「SOFTUBE Model 72 Synthesizer System」製品レビュー:モノフォニック・シンセの名機をモデリングし機能を追加したソフト音源

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 SOFTUBEは、この10年くらいで急速にユーザー数を伸ばしているスウェーデンのソフト&ハードウェア・ブランド。評価の鍵は“高度なモデリング技術”で、多くのアーティストやエンジニアたちから“実機を超えている”と称賛の声が上がっています。そんなSOFTUBEが、何と往年の名機と呼ばれる“あのシンセサイザー”をソフトで復刻し、Model 72 Synthesizer System(以下、Model 72)としてリリース。早速レビューしてみましょう。

モジュレーション専用ノブや
ダブリング/ステレオ・スプレッド機能を搭載

 Model 72は、アナログ・シンセサイザーの名機中の名機、MOOG Minimoogをモデリングし、さらに追加機能を搭載したソフト音源。元となったモデルは1972年製だそうですから“初期型”に相当し、安定度こそ後期型に軍配が上がりますが、サウンドには独特の定評があります。一部シンセ好きの間では“Minimoogは絶対初期型”とも。しかし発売から50年近くが経過した今、中古市場ではコンディションの良いものがめったに入手できないため、今回のソフト化はまさに“待望”と言えるでしょう。

 

 Model 72を立ち上げてまず驚いたのは、実機をほうふつさせるリアルな画面。思わず手でノブを回したくなるような質感で、オリジナルにある主要パラメーターはほとんど踏襲されています。画面中央のやや左側にある3つのオシレーターは6種類の波形を持ち、そのうちオシレーター3だけは“正逆のノコギリ波形を搭載する”というのはお約束通りでニヤリ。

 

 これらの右側にあるノイズ・ジェネレーターはホワイトとピンクの2種類を備え、さらにその右側にあるフィルターとアンプには、それぞれADS仕様のエンベロープ・ジェネレーターが用意されています。なおフィルターは−24dB/octのローパスで、レゾナンス付きです。

 

 画面左端にはマスター・チューンやモジュレーション・ミックス、グライドも健在。画面右端には、A=440Hzの基準音発振器もちゃんと再現されています。

 

 ここまではオリジナルにあった機能ですが、今回のModel 72は幾つかの独自機能を搭載。まずは画面左端にあるMODULATION MIXノブです。オリジナルでは3番目のオシレーターを低周波にして変調ソースとして用いますが、Model 72ではMODULATION MIXノブがあるため、3つのオシレーターをまるまる使えます。もちろんオリジナルのように、3番目のオシレーターを変調ソースとして使うことも可能です。

 

 お次は画面右端にあるDOUBLINGスイッチと、SPREADノブ。DOUBLINGスイッチをオンにするとコーラスのような効果を得られ、もともと太いModel 72の音をさらに肉厚にします。SPREADノブでは、実音とダブリングした音を左右に広げる幅間を設定可能です。

 

 ちなみに、画面中央にあるFEEDBACK VOL.ノブを回していくと荒々しいサウンドになります。オリジナルでは、外部入力端子に本体の出力音を入力して音に厚みを付けるという“技”があったのですが、Model 72では最初から内部結線されているので便利です。

 

プラグイン・エフェクトとしても使用可能
野太い低域と伸びやかな高域

 それでは、外部の音をModel 72に入力したいときはどうするのか? 実はModel 72にはインストゥルメント版とFX版があり、ソフト・シンセ音源として使うときは前者を、エフェクトとして用いたい場合は後者を選択します。オーディオ・トラックにFX版のModel 72をインサートすることによって、プラグイン・エフェクトとして内蔵のディストーションやフィルターを使用することができるのです。

 

 ついでに加えると、Model 72はSOFTUBEが開発するソフトウェア・モジュラー・システムModularや、アンプ・シミュレーター・ソフトAmp Roomに対応するモジュールも収録しており、それぞれにおいてModel 72のフィルターやアンプなどを活用することができます。

 

 なお、画面内にある鍵盤の下部(フレーム部分)をクリックすると拡張コントロール画面が出現。9つのパラメーターでは、温度によってオシレーターが変化していく具合を決めたり、リトリガーやノート・プライオリティなどの細かい設定を行えます。

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鍵盤の下部をクリックすると出現する拡張コントロール画面。アナログのオシレーターの不安定具合を調整するSLOPや、ベロシティでフィルターを制御するVEL. FILTERのほか、リトリガー、ノート・プライオリティ、ピッチ・ベンド・レンジなど9つのノブを搭載している

 もちろん、Model 72ではプリセットの呼び出しや保存も可能。画面最上段の左側にひっそりと備えられているところがオリジナルのデザインを尊重しているようで、筆者としては愛を感じます。プリセット・メニューをクリックするとプリセットが一覧表示されますが、タグ付けや検索機能などが便利です。

 

 さて、肝心の音はどうでしょう。まず結論から言いますが、これまで筆者が触った同系統のソフト・シンセで比較する限り“最高得点”です。野太い低域と密度の濃い中域のシンセ・ベースはもちろん、速いアタックのエンベロープもバッチリ再現。当然、レゾナンスも自己発振可能です。それをオシレーター音と混ぜたときの“グルグルしたにじみ感”の再現もお見事。FEEDBACK機能を使ったベース音は極めて粗っぽく、ノブの位置次第では独特のオーバーロード感を得られます。

 

 個人的に気に入ったのは、伸びやかな高域。波形は10kHz以上でも全く崩れないため“ピー”という音を聴いているだけでも心地良く、まるで音のシャワーを浴びているかのようです。そのため、奇麗なベルやエグい金属音などFMを使った音はとてもお薦め。モジュレーション・ミックスでノイズを混ぜて作る不協和音的なベル・サウンドもよいでしょう。

 

 内蔵プリセットには、オリジナルの代表的なサウンドがすべて網羅されているため即戦力として大活躍すること間違いなし。ビギナーの方にとっては“ぜいたくな教材”にもなることでしょう。プリセットが対応できる音楽ジャンルはほぼすべて。たったこれだけのパラメーターですが、想像力を駆使することでまだまだ新しいサウンドを幾らでも作れます。あらためて“良いシンセだなあ”としみじみ思いました。

 

H2
【Profile】音楽家/テクニカル・ライター。劇伴、CM、サントラ、ゲーム音楽などの制作に携わる。宅録、シンセ、コンピューターに草創期から接してきており、たまった知識を武器に執筆活動も行っている。

 

SOFTUBE Model 72 Synthesizer System

オープン・プライス

(市場予想価格:14,455円前後+税)

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EQUIREMENTS
▪Mac:macOS X 10.12以降、AAX/AU/VST/VST3対応のホスト・アプリケーション
▪Windows:Windows 7/8/10(64ビット)、AAX/VST/VST3対応のホスト・アプリケーション
▪共通項目:INTEL Core 2 Duo、AMD Athlon 64 X2または最新のプロセッサー、1,280×800以上の画面解像度、8GB RAM以上、8GB以上のドライブ・スペース、SOFTUBEアカウント、iLok License Manager、インストーラーのダウンロードおよびライセンス登録のためのインターネット環境

 

製品情報

www.mi7.co.jp

 

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