TK AUDIO DP3 レビュー:2基のトランスやゲルマニウム回路により多彩なトーンを作る2chマイクプリ

TK AUDIO DP3 レビュー:2基のトランスやゲルマニウム回路により多彩なトーンを作る2chマイクプリ

 スウェーデンの技術者トーマス“TK”クリスチャンソンによるTK AUDIOから、新たなフラッグシップ・マイクプリDP3が登場しました。ビンテージ・スタイルの回路とモダンな回路を融合させた、デュアル・チャンネルのモデルです。マイクプリに併せて、音作りの可能性を広げるトーン・シェイピング・ツールを備え、あらゆる録音シーンに対応するとのこと。入力段はスウェーデンのLUNDAHLによる高品質なトランスを中心に設計され、以降の信号経路にはサチュレーション回路、ゲルマニウム回路、CARNHILL製トランスなどを搭載。これらを組み合わせることで、幅広い時代感のサウンド・キャラクターを実現できるそうです。同社の製品は高品質でありながら手頃な価格帯で知られており、筆者も以前から注目しています。本稿では、DP3の魅力を詳しく見ていきましょう。

ゲルマニウム回路による60's系クランチ。クラスA回路では70's英国風サウンドが得られる

 頑丈なアルミニウム製のフロント・パネルは、高級感のあるブラック・フェイス仕上げ。視認性の高いインジケーターやコントロール・ノブが整然と配置されており、直感的に操作できます。各チャンネルのコントロール・パネルの左側にはインピーダンス2MΩのHi-Z入力(フォーン)があり、ギターやベースを直接つなげることができます。その下にあるInスイッチをオンにするとHi-Z入力が有効になり、オフの状態ではリア・パネルのアナログ入力(XLR)が生きるので、楽器を接続しっぱなしでもマイクからの入力が可能です。

リア・パネル。左から電源端子、アナログ出力/入力1(XLR)、アナログ出力/入力2(XLR)

リア・パネル。左から電源端子、アナログ出力/入力1(XLR)、アナログ出力/入力2(XLR)

 Inスイッチ右のDirectスイッチで有効にできるHi-Zダイレクト・モードは、入力トランスをバイパスし、ハイパス・フィルターやサチュレーション回路、ゲルマニウム回路に直接信号を送るものです。

 各チャンネルの中央には最大80dBのゲイン・ノブがあり、繊細な信号から強力なソースまで対応します。また、+48Vのファンタム電源スイッチ、−30dBのPADスイッチ、インピーダンス切り替えのImpスイッチ(1.6k/400Ω)が独立して搭載されています。そして、先述のハイパス・フィルターはHPFスイッチでオンにでき、30〜400Hzのステップ式となっています。

 続いては、コンポーネントを見ていきましょう。まずは入力段のLUNDAHL製トランス。これにより温かみと精密さを兼ね備えたサウンドが得られます。加えてハイパス・フィルターの後段に、倍音を生むサチュレーション回路、ゲルマニウム回路、さらにCARNHILL製のトランスを使用したクラスA回路を搭載。ゲルマニウム回路では特徴的な1960年代風のクランチ・トーン、クラスA回路では1970年代ブリティッシュ・サウンドのような、厚みがある中低域や特徴的な中域、ツヤのある高域が得られるようです。そしてこれらの回路を自由に組み合わせることで、1960年代から70年代、さらにはLUNDAHLトランスによる80年代以降のモダンなトーンまでをカバーし、多彩で幅広い音色を生み出すことができます。

 出力レベルのコントロールはクラスA回路の後に配置されているため、トランスのドライブ感を維持しつつ、本機の後段につなぐA/Dコンバーターへの過大入力を防ぐことができます。そして最後には、位相反転のPOLスイッチが実装されています。

マイルドでビンテージっぽいクランチが声に合う

 実際に試用していきましょう。まずはデュアル・チャンネル仕様であることを生かし、ギターのリアンプでSHURE SM57とSENNHEISER MD 421という2つのダイナミック・マイクをブレンドして、ヘビーでハイゲインなディストーション・サウンドの音源をキャプチャーしてみます。

