NATIVE INSTRUMENTS(以下NI)から、総合音源&エフェクト・バンドルの定番シリーズ、Kompleteの最新バージョン=Komplete 13が発売されました。“とりあえずKompleteがあれば、ほぼすべての音楽ジャンルをカバーできる”と言えるほど、ありとあらゆるジャンルのソフト・シンセ、サンプル・ライブラリー、エフェクトが一つのパッケージにまとめられています。
高品質なサウンドを手早く仕上げられる
アナログの温かみもしっかりと表現
2003年に初代のバージョンが発売されて以来、今年で17年目となるKomplete。筆者も長年愛用していますが、何でもそろうサウンド・パレットとして便利に使える反面、初期のKompleteは、専門性や個性が光る音源が今よりも少なく、専門性に特化した分野の音源は他社のものをチョイスしていました。しかし、ここ数年のKompleteシリーズのクオリティの進化は素晴らしく、ほかに代えが利かないオンリーワンの個性ある製品をたくさん提供してくれています。特にシネマティック系は少ない手数で高品質なサウンドを仕上げられるユーザー・インターフェースを備え、ドラマや映画などの劇伴を主軸に活動している筆者としては、日々の仕事に無くてはならないメイン・パートナーとなっています。
初期Kompleteシリーズのサウンドはどことなくデジタル的な硬さがありましたが、年々音質も進化。近年収録された音源にはしっかりとアナログライクな温かみがあり、MIDIキーボードで演奏するだけで絵が見えるほど、素晴らしいものが増えました。今回のKomplete 13では、シネマティック系のArkhis、Noire、Mallet Flux、Stradivari Violin、ボーカル音源のMysteria、Straylight、Pharlight、ギター音源のSession Guitarist – Electric Sunburst Deluxe、Session Guitarist – Picked Acoustic、ドラム音源のButch Vig Drums、シンセのSuper 8、Modular Iconsなどの新音源のほか、Guitar Rig 6 Proなどの新しいエフェクトも収録しています。
グレードは、Komplete 13 Select、Komplete 13、Komplete 13 Ultimate、Komplete 13 Ultimate Collector’s Editionの4種類をラインナップしており、各バンドルに収録されている製品は異なるので、NIのWebサイトを参照してください。今回筆者が試したのは、Komplete 13 Ultimate Collector’s Editionという最も収録内容の多いパッケージ。その中から幾つかをピックアップして紹介します。
ヒューマンかつ音楽的な演奏を再現する
アコースティック・ギター音源
NIのWebサイトでデモを聴き、その進化に最も驚いたのがSession Guitarist – Picked Acousticでした。NIのギター系音源シリーズであるSession Guitaristは、アコースティック/エレクトリック共に、近年目覚ましい進化を遂げており、本チャンのトラックとして使用しているというプロ・クリエイターも多数いますが、さらに1段も2段もサウンドに磨きがかかっています。
まず頭をよぎったのが、“Webサイトのデモ演奏のクオリティを出すには相当ち密なプログラミングやキー・スイッチの切り替えが必要なのではないか”もしくは、“既存のサンプルをパズルのようにつなぎ合わせて作られているのではないか”ということでしたが、試奏してそれは杞憂に終わりました。ピックとストラミングで演奏された194のパターンを鳴らせるバッキング用と、メロディとパターンを自由に演奏できるメロディ用の2種類のインストゥルメントが収録されており、デモ楽曲は両者を組み合わせたアンサンブルで作られていたようです。メロディ用インストゥルメントを適当に演奏してみたところ、絶妙なタッチ感や弦のテンション感があり、とても音楽的な演奏ができるセッティングだと感じました。サウンド面は、Guitar Settingsタブでマイク・セッティングを中心に細かく調整することができます。サンプルの収録にはビンテージ・マイクや真空管コンデンサー・マイクなどを用いているそうで、従来のアコースティック・ギター音源に付き物だったシンセっぽさが極限まで排されているようにも感じました。
アーティキュレーションは、オープン/ミュート/フラジオレット/トレモロの4種類があり、それぞれピックと指弾きの2種類のサウンドが収録されています。コード・パターンの演奏はコードの変わり目でブツ切れになることなく、自然なつながりになるよう演奏される上、フレット・ノイズなども自動的に付加。ヒューマンで音楽的な演奏を再現するためにこれまで2手も3手もかかっていた手間がぐっと省けるようになりました。よりストラム演奏に特化し、すでに定評のあるStrummed Acousticと併用しても良いでしょう。
音の温かさと深さが印象的なエレキギター音源
劇伴制作でも即戦力に
