GENELEC 8010ARW レビュー:定番スタジオ・モニター・シリーズ最小型モデルのRAWフィニッシュ・タイプ

GENELEC 8010ARW レビュー:定番スタジオ・モニター・シリーズ最小型モデルのRAWフィニッシュ・タイプ

 GENELECは北欧フィンランドを拠点とするモニター・スピーカーのブランド。1978年の創業当初からアクティブ・タイプのモニター・スピーカーを開発しており、スタジオへの普及に大きく貢献しました。1990年代には、同社の1031Aは日本のどこのスタジオに行っても置いてあるくらい定番化していて、パリッと前に出るサウンドはアクティブ・タイプの代表格となりました。近年は曲線を用いたデザインのアルミ製エンクロージャーのモデルをリリースしていて、筆者もスタジオで使用したことがあります。今回レビューする8010ARWは、デスクトップ・サイズの小型機8010Aの新色としてラインナップされたもの。この大きさでもGENELECサウンドは健在なのか気になるところです。

3インチのウーファーと3/4インチのツィーター搭載 25WクラスDのアンプでドライブ

 8010ARWは、同社のシリーズの中で最もコンパクトなデスクトップ・サイズのアクティブ・モニター・スピーカー。付属のスタンド、Iso-Podを含んだサイズが121(W)×195(H)×115(D)mm、重量が1本1.5kgと、かなり軽量なモデルです。このサイズに3インチのウーファー、3/4インチのツイーターが搭載されており、それぞれ25WクラスDのアンプでドライブされます。アルミ製のエンクロージャーにより、振動の少ない構造かつ壁を薄く作ることができるので、容積にゆとりをもたらし、小型でありながら最大限のパワーを発揮できるとのこと。また本機はボディに塗装を施していないRAWフィニッシュ・モデルとなっており、アルミ本来の色味を生かした風合いに。こちらはデザイン性だけでなく、環境にも配慮された作りとなっています。

 周波数特性は67Hz~25kHz、音圧レベルは96dB。背面のディップ・スイッチで3段階の低音減衰と、卓上に置いたときにボヤつきを感じやすい200Hz周辺の減衰、−10dBの感度コントロールが行えます。また、デフォルトでは音声信号が入力されると電源オン、しばらく信号がないと自動的に節電状態になるスタンバイ・モード機能が備わっています。

背面には、スタンバイ・モードの切り替えと音響環境に合わせて周波数特性を調整できるディップ・スイッチ、電源ボタン、赤枠部分にオーディオ入力(XLR)を備える

背面には、スタンバイ・モードの切り替えと音響環境に合わせて周波数特性を調整できるディップ・スイッチ、電源ボタン、赤枠部分にオーディオ入力(XLR)を備える

 接続端子はXLRアナログのみ。RCAアナログ入力が使いたい場合は、入力端子以外ほぼ同スペックのG Oneというモデルがラインナップされているので、そちらを選ぶとよいでしょう。卓上に設置する際には、ゴムに似た特殊素材のインシュレーター的な付属スタンド、Iso-Podで±15°の角度調整が可能なので、理想のモニタリングを実現できます。また、底面にマイク・スタンド用のネジが切ってあり、スタンドに直接マウントすることもできます。それ以外にも、ウォール・マウントやVESAマウントなど、豊富なオプションが取りそろえてあり、設置の自由度はかなり高いです。

インテリア的にも洗練された筐体 アルミ製により中高域の解像度の高さを実現

 それでは実際に使ってみましょう。箱を開けてまず思ったのがデザインの良さ! こちらはフィンランドを代表する工業デザイナー、ハッリ・コスキネンと共同開発されたデザインとのこと。アルミむき出しのデザインも相まって、ミニマルな部屋でもインテリア性を損なわないオシャレなスピーカーです。同じようなサイズ感のものだと、ちょっと高級なコンピューター用スピーカーみたいなものばかりなので、デザインで選ぶならこれ一択な感じがありますね。

 肝心の音の方ですが、どのようなソースで再生しても、サイズを感じさせない自然さと解像度の高さがありました。往年のGENELECサウンド=中高域がパリッとした派手なサウンドをほうふつさせ、弦楽器のアタックのザクザクしたところも聴こえます。恐らくこれは、エンクロージャーがアルミ製だからだと思うのですが、中域から高域にかけての解像度の高さは、このサイズのスピーカーでは聴いたことがありません。樹脂製のモデルだと音がにじむ印象が強いのですが、本機ではシンバルの打点がしっかり見えるくらいピントの合った音がします。

 スペックにある通り63Hz以下の低音は再生されませんが、無理をして出そうとしていない感じがとても好感を持てます。同機と同じくらいの卓上サイズのスピーカーでも、低音を誇張して再生しているモデルがありますが、1980年代にあった一部の重低音ラジカセのように、脚色され過ぎて音が分かりにくいことが多いのです。もし低域の音を補完したい場合は、GENELECのサブウーファーを接続することで可能となります。63Hz以下の低音が出ないと言っても、重低音が強く入っている楽曲でなければ問題なくモニターできますし、小さい音量でもしっかり鳴ってくれるので、大きな音を出せない住環境下で作業しているクリエイターにもオススメできます。低音は薄い壁を貫通してしまうので、サブウーファーとセットで使うことで低音を適宜オン/オフできるのは、最初から低音が鳴るスピーカーより日常生活では使いやすいと思います。

 8010ARWは、中高域にフォーカスされており、ベーシックな性能の高さがあります。普段、大型のモニター・スピーカーを使用している方は、低音が鳴らないスマートフォンなどで再生した際に、ミックスのバランスが崩れないか判断しにくいと思います。そのような場合に、低域より上の帯域で過不足なく再生され解像度も高い本機は、チェック用途で便利に使えるのではないでしょうか。また、重量も軽くフレキシブルに設置できるので、サラウンド環境の構築に二の足を踏んでいる方には、導入の敷居が大幅に下がるモデルだと言えるでしょう。

 

中村公輔
【Profile】neinaの一員としてドイツの名門Mille Plateauxなどから作品発表。以降KangarooPawとしてソロ活動を行い、近年は折坂悠太、宇宙ネコ子、大石晴子らのエンジニアリングで知られる。

 

GENELEC 8010ARW

オープン・プライス

(市場予想価格46,200円前後/1台)

GENELEC 8010ARW

SPECIFICATIONS
▪最大音圧:96dB SPL ▪周波数特性:63Hz〜25kHz(−6dB) ▪アンプ出力:25W+25W(クラスD) ▪ユニット構成:76mmウーファー+19mmツィーター ▪外形寸法:121(W)×195(H)×115(D)mm(Iso-Pod含む) ▪重量:1.5kg

製品情報

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