Deliaはバーチャル・アナログ・オシレーターとアナログ・フィルター搭載の49鍵ポリフォニック・シンセサイザー。その特長はサウンドだけでなく、同社のアナログ・シンセNinaに採用されたアーキテクチャーを継承&発展させたモータライズド・コントロール・パネルによる、パッチの自動リコールなどのハンドリングにもあるとのこと。詳しく見ていこう。
アナログライクなベースからFM風の音まで作成可
まずは出音の第一印象から。ソリッドでシルキーなオシレーターと、非常にコントロールしやすいオーバードライブ用ノブ搭載のアナログ・フィルターを通した音は、バーチャル・アナログ・シンセにありがちな派手なものではなく、安定感があり、落ち着きの中に凶暴な倍音変化の可能性を感じさせる。トップ・パネル左上のLCDを見ながらプリセットを切り替えサウンドを聴いていくと、04(JUPITER STRINGS)、26(POLYMOD PAD)、55(CS BRASS)のようにクラシカルなアナログ・シンセ・サウンドや、13(DEEP HOUSE)、25(BASS DRIVER)などの荒々しいベース・サウンドに加え、06(PERCUSSIVE FM)や48(ELEGANT BELLS)といったアタックが強調されたFM風のサウンドも得意のようだ。
4オシレーターやアナログLPFを搭載
というわけで、オシレーター・セクションをチェックしていく。2つのアナログ・モデリングVCO(ノコギリ波/三角波/パルス波/矩形波)のうち、OSC1はサブオシレーターを追加でき、OSC2はハード・シンクに対応する。OSC3はインポート可能なウェーブテーブル・オシレーターで、ウェーブテーブルを選択する際にディスプレイで“この波形はどう変化するものか”がプレビューできるのが便利。“すべてのウェーブテーブル・シンセがこの仕様でいいのでは?”と思った。OSC4はノイズ(ホワイト/ピンク)、XOR(VCO1と2のリング・モジュレーション)、外部入力だ。
フィルターは、ディスクリート・トランジスター仕様でローパス/ラダー式のアナログ・フィルター、そしてハイパス/ラダー式のバーチャル・アナログ・フィルターの2セクション。12/24dBを選択可能なスロープ、ハイパス/ローパスそれぞれで個別にコントロールできるレゾナンスなど音作りの自由度が高く、LINKキーでハイパス・フィルター/ローパス・フィルターのカットオフ周波数を固定してノブ1つでコントロールできるため、バンドパス・フィルターのように扱える。そしてオシレーターのミキサーとフィルターの間にオーバードライブのDRIVEノブが配置され、この回路で倍音を付加したオシレーター・サウンドをフィルターで処理する。DRIVEノブは12時のときにオーバードライブなし、右に回せばオーバードライブが有効に、左に回せば入力信号のヘッドルームを確保する意味でクリーンな音色になるように設計されている。この辺りが、クリーンなサウンドから凶暴な倍音まで幅広い音作りが可能な理由だろう。
トップ・パネルはそのほか、3基のLFOセクション、エンベロープ・ジェネレーター・セクション(ADSR)、鍵盤上に配置された各種メニュー・キー、後述のエフェクト・セクションやMORPHセクションなどで構成される。
音作りが視覚的に分かりやすいMODモード
冒頭でも述べた通り、ノブ類が自動でリコールされることによるメリットは計り知れない。MODモードでは、モジュレーション・マトリクスをLCDで一望できる上に、LCD下のMODボタン1発で各ノブがモジュレーションの深さを指し示すように切り替わり、そのときモジュレーションのかかっていないパラメーターのノブは12時の方向を指す。これはほぼすべてのモジュレーション・ソースが双極性でかかり具合にプラスとマイナスがあるので、±0の意味で12時の方向を指すのだ。各ノブが一瞬で切り替わる様は壮観であり、単純明快だ。このMODモードと演奏モードを行ったり来たりしながらサウンド・デザインを進めていくのだが、動作に慣れてくると非常に敏速に目的のパラメーターにたどり着ける上に、音色の全ぼうがつかみやすく、“教育用にも適しているのでは?”と思った。