エレキギター音源のElectric Sunburst Deluxeも、Picked Acousticと同じ要領で使用できます。Amp&FXタブに、アンプ・シミュレーターやエフェクターが多数用意されているため、別途プラグイン・エフェクトを準備する必要が無く、この音源内でサウンドを完結することが可能です。とはいえ、原音が非常にナチュラルで扱いやすいため、外部のアンプ・シミュレーターなどを併用して、自分好みのサウンドに仕上げるのもよいでしょう。アコースティック/エレクトリック共に、音の温かさと深さが印象的で、それほどトラック数が無くとも十分に楽曲が成り立ちそうな感じがしました。劇伴のレコーディングにおいて、ギターは持ち替えやダブリングが多く、意外に時間がかかるパートではありますが、Session Guitaristを使えばいろいろなことを任せられるかもしれないので、“ 録音時間の制約を気にせずギター曲を作ることができるな”と期待が膨らみます。
プロのビブラート演奏をモデリング
ストラディヴァリのバイオリン音源
次に気になっていたのが生楽器系の新製品Stradivari Violinです。Webサイトには、“イタリアの都市クレモナにて綿密にサンプリングされた、Stradivari“Vesuvius”の傑出したサウンド”とありますが、まさにこの綿密なサンプリング技術こそNIの真骨頂でしょう。試奏してみて一見普通に思えるこの自然な演奏感は、従来のソロ・バイオリンの音源ではなかなか得られないものでした。特に生音系のライブラリーは、位相の乱れや各アーティキュレーションのピッチもしくはダイナミクスのばらつきが気になったりしますし、かと言って物理モデリング・タイプを試しても生楽器が持つ温かみや空気感が感じられない単調な音で味気なかったりと、なかなか気に入ったものが無かったのです。しかし、このStradivari Violinはそれらの問題点をかなり高度な水準でクリアしているように思います。
まず基本的なことですが、サンプルの音高、長さ、タイミングの正確さは極めて優れており、速いフレーズやランなどを演奏してもリズムの乱れがありません。この点はNIのオーケストラ楽器系のライブラリーは特に優れています。それに加え、バイオリン演奏のだいご味であるビブラートは、名演奏家のビブラート演奏をモデル化し、リアルタイムのコントロールやオートメーションでサンプルに再適用されるような仕組みになっているようです。それにより、生々しくフレーズの抑揚に即したビブラート表現が可能となっています。
アーティキュレーションは、闇雲にたくさんの種類が入っているのではなく、必要かつ十分な種類のものが用意されており、どれも音色のばらつきが無く(これが大切!)、曲中でも違和感無くキー・スイッチで切り替えることができます。演奏における指板のポジション調整もできるようになっており、柔らかくメロウなトーンを作るには指板を押さえるポジションをLow Stringに、より明るく鮮やかなサウンドを作るにはポジションをHigh Stringに設定します。Smartに設定すれば、本物のバイオリニストと同じように、演奏されるノートに一番近い指板位置が適切に設定されるようです。インストゥルメントは、ステレオ・バージョンとマルチマイク・バージョンがあり、CPU負荷を考慮しながら使い分けることができます。
そのほか、複数のオーケストラ楽器のサンプルをレイヤーし、モーション・サウンドを生成するArkhi、打鍵機構を改造した独特のサウンドを奏でるプリペアド・ピアノ音源のNoire、マレット音源とシーケンス機能とエフェクトを組み合わせ、幻想的なマレット・サウンドを奏でるMallet Flux、ミステリアスなボーカル&コーラス音源Mysteria、グラニュラー技術を用いたサウンドスケープ音源Straylight、同じくグラニュラー技術を用いたボーカル&コーラス音源Pharlightなど、今すぐにでもたくさんのストック楽曲が作れそうなくらいの音源が収録されているKomplete13。日ごろからさまざまなリクエストに応え、たくさんの曲を作らなければいけない劇伴作家、アレンジャー、サウンド・クリエイターには、このサウンド・パレットは心強い味方となってくれるでしょう。
牧戸太郎
【Profile】三重県出身の作編曲家。東京音楽大学を卒業後に作編曲家として活動を開始し、ドラマや映画音楽などの劇伴のほか、竹内まりや、Hey!Say!Jump、つるの剛士などの編曲を手掛けている。
NATIVE INSTRUMENTS Komplete 13 Ultimate Collector's Edition
186,182円

REQUIREMENTS ▪Mac:macOS 10.14または10.15 ▪Windows:Windows 10 ▪共通:INTEL Core I5または同等のAMD 製プロセッサー、4GB のRAM(6GB 以上を推奨)、30GB の空きディスク容量(フル・インストールには1,150GB 必要)、OpenGL 2.1 以降に対応するグラフィック・ボード
製品情報
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