革新的コンプレッサーTEGELER AUDIO Schwerkraftmaschine レビュー:11モード搭載Vari-Muタイプのコンプ

TEGELER AUDIO Schwerkraftmaschine レビュー:11種類のモードを搭載するVari-Muタイプのハードウェア・コンプレッサー

 デジタルとアナログの技術を見事にマッチングさせたVari-Tube Compressorなど、ユニークな機器を世に送り出すTEGELER AUDIOからVari-MuコンプのSchwerkraftmaschineが発売された。早速スタジオで使ってみよう。

Vari-Mu型でありながらほかの動作タイプでのコンプレッションも再現

 まず驚いたのはカリブの海賊の宝箱のような木箱に梱包されていて重量が重いこと。“アナログ機材は重いほど良い音がする”なんて話もあるから期待は膨らむ。箱から出すと、独特で深海のような藍色のパネルが見えてきた。

Schwerkraftmaschine本体が収納されている木箱

Schwerkraftmaschine本体が収納されている木箱

 フロント・パネルは、左にINPUT/THRESHOLD/ATTACK/RELEASEがあり、中央には大きなLCD、その下にBYPASSスイッチと電源スイッチ。ディスプレイ右にはMODE切り替え/SC FILTER(サイドチェインのハイパス・フィルター周波数)切り替え/OUTPUT/MIX(ドライ/ウェット・バランス)という構成。各ノブにはプラグインでのリモート・コントロール用にサーボ・モーターが搭載され、若干重めのトルク感だ。背面には3極のACソケット、リモート用のイーサーネット端子とUSBコネクター、アナログ入出力のXLR端子がある。

背面。左からACソケット、リモート用イーサーネット端子、メインテナンス用USB端子、アナログ入出力端子(それぞれL/R、XLR)

背面。左からACソケット、リモート用イーサーネット端子、メインテナンス用USB端子、アナログ入出力端子(それぞれL/R、XLR)

 電源を入れて10秒ほど経つとLCDにグラフィックのVUメーターと選択中のモードが表示され、スタンバイ状態になる。コンプレッションのモードは11種類あり、右下のMIXツマミでコンプされた音と原音のバランスを取る。各モードの効果を簡単に説明しよう。

1:Multi-Band Complex=Equal Loudness Contourの原理に基き設計されたマルチバンド・コンプ。トータルにインサートし、SC FilterのTilt Equalizerで周波数をコントロールすることにより、ミックスをフラットに、あるいはよりアグレッシブなサウンドにコンプレッションすることができる。

2:Diode Pressor=コンプレッサーとリミッターを組み合わせたNEVE 33609のような動作のモード。より強いピークをリミッティングできる。ドラムなどの2ミックスにインサートしハードにコンプすると、33609のような音圧が得られた。

3:Breakthrough=ゲイン・リダクションを最大6dBに制限し、アタック感を残してコンプできる。アコギなどにインサートすると、ピッキングのニュアンスとリリースの長さが自然にコントロールできた。

4:Stereo Transformer=M/Sモード。センター・レベルの変化は最小限に抑えつつ、左右に広がるのを感じた。

5:Vari Tube Compressor=冒頭で触れた同社Vari-Muコンプ、Vari-Tube Compressorと同様の効果が得られるモード。まさにVari-Muらしいコンプレッションで、MANLEY Stereo Variable Mu Limiter CompressorやFAIRCHILD 670のような音作りが可能。

6:Vocal Leveler=TEGELER AUDIOの500シリーズであるVocal Leveler 500と同様の動作が期待できるモード。ニュアンスを消さずにボーカル・レベリングができた。

7:Optical Compressor=いわゆるOPTタイプのコンプのような動作のモード。筆者が使い慣れているLA-2、LA-3に近い動作をする。アタックとリリースのコントロールも可能。ATTACK/RELEASEノブの設定を5にすると、クラシカルなOPTコンプのサウンドを再現するそうだ。

