど多くのメタル・バンドを手掛ける。
UNITED STUDIO TECHNOLOGIES Replay Box
オープン・プライス
(市場予想価格:52,800円前後)
SPECIFICATIONS
▪入力インピーダンス:300Ω(TRANSPARENT)、50Ω(HARMONIC) ▪出力インピーダンス:1kΩ(TRANSPARENT)、150Ω(HARMONIC) ▪最大入力レベル:+10dB ▪周波数特性:20Hz〜20kHz/±0.5dB(TRANSPARENT)、40Hz〜20kHz/±0.5dB(HARMONIC) ▪出力レベル:+3dB(TRANSPARENT)、+5dB(HARMONIC) ▪外形寸法:148(W)×46(H)×155(D)mm(足含まず) ▪重量:780g