Ohma Condenserは、アメリカ・ロサンゼルス東部のオーディオ・デザイン・ブランドOHMA WORLDのコンデンサー・マイクです。このブランドは性や人種などにおいて多様なバックグラウンドを持つ人々により設立されたとのことで、“真にクリエイティブであり、冒険心と遊び心を刺激する製品”をデザインすることを標榜しているそうです。
マグネット式のグリルは付属のギター・ピックで脱着
Ohma Condenserの最大の特長は、“スクリーン”と呼ばれる5種類の専用マイク・グリルを好みに合わせて付け替えることができるコンデンサー・マイクというところです。本体にデフォルトで付属しているスクリーンは“Motif”という名称。別売りの4種はそれぞれ“Stripes”“Scales”“Windows”“Holes”と名付けられており、これらを付け替えることでマイクのレスポンスやトーンを変化させサウンド・メイクしていきます。なお、本体の指向性は単一指向です。
見た目については今まで録音に使ってきたマイクの中で一番お洒落です! “冒険心と遊び心を刺激するデザイン”とうたうだけあって、スクリーンの模様もカラーも斬新! これらがサウンドのために計算されたデザインなのかは分かりませんが、スクリーンを付け替えて録音するのが楽しみになります。マグネット式なので脱着もすごく簡単で、付属のギター・ピックを使って取り外す仕組みです。
ここからは、普段使用しているマイクとOhma Condenserの各スクリーンでアコースティック・ギターとボーカルを録音し、サウンドの変化と各スクリーンの特長を見ていきます。今回はオーディオI/O内蔵のマイクプリに接続し、AVID Pro Toolsに24ビット/96kHzで録音しました。
ふくよかな低域と自然な高域が印象的なMotif
まずはMotifを付けて録音。全体的な印象としては、低域がとてもふくよかで、中高域辺りも無理に強調されておらず、高域にかけてすごくナチュラル。耳に痛くありません。低域は特に80Hz以下がとてもリッチではっきりとしていて、それでいて圧迫感のないスムーズなサウンドです。アコギは低音弦の響きがしっかり捉えられ、やはりふくよか。強めに弾いても高域にいやらしさが出ず、優しく伸びています。ボーカルに関しては、低音をしっかり捉えてくれるので声が温かく聴こえ、バラードなどの優しい曲との相性が良さそうです。普段使用しているマイクと比べても低域の出方は柔らかく、高域は若干控えめに感じましたが、物足りなさは全くなくすごくナチュラルな印象でした。
4種の別売りグリルもそれぞれ個性が異なる。独自開発のカプセル搭載などマイク本体も確かな設計
続いて、ほかの4種のスクリーンも試していきます。
●Stripes
Motifに比べて、低域が少し締まって録れている印象です。代わりに中低域辺りが若干前に来るような感覚がありました。高域の出方は大きくは変わらないように感じます。アコギは中域がしっかり拾われていて力強く、高域の出方はMotif同様に優しいイメージです。ボーカルは中域がしっかり出ていて存在感がありながら、低域が締まっているからか、ボワつきは抑えられていました。
●Scales
こちらもMotifに比べて低域が少し締まっている印象を受けましたが、存在感はしっかりとあります。全体的に優しく、無理に強調されるところがない素直なサウンドでした。アコギは低音弦の響きがとても柔らかく、温かいです。Motifのようにしっかり低域が出ていますが、より優しい響きに聴こえます。ボーカルは角が立たず、すごく滑らかに感じました。欲しい部分だけをEQで調整する際、処理しやすそうです。
●Windows
派手さはありませんが、Motifに比べてよりナチュラルで優しいサウンドです。しっかりとした低域感と無理のない高域で、ミックスの際も処理がしやすそうだと思いました。アコギはとてもフラットに録音されていて、タッチのニュアンスなどがモニターでも分かりやすく、演奏しやすいのが印象的でした。ボーカルもアコギ同様、自分の声がすごくナチュラルに聴こえ、歌っていて強弱が付けやすいと思いました。
●Holes
高域の出方について、一番存在感がある印象でした。いやらしくない程度に抜け感があり、低域とのバランスもとても良いと感じます。アコギは輪郭が分かりやすいきらびやかなサウンドで、高音弦がはっきり響いていて気持ち良いです。ボーカルも声の響きが一番はっきりと分かります。高域が持ち上げられているというよりは、スムーズに抜けてくるイメージです。存在感があり明るいサウンドでした。
以上のように、スクリーンごとに確かなサウンドの変化を感じることができました。“このスクリーンではあの楽器を録音したい”“この出音ならこちらのスクリーンを使ってみよう”など、1つのマイクでかなり幅広くサウンド・メイクできると思います。そもそもOhma Condenserでは、自社製造のカプセルやCINEMAG製トランスを採用しており、マイク自体が確かな設計だと考えられます。それによりスムースで広いレスポンスが生み出されているのだと思います。
普段から使いなじみのあるマイクも大好きですが、今後はOhma Condenserのような新しいマイクもたくさん試していきたいですね。冒険心と遊び心を忘れずに、新たなサウンドを追い求めていきたいと感じさせられました。
井上典政
【Profile】最新EP『LOTUS』を発表したほか、テレビ・ドラマ『宙わたる教室』サントラも手掛けるインストゥルメンタル・バンド・jizueのギタリスト。deco recording studio主宰のエンジニアとしても活動。
OHMA WORLD Ohma Condenser
レギュラー・カラー(写真はレギュラーのTeal/Apricot):136,400円/カスタム・カラー:157,300円/マイク・スクリーン:各9,900円
SPECIFICATIONS
▪指向性:単一指向 ▪周波数特性:20Hz〜20kHz ▪感度:−35.25dB(0dB=1V/Pa、1kHz) ▪出力インピーダンス:150Ω ▪電源:48Vファンタム電源 ▪付属品:ギター・ピック(スクリーン取り外しに使用)、Motifスクリーン、マイク・クリップ ▪外形寸法:48(φ)×190(H)mm ▪重量:本体のみ/211g、スクリーン・セット/96g