メガデスのドラマーが手掛けた究極のメタルドラム音源をレビュー 〜TOONTRACK EZX - Metal Mania

TOONTRACK EZX - Metal Mania レビュー:メタルの聖地的スタジオでメガデスのドラマーが収録したEZX拡張音源

 元ソイルワーク、現メガデスのドラマーであるダーク・ヴェルビューレンとエンジニアのクリス・レイクストローが手掛けたTOONTRACK EZ Drummerの拡張ライブラリー、EZX - Metal Maniaがリリースされました。筆者は特にCM音楽の仕事でEZ Drummer 3を多用しており、ジャンルによって拡張音源を使い分けています。なので、今回のチェックは非常に楽しみです!

3つのドラム・セットを含む14GBの膨大なサウンド クリス・レイクストロー制作のミックス用プリセットも

 EZX - Metal Maniaを使用するには、EZ Drummer 3かSuperior Drummer 3のインストールが必要です(どちらもMac/Windows対応)。ライブラリーに収録されるサンプルの容量は約14GB。インストールを終えると、画面最上段右に現れるメニューから“METAL MANIA”を選択して起動します。すると、“メタル”を冠した製品名に相応しく、2バス・ドラムと多数のシンバルが配置された重厚なドラム・セットのGUIが現れます(上掲画面)。

 本音源では、これまで数多くのヘビー・ミュージックの録音で使用されてきたロサンゼルスのスタジオOne On One(現17 Hertz Studio)で収録された3つのドラム・セットが使用できます。すべてTAMAの2バスを基本としたセットで、“Signature Kit Clear”はメガデスで使用されている素材がメイプルのドラム・セット。高域の抜けが抜群に良く、轟音ギターの中でも埋もれることがありません。“Modern Metal Kit”は、素材がブビンガ/バーチのドラム・セットで、中域にフォーカスした太いサウンド。“Walnut Kit”はそれらとは対照的で、ウォルナットの素材を生かした温かく芯のあるサウンドが特徴です。ほかにも、合計11台のスネア、9組のバス・ドラム、34枚のシンバルを収録。ここまでざっくりサウンドをチェックして感じたのは、本音源はメタルに特化したものですが、さまざまなジャンルで活用できそうだということです。

 さらに、クリス・レイクストローとTOONTRACKが作成したミキサー・プリセットも内蔵。さまざまなジャンルでの使用を想定し、音量調整とエフェクト処理が施されたプリセットが多数用意されています。作曲時などは、まずこれらプリセットを選んでから好みのバランスに微調整すると悩むことがないでしょう。ミキサー画面では、音量、チューニング、エフェクトの調整が可能。プリセットごとに表示されるトラックや調整可能なエフェクトが異なります。例えば“Hollyweird”を選ぶと、ミキサー下に現れるマクロ・コントロールの“Drum Tweaks”で、キックのアタックと、キック、スネアのサステインが調節できます。中身はワンノブのコンプになっているようです。その右の“Bleed”の“Drums”では、オーバーヘッド・マイクのキック、スネア、タムなど皮物の混ざり具合を調整でき、“Cymbals”ではアンビエンス・マイクの金物の調整が可能。これはミックス時にとても有利となる機能ですね。

 ほかのプリセットでは、スネアにサチュレーションを追加できたり、コンプでつぶしたサウンドをトータルにパラレル・ミックスできたりと、多彩なコントロールが用意されています。エンジニアリングの知識がなくても、シンプルなワークフローで多彩なドラム・サウンドを作ることが可能です。ラム・サウンドを作ることが可能です。

スタジオのアンビエンスを見事にキャプチャー メガデスのプレイを想起させるMIDIデータも収録

 ミキサー画面のメニューで“Original Mix”を選ぶと、録音に使用されたすべてのマイクのチャンネルが未処理の状態で画面上に立ち上がります。

ミキサー画面で、好みのミックスを作れる“Original Mix”を選択したときの様子。ミキサー画面には、スタイル別のミックス用プリセットも膨大に用意されている

ミキサー画面で、好みのミックスを作れる“Original Mix”を選択したときの様子。ミキサー画面には、スタイル別のミックス用プリセットも膨大に用意されている

 キックはイン、アウト、サブの3つから成り、スネア・トップの収録にはダイナミック・マイクとコンデンサー・マイクが使われています。このように、プリセット使用時には分からなかった多くのマイクが確認できます。アンビエンス・マイクの構成を見ると、まずドラム・セットから一番遠いところから部屋の両端を2本のマイクで収録した“Amb Far”。その次にドラムから遠いのが“Amb Mono”で、こちらはモノラルで強くコンプレッションされたサウンド。そしてドラム手前の左右を収めた“Amb Near”と、オーバー・ヘッドとは別でドラム・セットの真上をマイク1本で録音した“Bullet”です。Bulletはローファイなサウンドが特徴のSHURE 520DXで録音し、UNIVERSAL AUDIO 1176でコンプ処理されたダーティなサウンドになっています。これらのアンビエンス・サウンドは本製品で一番の特徴で、One On Oneで録音しただけあり、ヘビー・ロックに最適な、重厚かつ鮮明でタイトなサウンドが見事にキャプチャーされています。DAWへのマルチアウトにも対応するので、ここから好みのプラグインで処理してミックスを追い込めますね。録音時には過度なEQは行われず、マイクが多いにもかかわらず位相の乱れもありません。そのため、EQやコンプの処理に素直に反応し、非常に扱いやすいと感じました。

 また本ソフトには、ダーク・ヴェルビューレンの演奏のMIDIデータも収録。

MIDIデータ選択画面。ダーク・ヴェルビューレンが演奏した4曲分のフル・テイクのデータほか、イントロやフィルなどパートに分けたデータも収録される

MIDIデータ選択画面。ダーク・ヴェルビューレンが演奏した4曲分のフル・テイクのデータほか、イントロやフィルなどパートに分けたデータも収録される

 4曲のフル・テイクのほか、Intro/Verse/Chorus/Fillsなどのデータを使用できます。メガデスをほうふつさせる激しいプレイですが、繊細なゴースト・ノートやフィルなどが絶妙なニュアンスで収録されているので、メタル以外のジャンルでも活用できそうです。

 EZX - Metal Maniaは、優れたロケーション、エンジニア、プレイヤーにより収録された高品質のサウンドを、最小限のタスクで素早く導入できるドラム音源と言えるでしょう。

 

阿瀬さとし
【Profile】作曲家/マニピュレーター/ギタリスト。Kco(vo、acg)とのアコトロニカ・ユニット=Cojokでギターとプログラミングを担当し、CMソングや劇伴の制作、ライブ・マニピュレーションもこなす。

 

TOONTRACK EZX - Metal Mania

11,000円

TOONTRACK EZX - Metal Mania

REQUIREMENTS
EZ Drummer 3
▪Mac:macOS 10.10〜14(INTEL CPU/ARM)
▪Windows:Windows 10(64ビット)/11
▪共通項目:64ビットのみ対応(32ビットDAW使用不可)、4GB以上のRAM(8GB以上を推奨)、ハード・ディスクに14GB以上の空き容量
▪対応フォーマット:VST、AU、AAX、スタンドアローン

Superior Drummer 3
▪Mac:macOS 10.6〜14(INTEL CPU/ARM)
▪Windows:Windows 10(64ビット)/11
▪共通項目:64ビットのみ対応(32ビットDAW使用不可)、8GB以上のRAM、ハード・ディスクに14GB以上の空き容量
▪対応フォーマット:VST、AU、AAX、スタンドアローン

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