OBERHEIM TEO-5 レビュー:名門ブランド創設者の名を冠した5ボイス・アナログ・ポリフォニック・シンセ

OBERHEIM TEO-5 レビュー:名門ブランド創設者の名を冠した5ボイス・アナログ・ポリフォニック・シンセ

 1970年頃に活動を開始し、10年ほど世界を席巻したアメリカのシンセサイザー・メーカーといえば、ARP、MOOG、SQUENTIAL、そしてOBERHEIMがトップ4であることに異論はないと思います。そんなビッグ4の創始者たちが次々と鬼籍に入る中、現在もなお現役で活躍するエンジニアがトム・オーバーハイム。ついこの前、88歳の米寿をお迎えになりました。おめでとうございます。同氏率いる現在のOBERHEIMブランドに、最新モデルとして、5ボイスのアナログ・シンセTEO-5が加わりました。“TEO”というのは“Thomas Elroy Oberheim”、つまりオーバーハイムの本名のイニシャルですから、スタッフたちが創始者へのリスペクトを込めて付けたのかもしれませんね。

現行モデルの中で最もコンパクトな筐体にOBERHEIMを代表するサウンドがびっしり

 TEO-5以外の現在のOBERHEIM関連のモデルはというと、まずはSEQUENTIAL Prophet-5の生みの親であるデイヴ・スミスとコラボレーションしたSEQUENTIAL OB-6、そしてOBERHEIMのフラッグシップ・モデルであるOB-X8(いずれも鍵盤なしのモジュールもあり)です。鍵盤サイズの目安を言うと、OB-X8が5オクターブ、OB-6が4オクターブ、TEO-5は3.5オクターブですので、TEO-5は現行機種の中で最もコンパクトです。パネル・デザインは1980年代に登場したOB-XAやOB-8の“黒地に青ライン”を踏襲したものです。この青ラインのデザイン、筆者は好きですね。気のせいかもしれませんが、見やすい気がするのです。

 トップ・パネルにはツマミとボタンが整然と並べられ、全くのシンセ初心者が見ると圧倒されるかもしれませんが、実はよく使うツマミだけに絞られていて、合理的な並びになっていると思います。鍵盤のベロシティやアフター・タッチの反応もすこぶる良好で、指を震わせてビブラートをかけるなど音の表現力向上に威力を発揮します。MIDI端子やUSB端子も装備していますから、DAW用鍵盤としても使えますね。

リア・パネル。左上から電源スイッチ、AC接続、USB MIDI端子(USB-B)、MIDI IN/OUT/THRU、フット・スイッチ入力(TRSフォーン)、エクスプレッション・ペダル入力(TRSフォーン)、オーディオ出力R/L(それぞれTSフォーン)、ヘッドホン出力(ステレオ・フォーン)

リア・パネル。左上から電源スイッチ、AC接続、USB MIDI端子(USB-B)、MIDI IN/OUT/THRU、フット・スイッチ入力(TRSフォーン)、エクスプレッション・ペダル入力(TRSフォーン)、オーディオ出力R/L(それぞれTSフォーン)、ヘッドホン出力(ステレオ・フォーン)

 まずは、プリセットのサウンドを聴いてみましょう。TEO-5には、256のファクトリー・プログラムと256のカスタム・ユーザー・プログラムのエリアがあり、それぞれ16のバンクに16音色ずつがメモリーされています。ファクトリーBank 1から順番に聴いていくと、OBERHEIMを代表するおなじみのサウンドがびっしり。“あー、これもOBサウンドだったっけ!”とノスタルジーに浸ってしまいます。しかし半分過ぎた辺りから、壁一面のモジュラー・シンセを使って作り込んだような音など、マニアックな音が増えてきます。これがなかなかすごいのです。そういったサウンドを、鍵盤のベロシティやタッチ、さらにホイールを併用することで音をモーフィングさせていくなんてことは1980年代のモデルでは不可能でしたから、TEO-5は過去のアナログ・シンセの良い音を継承しつつ、現代のエッセンスを融合させることを目指しているのが伝わりますね。

 また試聴の途中で気がついたこととして、TEO-5には鍵盤を分割することができるLOW SPLITという機能があり、例えば“一番下のFから1オクターブ上のFまで”と、“そこから上”の2つに分割にし、さらに前者のピッチを1オクターブ下げる、なんて使い方もできます。TEO-5は持ち運ぶ機会も多いでしょうから、ライブでも少ない機材でプレイの選択肢が増えることは歓迎です。

