API 500シリーズ互換のマイクプリ・モジュール、MONO GAMAのアップデート版。独自のディスクリートOPアンプを採用し、クリアな音質と優れた過渡特性を実現しているという。出力トランスの設定をスイッチで切り替えて使えるのも特徴。選択肢としてNICKEL(低ひずみ&フラットな低域)、DISCRETE(トランスレスでトランジェント応答を重視)、STEEL(40Hzを1dBブースト)、STACK(NICKEL+STEELの融合で強力なハーモニック・ディストーションを生む)が用意されている。
クリーンで力強く輪郭が鮮明な音
前モデルのMONO GAMAは筆者の拠点Endhits Studioで長らく愛用していて、ほかのスタジオでも導入率の高いマイク・プリアンプです。ニッケルとスティールの2種類の出力トランスを備え、トランスレスも含めて3種類のキャラクターを選択できますが、今回のHammer Forged MONO GAMA(以下、H.F.M.G.)で追加された“STACK”ポジションではニッケルとスティールの両トランスを合わせて使えるようになりました。
サウンドの要はディスクリートOPアンプにあります。ビンテージ機器を源流にしたキャラクターでありながらクリーンで力強く、輪郭がハッキリとしたバランスの良い音で、一番前に出したい曲のメインとなるボーカルや楽器に適します。トランスレスのDISCRETEポジションでも押し出しがあり、NICKEL、STEELの順に倍音が多くなりますが、STACKでは倍音の傾向はあまり変わらず柔らかさとスウィートな空気感が足される印象。サウンドが丸くならずにシルキーになるので重宝すると思います。
USビンテージ機を思わせるSTACK
ソース別に見ていくと、ドラムはキック、スネア、タムなどのオンマイクで音の輪郭が鮮明かつ前に出ます。筆者は前モデルでNICKELを使うことが多いのですが、本機では他ポジションでも説得力のある音が得られます。STACKはUSビンテージ機を思わせる音で、マイクをオフめに設置し、ソウルやファンクなどの70'sアメリカンなサウンドを狙うのもよさそうです。
ベースに前面のDI入力を使ってみたところ、ソリッドなサウンドが得られました。ベース/ギター用DIとしても問題なく使えます。バイオリンやアコギでも輪郭のハッキリとした音が得られますが、その際もSTACKで8型編成のストリングスをマイキングして、70'sディスコなサウンドを狙うことを妄想してしまいました(笑)。エレキギターについては、バッキングの場合はDISCRETEかNICKELが個人的にお薦め。高音域のソロ・パートなどはSTACKがうまく収めてくれそうです。
ボーカルには、前モデルではDISCRETEかNICKELを使うことが多いのですが、今回はキー低めの女性ボーカルにSTACKがマッチ。中高域にエッジがある少しハスキーな男性ボーカルにはNICKELとSTEELが合いました。いずれのポジションでも、あまりハズれがないため迷うこともありますが、楽曲のジャンルやアレンジに合わせて録りの段階でキャラクターを選べるのは非常に便利です。
H.F.M.G.はAPI 500シリーズ互換のマイクプリとしては高価格帯であるものの、音にはとても説得力があります。触れてみると、価格に見合った価値を見出す方が多いでしょう。
中村フミト(Endhits Studio)
【Profile】Endhits Studioを拠点に録音からマスタリングまで行うエンジニア。ビッケブランカ、Leina、ロイヤルギャルなどに携わるほか、ゲーム分野でのミックス/マスタリング、ボイス収録/整音にも尽力。
SHADOW HILLS INDUSTRIES Hammer Forged MONO GAMA
オープン・プライス
(市場予想価格:264,000円前後)

SPECIFICATIONS
⚫外形寸法:38(W)×134(H)×177(D)mm(突起物先端より/実測値) ⚫重量:1.06kg(実測値)