 本機の基本であるLUNDAHL入力トランスによるサウンドは、明るく洗練され、曇りのない都会的な印象。この段階でも非常に完成度が高い音質だと感じました。それからゲルマニウム回路のスイッチをオンにすると、アナログ機器特有のザラつきと温かみが加わり、微妙に崩れたトーンに変化します。音が丸く、マットでビンテージっぽいクランチ感を得ることができました。この質感は、声との相性が特に良いと思います。また、ミックスの中でほかの楽器との“接着”が良くなる印象で、分厚く、ビンテージ・フレーバーを感じさせたい場合に特に有効です。

 続いてクラスA回路のスイッチを入れたところ、そのサウンドは筆者が愛する“王道のブリティッシュ・サウンド”を体現しているようです。中域の力強さ、高域のつややかな響き、そしてどっしりした中低域が特長で、しっかりとした音の輪郭も感じます。現代的なミックスにもよくフィットしている印象を受けました。ディストーション・ギターとの相性が抜群ですが、ソースを選ばず、現代的なサウンドにも通用する普遍的な魅力を備えたトーンが得られます。

控えめながらソースの存在感が増すサチュレーション

 さらに、サチュレーション回路のスイッチをオンにしてみると、予想に反してかかり方が非常に繊細で、存在感がわずかに増すような、控えめな効き方が好印象です。プラグインなどで後処理することを前提とせず、最初からこのサチュレーション回路を通してレコーディングしてもいいと思えるくらい、ツールとして優秀だと感じました。ディストーション・ギターに試したところ、ピッキングのアタック感が際立ち相性が素晴らしかったですが、ボーカルやアコースティック・ギターに使用する際は、ミックスを見越して、あらかじめ存在感を強めて録っておきたいときに重宝しそうなスイッチです。

 今度はデュアル仕様を生かして、SM57を各回路による色付けのないサウンドに設定し、MD 421はサチュレーション回路、ゲルマニウム回路、クラスA回路をすべて通す設定にして、2本のマイクのサウンドをブレンドしてみました。この組み合わせでは、クリアさを維持しながら、温かみや存在感が引き上げられ、ビンテージ感とモダン感が融合したような個性的なサウンドを生み出すことができました。特にソースがボーカルのとき、“すべての回路を通すことで得られる現代的で肉厚な質感が、本機ならではの個性なのでは?”と感じました。

 ハイパス・フィルターは高精度な低域の調整が可能で、音楽的な質感を保ったまま、不要な箇所だけを狙ってカットすることができます。レコーディングした素材の無駄な低域を排除し、ミックスに最適化させるための土台を作ることができるでしょう。これだけの機能を1Uに盛り込み、さらに2ch仕様となっている本機は、コスト・パフォーマンスも非常に優れていると思います。音質と機能の両方を妥協していない点は特筆に値します。

 DP3は、1960年代のビンテージ風サウンドから1980年代以降のモダンなトーンまで、幅広い音作りを1台で可能にするマイクプリです。デュアル・チャンネル仕様を生かしつつ、複数の回路を組み合わせて行うサウンド・メイクは独創的で、クリエイターに新たな可能性を提供すると思いました。トランスならではの豊かな音質を、1台で幅広く堪能できる完成度の高さは素晴らしいです。宅録で使う方からプロフェッショナルのエンジニアまで、あらゆるレベルのクリエイターにとって魅力的な選択肢になるでしょう。

 

Hiro
【Profile】 METAL SAFARIのギタリストを経てプロデューサー/エンジニアに。録音〜マスタリングまでこなす。NOCTURNAL BLOODLUSTやUnlucky Morpheusなど多くのメタル・バンドを手掛ける。

 

 

 

TK AUDIO DP3

308,000円

TK AUDIO DP3

SPECIFICATIONS
▪マイク入力インピーダンス:1.6kΩ、400Ω ▪ライン入力インピーダンス:2MΩ ▪最大出力レベル:26dBu ▪DI入力ゲイン:14dB ▪ハイパス・フィルター:30〜400Hz ▪全高調波ひずみ率@+20dBu:0.007%(マイク入力)、0.01%(クラスA回路オン時)、0.3%(サチュレーション回路オン時)、1%(ゲルマニウム回路オン時) ▪外形寸法:483(W)×44(H)×260(D)mm ▪重量:4.3kg

製品情報

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