モジュレーション・ホイールとピッチ・ホイールの横、オシレーター・セクションの下に配置されたLOW SPLITスイッチ。44鍵を2つに分け、低いほうの鍵盤をトランスポーズできるもので、ライブでの演奏時などに便利。−2オクターブと−1オクターブを選択することができる

モジュレーション・ホイールとピッチ・ホイールの横、オシレーター・セクションの下に配置されたLOW SPLITスイッチ。44鍵を2つに分け、低いほうの鍵盤をトランスポーズできるもので、ライブでの演奏時などに便利。−2オクターブと−1オクターブを選択することができる

“音作りが上手くなってね?”と思わされるX-MOD 名機SEMを踏襲したステート・バリアブル・フィルター

 ということで、ここからは内部構成を追いかけていきましょう。VCOは2基。どちらにも三角波、ノコギリ波、矩形波が用意され、これら3つの波形は同時使用が可能ですから、複雑な波形を使うことができます。オシレーター・シンクやサブオシレーター、ノイズなど定番のパラメーターも搭載されていますが、一番のキモはX-MODでしょう。

左からオシレーター・セクション、オシレーター・モジュレーション、フィルター・セクション。2基のVCOには同時に使用可能な三角波、ノコギリ波、矩形波が用意される。写真中央上部にはX-MODツマミ(黄枠)が配置され、これにより幅広い音作りに対応。フィルターは同社の名機SEMタイプのステート・バリアブル・フィルターを搭載。右上のSTATEツマミでローパス→ノッチ→ハイパスとモーフィングさせることができるほか、バンドパス・モードに切り替えることもできる

左からオシレーター・セクション、オシレーター・モジュレーション、フィルター・セクション。2基のVCOには同時に使用可能な三角波、ノコギリ波、矩形波が用意される。写真中央上部にはX-MODツマミ(黄枠)が配置され、これにより幅広い音作りに対応。フィルターは同社の名機SEMタイプのステート・バリアブル・フィルターを搭載。右上のSTATEツマミでローパス→ノッチ→ハイパスとモーフィングさせることができるほか、バンドパス・モードに切り替えることもできる

 これはクロス・モジュレーションと呼び、機能としてはVCO 2の波形でVCO 1の周波数を変調するという、いわゆる周波数変調(FM)を行うものになります。FMには変調方式が幾つかありますが、TEO-5ではその中の1つである“スルーゼロFM”という方式が採用されています。スルーゼロFM方式の解説は割愛しますが、とりあえず特徴としては、荒れた暴力的な音から奇麗な金属音系まで、広範囲な音作りが可能であると思えばいいでしょう。プリセット試聴の際、後半に斬新な音が多かったと述べましたが、そこに登場した金属系の音やノイズ混じりのパーカッシブな音などは、X-MODを効果的に利用しているものが多かったです。筆者的には、とりわけ金属系のかかり具合が気に入りました。X-MODはツマミが1つしかありませんから、基本的にVCO 1/2の周波数比とX-MODのアマウントで音を作りますが、これがハマるんです。なんか俺、音作り上手くなってね?と錯覚するくらい良い音が次々できるのです。ここはTEO-5のウリの1つなので覚えておいてください。

 フィルターは、本家本元・OBERHEIM SEMタイプのステート・バリアブル・フィルターが搭載されており、ローパス、ハイパス、ノッチ、そしてバンドパスが使えます。ディスクリートで回路が組まれているそうで、一般論ではありますが、ディスクリート回路は音質的に最も有利であると言われています。なおバンドパスを選択する際、オリジナルのSEMではノブを回して“カチッ”とスイッチを入れて切り替えますが、TEO-5ではディスプレイ上からオン/オフを指定します。フィルター・モジュレーションについては、レゾナンスやフィルター・カットオフだけでなく、ローパス、ノッチ(またはバンドパス)、ハイパスというフィルター・カーブ(STATEと呼びます)も対象にできます。音作りの強力な武器となりますね。