ここからは、特筆すべき機能を抜粋していこう。ユニゾンやグライドなどの設定ができるPATCHメニューでは、“ステレオ超えパンニング”と言えそうな機能がある。これにより、通常の左右のパンニングを飛び越えて、ボイスごとに360°でコントロールしているかのようなパンの設定が可能になる。プリセット・サウンドを聴いているときに、“この音の広がりはエフェクトによるもの?”と驚いたサウンドがあったし、豊富なパン・モードが搭載され、モジュレーションも設定可能。このステレオ超えパンニングの自動回転の設定ができるSPINという機能も搭載されている。
劇的なサウンドの変化を可能にするMORPH機能
さらにとても使い勝手が良いと感じたのが、MORPH機能だ。サウンド・デザイン中に気に入った音ができたら、MORPHセクションにあるA/Bキーを押して一時的に音色をスナップ。それを過激にエディットした後にPOSITIONノブを動かすことで、スナップされた元の音色とエディット後の音色の間をモーフィングできるのだ。同じような機能を持つシンセサイザーは過去に幾つも見てきたが、これほどまでに使いやすい仕様はあまりなく、さらに各パラメーターのノブがPOSITIONノブと同時にモーターで動く様子はDeliaならではなのかもしれない。
デジタル・エフェクトは2系統で、コーラス、ディレイ、リバーブと基本的なスペックだが、直列/並列を選択できるので非常に幅のある音作りが可能だ。特に気に入ったのはリバーブのShimmerというパラメーター。残響の雰囲気を一変させることができ、お薦めだ。
モーター駆動ノブ搭載のボディに、ウェーブテーブルを含むオシレーターやオーバードライブ付きアナログ・フィルターなどを備え、スロット無制限のモジュレーションを可能にしたDelia。アナログ・オシレーター風の繊細な“にじみ”や過激な倍音など、静と動の両面を持つサウンド・デザイン・ポリシーに触れ、時間を忘れ音作りに没頭してしまった。
筆者の個人的な音楽制作においては、やはり劇的にサウンドを変化させるMORPH機能による、パッチ・モーフィングが大きなアドバンテージになると感じた。また、音質については内蔵リバーブのShimmerを活用したパッド・サウンドなどが実に味わい深く、ソフト・シンセではなかなか得ることができない空気感が魅力的に思えた。あえて本機をデジタルっぽさ満載のソフト・シンセと混ぜて使うことで、大変気持の良い空気感を作ることもできた。そういった数々の魅力に加えて、ファームウェア・アップデートなどを通してこれからさらに機能が改良されていきそうなところも本機の強みの1つだと言えるだろう。今後にも期待したい。
深澤秀行
【Profile】シンセサイザー・プログラマー/作編曲家。アニメ、ゲームのサントラ、作品のリミックスなど幅広く手掛ける一方、“やのとあがつま”やモジュラー・シンセ・ユニット“電子海面”でも活動している。
MELBOURNE INSTRUMENTS Delia
オープン・プライス
(市場予想価格:419,980円前後)
SPECIFICATIONS
▪ボイス:6 ▪鍵盤:49鍵(ベロシティ&タッチ・センシティブ・キーボード) ▪オシレーター:4基(OSC1/2:ノコギリ波、パルス波、三角波、矩形波、OSC3:ウェーブテーブル、OSC4:ホワイト/ピンク・ノイズ、XOR、外部入力) ▪フィルター:ローパス、ハイパス(リンク可能) ▪エンベロープ・ジェネレーター:3基(ADSR) ▪LFO:3基 ▪内蔵エフェクト:コーラス、ディレイ、リバーブ2系統 ▪外形寸法:810(W)×140(H)×320(D)mm ▪重量:8.7kg