今回は巣鴨に本社を置く音響機器メーカーJR SOUNDのマイクプリ、HA-202 IIをレビューします。筆者はJR SOUNDという名前こそ知っていたものの、製品の使用経験はありませんでした。円安や部品不足などの影響で海外製品の価格高騰が止まらない昨今、ちょうど国内メーカーの良質な機材を見つけられたらなと思っていたところ。興味深く試させていただきました。
伝統的なマイクプリ・サウンドを踏襲しつつ低ノイズ化を図った現代的な設計
同社のマイクプリは2ch構成のHA-202 II、4ch構成のHA-404 IIがあり、チャンネル数以外の筐体部分は共通となっています。前モデルから電源部分などパーツの見直しやアップデートが施されたとのことです。ボディは1Uですが奥行きは割とあり、4.8kgとそれなりの重量。もちろん運搬上は軽いに越したことはないのですが、やはり音質面を考えるとある程度重量のある機材のほうが信頼感がありますので、個人的にはむしろ好印象でした。HA-404 IIであれば1Uで4chも使用でき、運搬上の大きなメリットになるでしょう。
全体としてはシンプルなマルチチャンネルのマイクプリで、1chごとに12段階切替のインプット・ゲイン(16dB~70dB)とPADスイッチ(−20dB)、位相切り替えスイッチ、連続可変のハイパス・フィルター、同じく連続可変のゲイン・トリム(0〜−10dB)、ファンタム電源スイッチ、LED式のVUメーターを備えています。すべて前面にまとまっているので操作もしやすいです。
内部の回路や部品も見てみました。特徴的なのは、数々の名機に搭載されてきたスウェーデンのLUNDAHL製インプット・トランスが採用されていることでしょう。アウトプットにはオリジナルのトランスを搭載し、電源回路はフル・ディスクリートとなっています。そのほかの部分も含め、音の太さと繊細さを兼ね備えた伝統的なマイクプリのサウンドを踏襲しつつ、現代的に低ノイズ化を図っている構造だと感じました。部品類をざっと見るだけでも、妥協している要素が少しもなく、価格を考えると“果たして利益があるのか”と心配してしまうレベルです。
実際にボーカルやアコースティック・ギター、エレキギター、チェロなどの録音でHA-202 IIを使い、ビンテージや最近のものを含む複数のマイクプリと比較試聴してみました。限られたテスト対象ではあったものの、個人的には驚きの結果で、NEVEやAPIといった超王道機材たちと非常に近いサウンドだと感じます。音色の印象としては中域にフォーカスしたサウンドですが、 決して低域も弱くなく高域もスムーズに伸びていて、現代の機材らしくレンジ感、音像バランスに優れています。特にギターのサウンドは音楽的にうまくまとめてくれつつ、楽器の鳴りのバランスもしっかり表現できる印象。チェロなどのアコースティック楽器でも暴れる部分がまとまり良くなり、音像のバランス感も両立した録音ができました。
高域の質感調整にも役立つ 積極的に活用できるハイパス・フィルター
搭載しているハイパス・フィルターも非常に自然なサウンドです。私は音の位相感にやや神経質なところがあり、そもそも録音段階ではフィルターをオンにしないマイクプリなどもあったりするのですが、HA-202 IIのフィルターは積極的に使用できます。微調整で使用しても、思い切ってかけても、しっかりと使える音になってくれるでしょう。
HA-202 IIは低域をかなりしっかりと捉えるようで、それによって高域のサウンドがやや暗めに感じる傾向になっている気がしました。この低域をハイパス・フィルターで少し抑えることでまとまりが良くなり、高域の質感や全体のバランスもNEVEなどの持つサウンドにより近い印象になります。また、高性能なマイクとの組み合わせでは少しルーム・ノイズの低域が多めに拾われたりもしましたが、こちらもハイパス・フィルターで問題なく制御可能でした。
今回ドラムで試すことができなかったのが残念ですが、ギターなどを聴く限り、インプットを少しドライブしたときのマットに音がまとまる感じが良く、ドラムにも適している可能性は高そうです。SN比も非常に優れているので、ストリングスなど小さい音量の楽器の録音にも向いていると思います。
HA-202 IIのレビュー依頼を受けた際、その価格からクオリティに対して一瞬懐疑的になってしまいました。しかし、そんな自分を恥じたいようなうれしい結果です。プロのエンジニアが自身の機材ラインナップに加える価値がありますし、不得意分野がなさそうな王道のサウンドを持っていると思います。私自身も今回テストできなかった楽器などで、あらためてテストしてポテンシャルをより深く探ってみたいと思っているところです。
冒頭でも書いたとおりですが、“最近機材が高すぎて買えないよ!”という人が増えていると思います。“日本国内にもJR SOUNDというブランドがあって、素晴らしい製品を手の届きやすい価格で提供してくれている”ということを、ぜひ知ってもらいたいです。
檜谷瞬六
【Profile】prime sound studio formやstudio MSRを経て、フリーランスで活動するレコーディング/ミキシング・エンジニア。ジャズを中心にアコースティック録音の名手として知られる。
JR SOUND HA-202 II
242,000円
SPECIFICATIONS
▪入出力:XLR入力端子×2、XLR出力端子×2 ▪周波数特性:20Hz〜20kHz±1dB ▪ひずみ率:0.015% +4dB ▪ノイズ・レベル:−126dB ▪外形寸法:482(W)×44(H)×330(D)mm(突起含まず) ▪重量:4.8kg