エンベロープはDelay+ADSR LFOは5つの波形を備えたポリ/モノ仕様

 エンベロープ・ジェネレーター(以下、エンベロープ)は、1980年代にProphet-5と人気を二分したOB-8の電圧カーブをモデリングしつつ、Delay+ADSRの5ステージ仕様に。

エンベロープ・ジェネレーター。ENV 2はアンプ、フィルター+アンプ、フィルター+ゲートに設定することができる

エンベロープ・ジェネレーター。ENV 2はアンプ、フィルター+アンプ、フィルター+ゲートに設定することができる

 このエンベロープはものすごく使いやすいです。人間の感覚と回転角がピッタリな印象で、音作りが素早くできます。なおADSRはツマミですが、Delayとエンベロープのループ切り替えはディスプレイから設定するようになっています。エンベロープは2基搭載され、デフォルトはENV 1がフィルター、ENV 2がアンプに設定されていますが、ENV 2はフィルターとアンプの両方にかける、なんてこともでき、その場合ENV 1はオシレーターのピッチ・コントロール用など予備として使うことが可能になります。例えばこの予備のエンベロープをループ・モードにし、オシレーター・ピッチをリアルタイムでコントロールすれば、アナログ・シーケンサーのようにフレーズを逐次変化させられるようになります。

 2基用意されているLFOはそれぞれ5つの波形(三角、ノコギリ、逆ノコギリ、矩形、サンプル&ホールド)を装備し、テンポ・シンクが可能。

LFOセクション。LFO 1はモノ、LFO 2はポリ仕様で、それぞれに5つの波形が用意されている

LFOセクション。LFO 1はモノ、LFO 2はポリ仕様で、それぞれに5つの波形が用意されている

 そしてLFO 1は一般的なモノなのに対し、LFO 2はポリ仕様ですから、使い方次第で表現力が広がりますね。例えば4ボイスのストリングを演奏する場合、LFO 1でビブラートをかけると全部同じ揺れ具合になりますが、ポリを使うとボイスごとに揺らすことができます。

 これらエンベロープやLFOはモジュレーション関連のセクションになりますが、TEO-5は全部で19のソースが使え、デスティネーションは64におよび、それらを19のスロットでおのおのセットする仕様です。数字は大きいほうがうれしい。でも使い勝手が悪くては台無しですよね。しかしTEO-5はというと、非常に簡便です。MODセクションにあるSOURCEボタンまたはDESTINATIONボタンを押しながら、それぞれの対象にしたいパラメーターのツマミを回すか、対象とするツマミがない場合、SELECTツマミをカリカリ回して選択してあげるだけです。

伝説のリング・モジュレーターやフェイザーなどOB-6譲りのエフェクトは“エグい効き”

 エフェクトは2系統で、1つ目はデジタル・ディレイ、BBDやテープ・ディレイのエミュレーション、コーラス、フランジャー、LESLIEスピーカーのシミュレーション、ハイパス・フィルター(パネル上のそれとは別物)、ディストーション、ローファイ、そして1970年代にトム・オーバーハイムが設計し、MAESTROブランドで発売した伝説のリング・モジュレーターRM-1やフェイザーPS-1のモデリングと、なかなかの内容。

左から、アルぺジエイター、シーケンサー、エフェクト・セクション。シーケンサーは最大64ステップのポリフォニック・ステップ・シーケンサー。エフェクトは、マルチエフェクト1系統とリバーブ1系統の2系統

左から、アルぺジエイター、シーケンサー、エフェクト・セクション。シーケンサーは最大64ステップのポリフォニック・ステップ・シーケンサー。エフェクトは、マルチエフェクト1系統とリバーブ1系統の2系統

 ちなみにRM-1とPS-1の搭載はOB-6が初出です。やはり良いものはどんどん継承していくというわけですね。実際、かなりエグいと言いますか、独特のかかり方をするように感じました。もう1つのセクションはリバーブ専用で、内容的にはプレート・リバーブをエミュレートしたものです。なお、2つのエフェクトのパラメーターはもちろんモジュレーションの対象になるので、ただかけっ放しにするのではなく、積極的に音作りに組み込むと面白さ倍増です。なおパネルにはOVERDRIVEというツマミがあり、文字通り任意の量のひずみを付加するものですが、こちらはエフェクトに入っているOver Driveとは別物です。

