STAX SRS-X1000 レビュー:エントリー・モデルの新たなイヤー・スピーカー+新開発ドライバー・ユニット

STAX SRS-X1000 レビュー:エントリー・モデルの新たなイヤー・スピーカー+新開発ドライバー・ユニット

 国内から世界へ、静電型イヤー・スピーカーを開発、発信しているSTAX。このたび、エントリー・モデルのSR-X1が登場。また、新開発のドライバー・ユニット(アンプ)SRM-270Sとのセット、SRS-X1000も発売されました。

新設計の中型円形ユニットを内蔵しフレーム構造に金属素材を採用したSR-X1

 筆者は、STAX製イヤー・スピーカーのヘビー・ユーザーを自負しており、たびたび同社製品をレビューしております。熱心なサンレコ読者には繰り返しになってしまいますが、静電型イヤー・スピーカーについて少しだけ説明を。一般的なリスニングやモニタリングに使われるヘッドホンのほとんどは、ダイナミック型といわれる駆動方式です。一方、静電型は“コンデンサー型”と言い換えるとイメージしやすくなると思います。静電型は音を発生させるために電圧(電源)を必要とします。コンデンサー・マイクの構造と基本的に同じですね。ダイナミック・マイクとコンデンサー・マイクの音の違い……つまりサウンド・イメージやレンジ感、質感の違いは、ダイナミック型のヘッドホンと静電型のヘッドホンの違いに当てはまると、筆者は感じています。

 さて、オープン型イヤー・スピーカーのSR-X1を見てみます。箱から取り出してみての第一印象は、今まで見てきた同社のイヤー・スピーカー本体よりも一回り小ぶり。

静電型イヤー・スピーカー、SR-X1

静電型イヤー・スピーカー、SR-X1

 重量も234gと軽いです。STAXといえば、かごのようなデザインのSR-Λ(ラムダ)の系譜、SR-Lシリーズも印象的ですが、SR-X1はSR-1、SR-Xをモチーフとした80年におよぶ伝統的なデザインを踏襲しています。新設計の中型円形ユニットを内部にダイレクトに配置するほか、パーツ間の継ぎ目を極力少なくし、開放面のバック・スリット構造は厚みを均一にせず、滑らかな曲線形状とすることでひずみを軽減。

新開発された中型円形ユニットを内部に搭載

新開発された中型円形ユニットを内部に搭載

 合理的な設計や徹底したミニマム化は軽量化や音質向上に一役買っているようです。エントリー・モデルでありながら、フレーム構造に金属素材を採用することで不要共振を抑制。リケーブル対応で、イヤー・パッドには羊革が使われており、使い心地や耐久性にも気が使われています。

 ドライバー・ユニットSRM-270Sは、旧エントリー・モデルSRM-252Sに近年のドライバー開発のノウハウを注ぎ込んだ製品です。コンデンサーの更新やRCAピン・ジャックの高品質化を行い出力にはパラレル・アウト端子を装備。手持ちのシステムに組み込みやすくなっています。540gと小型で軽量なので、さまざまな場所での設置、使用が見込めるでしょう。

SRM-270Sのリア・パネル。入力のRCAピン端子と併せて、SRM-270Sに入力された信号をもう1台のSRM-270Sやスピーカーなどへそのまま分配できるパラレル・アウト端子(RCAピン)を搭載

SRM-270Sのリア・パネル。入力のRCAピン端子と併せて、SRM-270Sに入力された信号をもう1台のSRM-270Sやスピーカーなどへそのまま分配できるパラレル・アウト端子(RCAピン)を搭載