8:Drum Smasher=ドラムのトップやアンビをスムーズ~アグレッシブに変化させるモード。かなりハードにコンプして、その度合いをミックス・ノブで調整するのがお勧め。

9:Classical VariMu=Vari Muコンプレッサーのよりクラシカルなサウンドが得られるモードとのこと。

10:Chart Analysis=VCAコンプに近い動作。メーカー説明によれば、真空管の特性を生かし、真空管のサウンドとVCAのキャラクターを融合させた新しいコンプ・サウンドとのこと。かなり速いアタックとリリースが得られる。

11:DeEsser=ディエッサー。このモードのみSC FILTERは500Hz〜10KHzの可変フィルターとして動作する。

ボーカルのレベリングが正確&自然に行える 遠隔操作用プラグインではデュアル・モノ設定も可

 中でも筆者が使いやすかったモードは“Multi-Band Complex”。トータル・コンプとして、SC FILTERのTilt Equalizerを巧みに利用することでミックスにさまざまな色付けが可能で、普段あまり自分でしないようなコンプ・サウンドで貢献してくれた。

 個人的に秀逸と感じたのは“Vocal Leveler”。同社500モジュールのVocal Leveler 500は極めて簡単な操作で正確なボーカルのレベリングが可能と定評があるが、こちらも同様。歌いやすく自然なレベリングを実現してくれた。

 そして一番のキモが“SC FILTER”だ。左半分がハイパス・フィルター(20/40/60/120/300Hz)で、右半分は5種類のカーブが選べるTilt Equalizer。これらを操作し、低域のように音量の大きな帯域によるオーバー・コンプを回避したり、特定の帯域をコンプしたり、理想的な音作りが可能だ。

 さらにリモート・コントロール用プラグイン(Mac/Windows)があることも本機の利点だ。

コントロール・プラグイン。DualMonoスイッチ(赤枠)を押すとステレオとデュアル・モノラルが切り替わる

コントロール・プラグイン。DualMonoスイッチ(赤枠)を押すとステレオとデュアル・モノラルが切り替わる

 本体同様のパネル上で操作した各機能はリアルタイムで各ツマミに反映される。ノブの設定はプラグインを通してメモリーされるため、完璧なトータル・リコールも可能だ。さらに画面右の“DualMono”をクリックすると2台のSchwerkraftmaschineが現れ、デュアル・モノラルでコントロールできるのだ。

コントロール・プラグイン上でデュアル・モノラル・モードにした様子。Schwerkraftmaschineのフロント・パネルが2台連なった形で表示される

コントロール・プラグイン上でデュアル・モノラル・モードにした様子。Schwerkraftmaschineのフロント・パネルが2台連なった形で表示される

 Schwerkraftmaschineは3Uのボディで11種類のモードを持つ多彩なデバイス。多様なシーンに対応できる汎用性の高さには恐れ入った。レコーディングにおけるさまざまなセクションの積極的な音作りからマスタリング級の微細な調整までこなせ、それがDAW上からもコントロールでき、トータル・リコールも完璧にできる。音作りを新たな次元に引き上げてくれそうな新感覚のコンプレッサーと感じた。

 

山内“Dr.”隆義(gogomix@)
【Profile】竹内まりや、鈴木雅之、渡辺美里、在日ファンク、福山雅治、布袋寅泰、ポルノグラフィティなど日本のポップ・ミュージック・サウンドを常にけん引しているレコーディング・エンジニア。

 

 

 

TEGELER AUDIO Schwerkraftmaschine

495,000円(参考価格、都度見積もり)

TEGELER AUDIO Schwerkraftmaschine

SPECIFICATIONS
▪周波数特性:20Hz〜24kHz ▪最大入力レベル:20dBu ▪入力インピーダンス:2.4kΩ以上 ▪出力インピーダンス:600Ω未満 ▪外形寸法:483(W)×132(H)×250(D)mm ▪重量:8.64kg(実測値)

製品情報

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