ビンテージ・シンセの質感を再現するツマミやアルペジエイター/シーケンサーなど便利な機能も

 ほかにも、VINTAGEツマミはSEQUENTIALの一連のシンセでおなじみとなったもので、往年のビンテージ・シンセが持つチューニングのズレを良くも悪くも意図的に再現します。ところで、“なぜOBERHEIMのシンセにSEQUENTIALなの?”と思うかもしれませんが、現在のOBERHEIMとSEQUENTIALはFOCUSRITEの運営下にあるので、技術提携があるのは当然の帰結なのであります。で、このVINTAGEツマミですが、全く加えないこともできますし、マックスに設定するとかなり怪しい感じとなりますから、作りたい音色に合わせて加えてみるとよいでしょう。筆者の感覚だと、大体12時くらいに設定したときに、1970年代から1980年代初頭のシンセと同等の質感だと感じられました。

 またVINTAGEツマミ下のUNISONボタンは、最大5つの音を重ねてモノラルで鳴るようにしてくれます。最大5ボイスなので、TEO-5を1ボイスだけのモノシンセとして使うこともできます。ワンコード・メモリーも可能で、例えば“ドミソ”を押さえてUNISONボタンを押せば設定完了。あとは鍵盤上を移動させて移調して鳴らすなんてもこともできますし、その横のPORTAMENTOボタンと併用して、OBERHEIMお得意の“ギュワーン”というポリフォニック・ポルタメントを楽しむのもよいでしょう。そしてARPEGGIATORはいろいろなシーンで活躍します。HOLDボタンを押してループ・プレイ・モードにしておき、音色を次々と変化させるのがお勧め。パターンをオリジナルにしたいなら、シーケンサーを使いましょう。ポリフォニックも記録できます。

 ほかにもまだまだご紹介したい機能がありますが、字数の関係上、ツマミを中心とした解説と、その使用感をレビューさせていただきました。TEO-5は価格的にはOBERHEIMのエントリー機に位置しますが、まずは音質が素晴らしいのです。音が良いということがどれほど重要であるかは、1970〜80年代のビンテージ・シンセがいまだに人気を博していることからも証明されていますよね。それを考えると、本機も末長く使えることは間違いありません。そして良くできた音色プログラムは、本機のこれからの可能性も示唆しています。つまり、往年のOBERHEIMサウンドのみならず、さまざまな音色が作れるポテンシャルを秘めているということです。

 “どんな音でも無限に作れる”とまでは言いませんが、少なくとも元が取れるくらいに楽しむことは、すぐにできるでしょう。筆者もひさしぶりに”これは欲しいシンセだな”と思いました。

 

H2
【Profile】音楽家/テクニカル・ライター。劇伴、CM、サントラ、ゲーム音楽などの制作に携わる。宅録、シンセ、コンピューターに草創期から接しており、蓄積した知識を武器に執筆活動も展開している。

 

 

 

OBERHEIM TEO-5

オープン・プライス

(市場予想価格:299,800円前後)

OBERHEIM TEO-5

SPECIFICATIONS
▪ボイス:5 ▪鍵盤:44鍵(FATARベロシティ&タッチ・センシティブ・キーボード) ▪オシレーター:2基(ノコギリ波、矩形波、三角波、ノイズ) ▪フィルター:ローパス、ハイパス、ノッチ、バンドパス ▪エンベロープ・ジェネレーター:2基(Delay+ADSR) ▪LFO:2基(LFO 1はモノで、2はポリ) ▪パッチ・メモリー:256カスタム・ユーザー・プログラム+256ファクトリー・プログラム ▪エフェクト:マルチエフェクト1系統+リバーブ1系統 ▪シーケンサー:64ステップ・ポリフォニック・シーケンサー ▪その他:VINTAGEツマミ、アルペジエイター、UNISONボタン、OVER DRIVEツマミ、LOW SPLITボタンなど ▪入出力:USB MIDI端子(USB-B)、MIDI IN/OUT/THRU、フット・スイッチ入力(TRSフォーン)、エクスプレッション・ペダル入力(TRSフォーン)、オーディオ出力LEFT/RIGHT (それぞれTSフォーン)、ヘッドフォン出力(ステレオ・フォーン) ▪外形寸法:635(W)×112(H)×324(D)mm ▪重量:7.8kg

製品情報

関連記事