PMC PMC6 レビュー:縦/横設置に合わせてクロスオーバーを自動調節するパワード・モニター

PMC PMC6 レビュー:縦/横設置に合わせてクロスオーバーを自動調節するパワード・モニター

 PMCは1991年にイギリスで創立されたスピーカー・メーカー。キャピトルやメトロポリスなど、世界の名だたるスタジオのメイン・モニターにも同社のスピーカーが採用されています。高級大型スピーカーのイメージが強いですが、近年はTwotwoシリーズなどニアフィールド・モニターにも注力。そんな同社から社名を冠したPMCシリーズが登場しました。今回は、その中でも比較的コンパクトなPMC6をチェックします。

不要な周波数帯域をあらかじめ吸収する設計

 PMC6は、150mm径ウーファーと27mm径ソフト・ドーム・ツィーターを200W+200WのクラスDバイアンプで駆動する2ウェイ・パワード・ニアフィールド・モニターです。再生周波数帯域は39Hz~25kHzで、最大音圧レベルは106dB。キャビネット内部に、さまざまな素材の吸音材で音響処理を施した全長1.8mのトンネルが折り畳まれた状態で装備されており、奥行きがある作りです。これはPMC伝統のATLと呼ばれる技術で、ベース・ドライバーの背面から放射される不要な周波数帯域を吸収するように設計されています。トンネルの出口にあたるポートは前面にあるので、壁の反射など設置場所の影響を受けにくいのが魅力です。縦置き、横置きどちらでも使用可能で、変更時には内部のDSPエンジンがクロスオーバーを自動調整してくれます。

 

 電源や端子類、コントロールはすべてリア・パネルに装備。音声入力用のXLR端子はアナログだけでなくAES/EBUのデジタル入力も可能で、出力用の端子も備えています。レベル・トリムおよびローシェルフ/ハイシェルフを含む7バンドのパラメトリックEQは、共に±10dBを0.1dBステップで設定可能。ウーファーの12dB/octのハイパス・フィルターは、20~200Hzの連続可変です。スピーカーを設置する位置に合わせてフィルターを3つのモードFree Space/Wall/Cornerから選べる機能や、コンソールや机の反射による中低域の膨らみをカットするデスク・フィルターも装備。ほかにも30msまでのディレイ、位相の設定や入力信号の切り替えが、すべてリア・パネルのLCDディスプレイと2つのエンコーダーでコントロールできます。RJ-45ポートからルーターやMac/Windowsと接続することで、SoundAlignというインターフェースを介してスマートフォンからコントロールをすることも可能です。部屋中を動き回りながら操作ができるのは便利ですね。

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リア・パネル。左上部にはLCDディスプレイ、右上部には2つのエンコーダーを搭載。上のエンコーダーで設定するパラメーターを選び、下で値を調整する仕様だ。端子はAES/EBUアウト(XLR)、ライン/AES/EBUイン(XLR)、拡張カード用スロット、スピーカーを遠隔操作するWebインターフェースSoundAlignを利用するためのイーサーネット・コネクター(RJ-45)を装備

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PMCのスピーカーを制御、設定できるWebインターフェースSoundAlignの画面。スマートフォンやタブレット、Mac/Windows上のブラウザーを使ってアクセスすることができる

低域の解像度が高い。小音量でもバランスが変化しにくい

 まずは、リファレンス音源を幾つか聴いてみます。アナログ入力でスピーカー・スタンドに縦置きでセット。モードはいったんFree Spaceにしてみましたが、スピーカー背面と壁の間が10cm程度しか取れず若干低域がたまっているように感じたので、モードをWallに変えてみるとスッキリしました。

 

 第一印象は、見た目よりももっと大きなスピーカーが鳴っている音像感です。フラットでナチュラルなサウンドですが、おとなしいというのではなく、無理に派手な音作りでないのが好印象。各音のアタックや輪郭が鮮明でダイナミクスの表現力に優れており、減衰のニュアンスなどが細部まで聴こえます。特に低域の解像度の高さが素晴らしく、キックの余韻や、シンセ・ベースのローエンド、音程感もよく分かります。上は超高域まできちんと鳴っているものの、質感が滑らかでトゲトゲしさがありません。横置きにして聴いてみたところ、重心が少し下がり、全体がギュッとしてより一体感が生まれました。縦置き/横置きの切り替えや、EQの設定などを組み合わせることで、さまざまな設置環境に合わせて柔軟に対応することができそうです。

 

 次に、AVID Pro Toolsを立ち上げてミックスのセッションを聴いてみます。音の配置がよく分かり、特に前後の奥行きを感じました。ドライな音や中域が強めな音はしっかりと前に感じられ、空間的に広げている音は少し奥に聴こえ、音の対比が聴き取りやすいです。スピーカーの出音自体のひずみが極めて少ないため、ひずみ系のプラグインをかけたときの効果も分かりやすいと思います。僕はベースやキックをうっすらとひずませる際、その加減に悩むことが多いのですが、微妙な変化も的確に再生してくれるので迷い無く判断できそうです。

 

 また、モニター音量を変えてもバランスがほとんど変わらないのが印象的でした。小さい音量でモニターする場合、ベースなどの低域が少なく感じたりすることはよくあるのですが、PMC6は音量を変化させてもミックスの印象が変わりません。

 

 音を正確に再生し、シンセやサンプルをレイヤーしたときの空間の埋まり方が判断しやすいスピーカーです。ロックやポップスだけでなく、エレクトロニック・ミュージックの制作環境にも向いていると思いました。小さめの音量でも実力を発揮するので、自宅スタジオにもお薦め。ワンランク上のモニター環境を模索している方にはぜひ一度試してもらいたい製品です。

 

山崎寛晃
【Profile】HAL STUDIOを拠点とするエンジニア。Superfly、坂本真綾、Little Glee Monster、古内東子、ART-SCHOOL、SPANOVAなどを手掛け、曲想に合ったレコーディングに定評がある

 

PMC PMC6

オープン・プライス

(市場予想価格:660,000円前後/ペア)

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SPECIFICATIONS
▪形式:パワード ▪スピーカー構成:150mm径ウーファー+27mm径ソフト・ドーム・ツィーター ▪内蔵アンプ:200W(低域)+200W(高域)、クラスD ▪周波数特性:39Hz〜25kHz ▪最大音圧レベル:106dB ▪感度:98dB ▪外形寸法:215(W)×400(H)×372(D)mm ▪重量:11.1kg(1台)

製品情報

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