 早速、APPLE MacBookProのヘッドホン・アウトからSRM-270Sに接続し音を聴いてみました。まずは、旧エントリー・システムでも試聴したことのある、ポール・マッカートニーの「I’m Gonna Sit Right Down and Write Myself a Letter」をセレクト。旧システムから予想すると歌にフォーカスした音だと思っていましたが、ワイド・レンジに、よりフラットに更新されていて、予想を良い意味で裏切られました。STAXイヤー・スピーカーの特徴である強調されていない自然な聴き心地はしっかり継承されており、スタジオ・ブースでミュージシャンが演奏している気配、足踏みなどの演奏ノイズも、よりリアルに聴き取れるようになりました。ウッド・ベースの押し出し感、音程感も聴いていてうっとりしてしまいます。ロビー・ウィリアムズ「I Will Talk And Hollywood Will Listen」でのオーケストレーションのダイナミクスも素晴らしい再現度で、この価格帯でよく実現したなと感心してしまいます。フラット化とレンジ感の向上は一聴して分かる変化ですが、コンプレッションやダイナミクスのより細かな機微に気がつけるようになったのは、エンジニアにはうれしいポイントです。

スタジオ・モニターのような程良い距離感 低音から高音まで正確に再現

 続いて、N.E.R.D&リアーナ「レモン」で低音再生のチェック。オープン型のSR-X1は、密閉型の脳内で直接鳴る感じとは異なり、調整されたスタジオ・モニターで聴いているような、程良い距離感です。限界までブーストされたROLAND TR-808系キックに、コンプレッションが引っかかる様子がよく分かります。“オープン型は疲れにくいけど、低音の量感がつかみづらいんだよな……”と思っている読者は、ぜひ試してみてください。ハイハットは繊細に、耳に痛くない状態で音色の違いを表現してくれますし、低音もエレルギーを逃すことなく、音源がちゃんと再生されます。エントリー・モデルではありますが、細かいミックスやマスタリングの技術を求められるエンジニアにもお薦めできるスペックです。クリエイターのこだわりやエラーに気付くというのも、制作における道具としてとても大切なこと。歌のニュアンス、演奏のダイナミクスといったリスニングとして楽しいポイントと、ひずみ、プチ・ノイズなども冷静に聴きとれるモニターとしてのポテンシャルが、エントリー・セットのSRS-X1000でもパッケージされていました。

 総評として、まさにSTAX静電型イヤー・スピーカーの入門機としてふさわしい製品だなと感じました。音数の少なさ、隙間、余韻の再現ができるということはモニター用機材としてとても大事なことだと考えており、ぜひさまざまなミュージシャン、クリエイターにも使っていただきたいです。同じようなことをSTAX製品のレビューで毎回言っていますが、本当にそう思うからです。それほどに、ほかとは一線を画す聴き心地、質感の違いがSTAXの製品にはあり、このエントリー・モデルでもそれは再現されています。STAXは積極的にオーディオ・ショーにも参加されていますので実際に一度体験してみてください!

 

星野誠
【Profile】ビクタースタジオを経てフリーで活動するエンジニア。クラムボンの曲を多数手掛けたことで知られ、近年はsumika[camp session]、Cody・Lee(李)、MIMiNARIなどのアーティストに携わる。

 

 

 

STAX SRS-X1000

SRS-X1000/121,000円(SR-X1+SRM-270S)、SR-X1/66,000円

STAX SRS-X1000

SPECIFICATIONS
SR-X1(イヤー・スピーカー)
▪形式:プッシュプル・エレクトロスタティック(静電型)円形発音体、後方開放型エンクロージャー ▪ユニット形状:中型円形 ▪固定電極:高精度エッチング電極 ▪周波数特性:7Hz〜41kHz ▪静電容量:110pF (付属ケーブルを含む) ▪インピーダンス:145kΩ (10kHzにて、2.5m付属ケーブルを含む) ▪感度:101dB/100Vr.m.s.(入力/1kHz) ▪重量:234g(本体のみ)

SRM-270S(ドライバー・ユニット)
▪周波数特性:DC~35kHz/+0,−3dB ▪高調波歪率:0.01%以下/1kHz 100V r.m.s. ▪増幅度:58dB (800倍) ▪定格入力レベル:125mV/100V r.m.s.出力 ▪入出力端子:入力/RCAピン×1、出力/パラレル・アウト×1 ▪外形寸法:132(W)×38(H)×153(D)mm (突起部含まず) ▪重量:540g ▪電源電圧:100V専用ACアダプター付属 ▪消費電力:DC12V/500mA

製品情報

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