OEKSOUND Bloom レビュー:信号の特性を分析しソースに適した処理を加えるトーン・シェイパー

OEKSOUND Bloom レビュー:信号の特性を分析しソースに適した処理を加えるトーン・シェイパー

 ここ3〜4年で、瞬く間に話題になったプラグイン・デベロッパーOEKSOUND。フィンランドに拠点を置き、ダイナミック・レゾナンス・サプレッサーのSoothe2に代表される洗練されたGUI、直感的な操作で得られる革新的なサウンドで多くのファンを獲得しているものと思われます。本稿では期待の新製品Bloomをチェックしていきます。

信号全体への効果をamountで設定し、スライダーで各帯域のかかり具合を調整

 “適応型トーン・シェイパー”をうたうBloom。入力信号の特性を分析し、均整の取れた音にしたり、温かみや明瞭さを積極的かつ自然に加えたりするエフェクトだそうです。見た目から4バンドのダイナミクス・プロセッサーではないの?という予想には、イエスでありノーであると言えます。処理はとても複雑で、マルチバンド・コンプのように各帯域でのブースト/カットを行えるのですが、デフォルトでは入力信号レベルに依存しません。プラグインが信号の“周波数”を解析し補正を加えます。つまり信号の周波数分布を読みにいくので、曲を入力するとGUI内のグラフ(上掲画面の右下)が常にウネウネ動きます。マスター・バスにインサートしてみると中域に寄せがちな筆者のミックスは明るくクリアになり、代わりにボーカルが引っ込んだかなと感じたので、amountノブを下げていくと細かい調整なしに実用レベルで自然に良い効果をもたらしてくれました。

 左のメイン・セクションには3つのノブがあります。一番大きなamountノブで全体の効果をコントロールするのですが、0〜7までは入力レベルに依存しない先述のモードです。深くかけても音量が変わらず、トーンが変化するのみ。7〜10はSquash rangeモードとなり、アグレッシブな効果を得られ、聴こえる音量にも変化が表れます。attackノブでは入力信号に変化が加わるまでの時間、releaseノブでは変化が解除されるまでの時間を調整できます。

 右上にある4バンドのスライダーはトーン・コントロールで、各帯域の効果の深さを調整するセクションです。狙った効果を得るために周波数ポイントを指定でき、ソロ再生も可能。スライダー上部の数値は音量ではなく、あくまで効果の強弱の目安とのこと。各スライダーはオン/オフが可能ですが、“強弱を付けること”のオン/オフなので、amountで設定した全体の効果には反映されません。

 そして右下のグラフは、ブーストされた帯域を白色、カットされた帯域を灰色で示すほか、トーン・コントロールによる各帯域の変化をスライダーに対応した色で表示します。また、両サイドの黒いバーを水平方向に動かすことで、エフェクトをかける帯域を指定できます。例えばボーカルへの影響を抑えるために中域にはエフェクトがかからないようにしたり、バスドラには影響を与えずシンバルを強調したりすることが可能。グラフ下部には処理済みの信号へのローカット/ハイカットも装備されています。

4バンドのトーン・コントロール(画面上)とプロセッシング・グラフ(同下)。プロセッシング・グラフは、トーン・コントロールの効果を各帯域のスライダーに対応した色で表示できる視認性の良さが特徴で、画面はボーカルヘの影響を抑えるべく、中域にエフェクトがかからないように設定したもの。狙った帯域へピンポイントにエフェクトをかけたい際にも分かりやすく調整できるだろう

4バンドのトーン・コントロール(画面上)とプロセッシング・グラフ(同下)。プロセッシング・グラフは、トーン・コントロールの効果を各帯域のスライダーに対応した色で表示できる視認性の良さが特徴で、画面はボーカルヘの影響を抑えるべく、中域にエフェクトがかからないように設定したもの。狙った帯域へピンポイントにエフェクトをかけたい際にも分かりやすく調整できるだろう

 画面最下部のパラメーターは、左端が“quality”の選択。デフォルトの“normal”のほか、繊細な楽器やバス処理に向けて、より解析の精度を上げる“high”モード、トラッキング時のモニターに最適な“low latency”モードが用意され、サウンド、CPU消費量、レイテンシーに影響しますので、状況に合わせて選択する形でしょう。その右のstereo modeでは、“M/S split”や“L/R split”などを選べます。squash calは、Squash rangeモード時のスレッショルドとでも言いましょうか。数値を上下させることにより、どれだけ持ち上げるか、抑えるかのコントロールができます。適正値に設定するためのsetボタンも備えていますが、エグい効果を狙う場合は、原音/エフェクト音のバランスを調整するmixと一緒に積極的にいじってみましょう。

音作りの下準備から最終段での補正用途まで活躍

 新世代のツールゆえ概要説明が長くなりましたが、使用感をレポートします。いわゆるナチュラルに録音された歌や生楽器にインサートすると、多くの場合デフォルトの状態でもクリアに明るくはっきりとしたサウンドになります。中低域の濁りは抑えられ、明瞭さをつかさどる高域が持ち上がり、筆者がよくやる下準備を自動処理してくれる感じです。“処理対象の周波数を自動的に検出するダイナミックEQ”というような面持ちですが、高域が持ち上がったことでボーカルの歯擦音がキツくなるというのも見受けられず好印象。後段に入れるコンプレッサーの数が減りそうです。EQで生じるようなひずみ感もなく、総じて自然でクリアな処理をもたらしてくれるので、楽器のバスやマスター・バスにうっすらかけるのも有効だなと感じました。

 お勧めはアコギ、生ピアノなどの高域だけにかかるようにグラフ上のバーを調整しブーストすること。耳に痛くならずに倍音感をプッシュすることができるので試してみてください。エフェクトのかかる帯域を絞ったり、エフェクトの量をコントロールしたりすることで、非常に有効な便利ツールになることでしょう。Bloomには弱点が見当たらないのですが、強いて言えばコントロールせずに深くかけていくと、良しとしていたエグ味、個性的な旨味まで平らになってしまうので用法用量はお間違えなく。気付かないほど自然なので。

 Bloomはエフェクト・スロット初段に挿しての音作りの下準備、または最終段に挿してちょっと強調したい場合など、補正用途にも使えるオールラウンダーなプラグイン。ほかで代用するとなると複雑な手順を踏まなくてはならない処理を、優秀なGUIでスムーズに実現します。エンジニアだけでなくクリエイターの方にも非常にお薦めです。

 

星野誠
【Profile】ビクタースタジオを経てフリーで活動するエンジニア。クラムボンの曲を多数手掛けたことで知られ、近年はsumika[camp session]、Cody・Lee(李)、MIMiNARIなどのアーティストに携わる。

 

 

 

OEKSOUND Bloom

35,068円(為替レートにより変動)

OEKSOUND Bloom

REQUIREMENTS
▪Mac:macOS 10.14〜14、INTEL製CPUまたはApple Silicon、AAX/AU/VST3対応のホスト・アプリケーション(64ビット)
▪Windows:Windows 10/11、AAX/VST3対応のホスト・アプリケーション(64ビット、AVID Pro Toolsの場合はバージョン11以上)

製品情報

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