FERROFISH PULSE8 AE レビュー:アナログ8系統+ADAT2系統の入出力を備えた小型AD/DAコンバーター

FERROFISH PULSE8 AE レビュー:アナログ8系統+ADAT2系統の入出力を備えた小型AD/DAコンバーター

 FERROFISHは多チャンネル対応のAD/DAコンバーターなどを展開するドイツのメーカー。今回は同社で最もコンパクトなAD/DAコンバーター、PULSE8 AEを試させていただきました。

“小ささ”が光るハードウェア。DSPスロットによって将来的な機能拡張が可能

 結論から言うと、コンパクトなハーフ・ラック・サイズでありながら豊富な入出力を搭載し、細かい設定変更が可能な優秀なコンバーターです。音質も非常に頼りになる質感。特に収録現場やライブ現場など、機材の持ち込みが必要なシチュエーションで有用なデバイスだと感じます。また、ハーフ・ラック・サイズで最高32ビット(ADAT使用時は24ビット)/192kHzまで対応でき、8イン/8アウトのアナログ入出力を搭載したAD/DAコンバーターというのは現在選択肢が少なく、スペースの限られる個人スタジオなどでも追加I/Oとして有力な選択肢になりそうだと感じます。

 手に取ってまず感じるのが、ハーフ・ラックならではの“小ささ”と、ハードウェアとしてのしっかりした安心感です。ボタンのガタツキなどもなく、ロータリーやボタンの質感には安心感があり、また液晶も非常に見やすくできています。背面の入出力はADAT入出力2系統、TRSバランス入出力8系統、ワードクロック入出力、MIDI入出力(TRSミニ)、さらにユーティリティ管理用のUSB-C端子(オーディオ・インターフェース機能はありません)、将来的な機能拡張が可能なDSPスロットと、ハーフ・ラック・サイズに所狭しと端子が付けられています。ADATが2系統あることで、96kHzで動作させた際もS/MUX接続で8chの入出力が使えるのがうれしいですね。DSPスロットの対応製品はまだリリースされていませんが、今後の機能追加がどうなるのか楽しみです。

リア・パネル。左の上段からワード・クロック入力端子(BNC)、ADAT2入出力(TOSLINK)、MIDI入出力(TRSミニ)、ワード・クロック出力端子(BNC)。左の下段は電源端子、USB-C端子、DSP STICKスロット、ADAT1入出力(TOSLINK)。右側にはライン入出力(TRSフォーン)×8系統がある

リア・パネル。左の上段からワード・クロック入力端子(BNC)、ADAT2入出力(TOSLINK)、MIDI入出力(TRSミニ)、ワード・クロック出力端子(BNC)。左の下段は電源端子、USB-C端子、DSP STICKスロット、ADAT1入出力(TOSLINK)。右側にはライン入出力(TRSフォーン)×8系統がある

 電源を入れ、まずはシンプルにADATのみを接続してみました。すると自動でADATからクロックを検出し、再生したらすぐに音が出ます。特に迷うことなく、最初の音が出てくれるのがうれしいです。入出力共に音は癖がなくフラットで、特にハイファイできめ細やかな高域の質感が好印象。スタジオ収録やライブのマニピュレートなどでも十二分に耐えられる、高音質なコンバーターという印象です。また、設定でAD/DAのフィルター設定を変えられるのもうれしいところ。主にミニマム・フェイズ系とリニア・フェイズ系の切り替えが可能で、好みに合わせてAD/DAの音質自体をカスタマイズできます。このフィルター設定はアナログI/Oだけでなく、ヘッドホン出力にも有効。ヘッドホン出力も良好で、昨今の大口径ドライバーの高級ヘッドホンでもちゃんと鳴らしてくれました。

上位機種と同様に温度補償型水晶発振器を搭載。ユーティリティ・ソフトでリモート調整も可能

 ここで、試しにクロックをPULSE8 AEのインターナルに切り替えてみたところ、単体機に匹敵するインターナル・クロックの優秀さにも驚きました。FERROFISHの上位コンバーターPULSE16 DXやA32pro Danteなどは非常に優秀なクロックを搭載していますが、本機PULSE8 AEもTCXO(温度補償型水晶発振器)を搭載しているようです。

