FABFILTER Pro-Q 4 レビュー! 追加機能で操作性や処理精度が向上

FABFILTER Pro-Q 4 レビュー:追加機能で操作性や処理精度が向上したプラグインEQの最新バージョン

 2004年にオランダのアムステルダムで設立され、直感的なGUIと高精度なサウンドで音楽制作からミックス、マスタリングまで対応するプラグインが幅広い支持を得ているFABFILTER。同社のプラグインEQのPro-Qが、新バージョンPro-Q 4にアップデートされました。実に5年ぶり、待望のメジャー・アップデートです。早速見ていきましょう。

任意の周波数帯域をピンポイントで処理できるSpectral Dynamicsモードを新搭載

 Pro-Q 4はMac/Windowsに対応し、AAX Native、AU、AudioSuite、CLAP、VST2&3のプラグインとして動作します。新しく追加された主な機能やアップデートの内容は、ざっくりと以下の通りです。

●ダイナミックEQの強化と、Spectral Dynamicsモードの追加

●Instance List機能の追加

●EQ Sketch機能の追加(EQカーブを手書きできる)

●キャラクター・モードの追加(Clean、Subtle、Warmからサウンド・キャラクターを選択可能)

●オールパス・フィルター・シェイプの追加

 ほかにも細かなアップデートがありますが、本稿ではこれら新機能の中から、私が日頃作業する中で利便性や必要性を感じている機能を中心に紹介します。

 まず触れたいのは、最も多用するであろうダイナミックEQのきめ細かな強化です。ダイナミックEQは前バージョンのPro-Q 3で初めて実装された機能で、指定した帯域で一定のレベルを超えたときに反応するEQです。音楽は、時間軸に沿って各音色の周波数が変化し続けます。ダイナミックEQはその変化の中で、目的の帯域を常に処理する(=通常のEQ)のではなく、スレッショルドのレベルを超えたときだけ処理します。今回、その“反応のさせ方”の面が大幅にアップデートされました。

 1つ目はSpectral Dynamicsモードの追加です。

ダイナミックEQに新搭載されたSpectral Dynamicsモード。これまでのダイナミックEQではEQバンドのゲインは信号の入力レベルに依存していたが、Spectral Dynamicsモードでは、帯域全体のゲインを変えず、指定したスレッショルドを超えた特定の周波数のみを処理できる。画面は緑の範囲内の一部のみをEQでカットしているところ(黄色い線がEQカーブ)

ダイナミックEQに新搭載されたSpectral Dynamicsモード。これまでのダイナミックEQではEQバンドのゲインは信号の入力レベルに依存していたが、Spectral Dynamicsモードでは、帯域全体のゲインを変えず、指定したスレッショルドを超えた特定の周波数のみを処理できる。画面は緑の範囲内の一部のみをEQでカットしているところ(黄色い線がEQカーブ)

 これまではEQポイントを選んで上下させてQを調整するのみでしたが、Spectral Dynamicsモードにより、指定したポイントの周波数を非常に細かいスペクトラルで検出してダイナミック処理ができるようになりました。この機能の何が良いかと言うと、“パッと聴きは分からないけれど、しっかり変える”という処理ができること。一般的にEQは“音を変えるためのもの”と思われがちで、それも半分正解ですが、プロ・レベルでは“必要に応じて変えているけれど、変わったように聴こえない”という使い方も重要です。筆者はミックスやマスタリングにおいて、全体の印象を変えずに2ミックスにしたりパッケージに収めたりするために、このモードを多用しています。

 そのほかのダイナミックEQのうれしい追加機能として、アタック・タイムとリリース・タイムを調節できるようになったことや、Free Side-Chain Filteringモードを搭載した点も挙げられます。これまではアタック・タイムとリリース・タイムは固定でしたが、今回のアップデートで調整が可能になり、ダイナミックEQを多用したときの音の濁りも解消できるようになりました。また、Free Side-Chain Filteringモードによって、EQポイントとは別にダイナミック処理のトリガーになる周波数帯域を選択できるようになりました(非Spectral Dynamicsモード時のみ)。ボーカルの周波数帯域をトリガーにしてシンセの中低域を抑えるなど、よりフレキシブルな処理が可能です。

複数のインスタンスを1つの画面で編集可能に 直感的にEQカーブを生成できるEQ Sketch機能も

 次のトピックは、セッション内のほかのPro-Q 4インスタンスを1つのインターフェースで制御できるInstance List機能です。2トラック間の比較ができる機能は先代にもありましたが、今回からマルチトラック表示に対応してより見やすくなり、かつ直接編集もできるなど大きく進化しました。全体の中で周波数が集中する帯域を赤く表示するコリジョン機能と組み合わせれば、音色ごとに周波数のかぶりを簡単に整理できます。

Instance List機能が搭載されたことにより、1つの画面でプロジェクト内のPro-Q 4を確認、編集できるようになった。周波数が集中する帯域を赤く示すコリジョン機能と併用すれば、各パートの周波数を効率良く調整していけるのが便利

Instance List機能が搭載されたことにより、1つの画面でプロジェクト内のPro-Q 4を確認、編集できるようになった。周波数が集中する帯域を赤く示すコリジョン機能と併用すれば、各パートの周波数を効率良く調整していけるのが便利

 こういった“超便利機能”に対しては、実は私は少し懐疑的なスタンスで、最初は“どうなんだろう? 実務に必要?”くらいに思っていました。しかし実際に使ってみると、アップデートの内容がいずれも“見やすくエディットしやすいように”に全振りされて非常に便利。周波数帯域における音像の問題点が見つけやすいのです。

 最後のトピックは、EQ Sketch機能の一環で、EQのポイントを追加するときに画面の両端寄りをクリックするとローパス/ハイパス・フィルター、それより少し内側をクリックするとシェルビング、中央寄りをクリックするとベルに半自動で切り替えられるようになった点です。EQカーブの選択は作業の中で何回も繰り返すことなので、非常に助かります。

 今回は、筆者自身Pro-Q 4に少しずつ慣れている状況の中、現時点で便利に感じている新機能を紹介しました。Pro-Q 4は先代と比較して、視覚情報や処理の自由度の面で少しだけ足りなかった項目が細かく補完された印象です。新機能の恩恵により、素早くイメージ通りに音を処理できるように進化しています。音自体は前バージョンから変わらず良い上に、加えて、より詳細で的確な処理が可能になったことで、音楽全体の仕上がりがより良いものになったと感じています。これって、とても大切なことですよね。

 

SUI
【Profile】サウンド・クリエイター。近作はWATWINGへの楽曲提供&日本武道館公演Blu-rayのエンジニアリング、Netflix映画『シティーハンター』の劇中曲「FOOTSTEPS」のカバー・アレンジなど。

 

 

 

FABFILTER Pro-Q 4

通常版:33,000円、アップグレード版:14,850円、エデュケーション版:23,100円

FABFILTER Pro-Q 4

REQUIREMENTS
▪Mac:macOS 10.13以降(64ビットのみ)、IntelまたはApple Siliconプロセッサー
▪Windows:Windows Vista(32ビット、64ビット)/7/8/10/11
▪対応フォーマット:AAX Native、AU、AudioSuite、CLAP、VST2、VST3

製品情報

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