このたびSPITFIRE AUDIOからリリースされたImpressionismは、印象派芸術の150年の歴史に敬意を込めて作られたというテクスチャー音源です。“色彩豊かなインストゥルメント楽曲を生み出すためのパレット”というテーマの下、技術的な制約を取っ払い、インスピレーションに従って描かれた印象派の絵画のように、繊細な音の情景を感覚的に構築できるとのこと。試してみましょう。
アビイ・ロード・スタジオ録音の多彩な楽器を用いた92種類に及ぶパッチを収録
Impressionismは再生エンジンにSpitfire Engineを用いた音源で、Mac/Windowsに対応し、AU、AAX、VST2&3のプラグインとして動作します。収録されるのは、アビイ・ロード・スタジオのAir Studio Oneに熟練の演奏家を集めて録音されたインストゥルメントです。収録楽器はブラス、ストリングス、ハープ、ビブラフォンなど多彩で、録音時は“印象派の絵画を音楽で模倣する”という狙いの下、インスピレーションに従い通常とは異なる奏法、発音法を積極的に取り入れたそう。これらを精密に調整した92種のアーティキュレーションのパッチを、13のカテゴリーに分けて収録しています。なお、各音色はそれぞれPart 1(アタック)、Part 2(スウェル)、Part 3(サステイン)の3つのマイク・シグナルで構成されており、シグナル・ミキサー画面でそれぞれのPartのオン/オフやソロ/ミュート、音量バランスを調整することができます。
順番が前後しましたが、あらためてメイン画面の構成を見ていきます。上半分はメイン・コントロール。
左のフェーダーでダイナミクス、その隣のフェーダーでDIVERGEセクションのレベルをコントロールします。DIVERGEのフェーダーでは、後述のスケール・モードを用いたトリルなどの繊細な奏法を膨らませたり減衰させたりして、アーティキュレーションに変化を付けることができます。中央の大きなノブでは、SEPARATION(分離度)、RELEASE(ロング・アーティキュレーションを引き伸ばしてノート間をぼかす)、REVERB(リバーブ)がコントロールできます。
Part 2/3で演奏されるトリルやハーモニーは、メイン・コントロール右のスケール・モード・セクションで調整することができます。スケール・モードはSPITFIRE AUDIO独自のスケール・テクノロジーが生かされたもので、アーティキュレーションを鍵盤にマッピングする際、ユーザーが指定したスケールが自動的に適用されるというもの。PLAYED/SETの2つのモードから選択します。PLAYEDモードでは、演奏に合わせて自動的にキーとスケールが調整され、簡単に美しい響きを生み出せます。SETモードでは、KEY(キー)やSCALE(スケール)、PLAY MODE(トリガーされたサンプルが再生されたノートで始まるか、終わるか)の選択や、OUT-OF-SCALE(選択したキー以外の音程をトリガーし、サンプルを再生する機能)のオン/オフが設定可能です。SETモードであえてキーを設定して、弾く音を瞬時に調整し、新たなうねりや響きを探求するのもよさそうです。鍵盤のキー・タッチの強弱も、音の変化の速度や音色に反映されます。
画面の下半分はテクニック・セレクターで、中央のテクニック・スイッチャー・セクションで演奏法や楽器を選択します。それぞれのネーミングやイラストによって、サウンドがイメージしやすいですね。同じパッチでも、演奏法や楽器の選択によってかなりサウンドが変化します。SHIFTキーを押しながらアイコンをクリックすると複数の演奏法や楽器を選べるので、より複雑で豊かな響きが得られます。
アーティキュレーションを追加しながら、複雑で豊かなサウンドを直感的に制作可能
続いて、パッチを試してみましょう。“STARRY NIGHT(A dark tower looms eerily beneath the glistening cosmos)”を選択してみます。Part 1はコントラバスのスタッカート、Part 2は美しいチェレスタのトレモロ、Part 3は少しぶつかりのある弦楽器のロング・トーンという構成のパッチで、例えるならば1本の可憐な花のつぼみが開く瞬間のような美しさを感じさせるサウンドです。ここに“Souls of the Sky”というアーティキュレーションを追加すると、Part 1にビブラフォン、Part 2に弦とハープのトレモロがプラスされていきます。それらの音のぶつかりが絶妙なうねりを生み、何本もの花のつぼみがゆっくりと開いていくような、ドラマチックなサウンドに変化しました。
さらに“Brightest Stars”も追加してみます。するとPart 1/2に木管楽器のアンサンブルが加わり、Part 3の弦もよりふくよかな響きになりました。Part 1のフェーダーを少し下げて音のバランスを取れば、まるで咲き誇る花々の周りをミツバチが飛び回る様子が見えてくるような、豊かな音像に。一つ一つの楽器が緻密かつ複雑に絡み合う、美しく個性的なサウンドを作ることができました。
Impressionismは、まるで絵画を描くように、一瞬のひらめきを大事にしながら楽曲制作ができる新しい音源です。劇伴のスコアリングなどに大変役立つと思いますし、演奏中にリアルタイムに緩急を付けるような使い方も可能です。直感的な操作でインスピレーションを逃さず、鍵盤を弾きモジュレーション・ホイールをいじるだけで頭の中にゴッホやモネの作品のような美しい情景がどんどん現れます。偶然の発見や反応が面白い音源ですので、みなさんもぜひ触れて、サウンド・デザインを楽しんでみてください。きっと素敵なサウンドと出会えるはずです。
MEG.ME
【Profile】作詞/作曲/編曲家/プレイヤーとしてマルチに活躍する クリエイター。2011年にMEG.ME名義で活動開始。クラシックからポップスまで多様なジャンルを得意とし、舞台音楽なども手掛ける。
SPITFIRE AUDIO Impressionism
37,752円(価格は為替レートによって変動)

REQUIREMENTS
▪Mac:mac OS 11/12/13/14、2.8GHz INTEL Core i5 4コア以上(2.8GHz INTEL Core i7 6コア以上推奨/Apple Silicon)
▪Windows:Windows 10(64ビット)/11、2.8GHz INTEL Core i5 4コア/AMD Ryzen 5以上(2.8GHz INTEL Core i7 6コア/AMD Ryzen 7以上推奨)
▪共通項目:8GB以上のRAM(16GB以上推奨)、64ビットのホスト・アプリケーションのみ対応
▪対応フォーマット:AU、AAX、VST2、VST3