FERROFISHの上位コンバーターPULSE16シリーズの最新機種PULSE16 DX。最高24ビット/192kHzに対応し、アナログ入出力を16系統搭載。4系統のADATとMIDI入出力に加え、SFPモジュール対応のMADIインターフェースを搭載し、異なるMADI規格(シングル・モード/コアキシャル)も提供。64×64chのDanteインターフェース×2(プライマリー/セカンダリー)もあり、ネットワークに接続することが可能

FERROFISHの上位コンバーターPULSE16シリーズの最新機種PULSE16 DX。最高24ビット/192kHzに対応し、アナログ入出力を16系統搭載。4系統のADATとMIDI入出力に加え、SFPモジュール対応のMADIインターフェースを搭載し、異なるMADI規格(シングル・モード/コアキシャル)も提供。64×64chのDanteインターフェース×2(プライマリー/セカンダリー)もあり、ネットワークに接続することが可能

FERROFISHの上位コンバーターA32proシリーズの最新機種A32pro Dante。最高32ビット/192kHzに対応し、32chのアナログ入出力に加え、ステレオ・メイン・アウト、ADAT入出力×4系統、MADI入出力(SFPモジュール)、Dante×2系統(プライマリー/セカンダリー)を装備する。2つの電源アダプターによって、故障時には中断することなく切り替えることができる

FERROFISHの上位コンバーターA32proシリーズの最新機種A32pro Dante。最高32ビット/192kHzに対応し、32chのアナログ入出力に加え、ステレオ・メイン・アウト、ADAT入出力×4系統、MADI入出力(SFPモジュール)、Dante×2系統(プライマリー/セカンダリー)を装備する。2つの電源アダプターによって、故障時には中断することなく切り替えることができる

 小規模なシステムであれば、マスター・クロックとして十分です。例えば、本機+オーディオ・インターフェースといった小規模な環境で使用する場合は、マスター・クロックの第一選択肢として本機の使用を検討するのもよいかもしれません。

 続いて、各種設定を見ていきましょう。PULSE8 AEはシンプルなコンバーターでありながら、かゆいところに手が届く細かな設定が可能です。例えば、前述のフィルター設定。フィルターを変えると特に高域の応答とトランジェント特性が変わり、好みに合わせた出音の調整ができます。小型ながらも見やすい液晶で、アナログI/Oの各チャンネルのゲインやパッチングも調整可能です。ゲイン調整や上位機種には搭載されていなかった1ch単位でのパッチングも非常に柔軟な設定が可能で、チャンネルのグループ機能などもあります。なお、入出力のパッチングをはじめとした各種設定は本体のボタン類と液晶でも可能ですが、Mac/WindowsとUSB接続をすることで、より見やすいGUIで操作することも可能です。本機レビュー時点ではユーティリティ・ソフトが公開されておらず試せませんでしたが、近日対応予定とのことで、より便利に設定を追い込む手段が用意されていると思われます。

 本機はコンパクトな筐体にこれでもかと機能を詰め込んだ、小型で多機能、かつ高性能なAD/DAコンバーターです。この価格帯で、8系統のI/Oと高品質なAD/DAコンバーターを両立した製品があまりないので、特にライブのマニピュレーターや出張収録の現場など、多チャンネルの入出力を持ち歩きたい用途に非常に向いていると感じました。また、小さな自宅スタジオなどで音楽制作をしている方の追加I/Oとしても、有力な選択肢になると思います。PULSE8 AE、小さな筐体に多くの可能性を感じる製品ですね。

 

かごめP
【Profile】レコーディング・スタジオで働くかたわら、2009年にボカロPとして活動を開始。現在、ボカロPとしての活動以外にも、さまざまなアーティストのミックス/エンジニアリングを手掛ている。

 

 

 

FERROFISH PULSE8 AE

オープン・プライス

(市場予想価格:97,900円前後)

FERROFISH PULSE8 AE

SPECIFICATIONS
▪入出力数:8イン/8アウト(TRSフォーン)、最大16イン/16アウト(ADAT)、ヘッドホン・アウト(ステレオ・フォーン) ▪外形寸法:220(W)×44(H)×135(D)mm ▪重量:1kg

製品情報

関連記事