BEHRINGER Pro-800 レビュー:2VCOでユーロラック規格にも対応する8ボイスのアナログ・ポリシンセ

BEHRINGER Pro-800 レビュー:2VCOでユーロラック規格にも対応する8ボイスのアナログ・ポリシンセ

 BEHRINGERから、往年のSEQUENTIAL Prophet-600をベースに、現代のミュージック・プロダクションにマッチするようリアレンジしたという8ボイスのアナログ・ポリシンセ、Pro-800が発売されました。

コンパクトですぐに手が届くサイズ感 SEに有効なノイズ・ジェネレーターを搭載

 Pro-800はデスクトップ・タイプのシンセで、MIDIキーボードやDAWなどとMIDI/USB接続して演奏可能です。またユーロラック・フォーマットに準拠しており、モジュラー・シンセと接続するSYNC IN、FILTER CV IN、AUDIO OUTの各1/8インチ端子を備えています。

フロント・パネル右上の各種端子。左から、SYNC IN、FILTER CV IN(以上、モノラル・ミニ)、ヘッドホン出力(ステレオ・ミニ)、AUDIO OUT(モノラル・ミニ)、MIDI IN

フロント・パネル右上の各種端子。左から、SYNC IN、FILTER CV IN(以上、モノラル・ミニ)、ヘッドホン出力(ステレオ・ミニ)、AUDIO OUT(モノラル・ミニ)、MIDI IN

 ユーロラック準拠ということもあり、デスクトップ・シンセとしては小さめ。パネルもすっきりとまとまってコンパクトな印象です。ライブやスタジオでの制作時、“この音が欲しい”と思ったときに、すぐに手が伸びる位置に機材を用意しておきたい自分としては、とてもありがたいサイズ感です。

 では音作りで使用する機能を見ていきましょう。オシレーターはA/Bの2基で、ノコギリ波/三角波/パルス波の3種類の各波形を、スイッチのオン/オフで選択可能。

フロント・パネル中央部分。各セクションは上から、OSCILLATOR A、OSCILLATOR B、モジュレーションのPOLY-MOD、LFO-MOD、右下にノイズ・ジェネレーターのNOISEとポルタメント調節のGLIDEを備える

フロント・パネル中央部分。各セクションは上から、OSCILLATOR A、OSCILLATOR B、モジュレーションのPOLY-MOD、LFO-MOD、右下にノイズ・ジェネレーターのNOISEとポルタメント調節のGLIDEを備える

 FREQUENCY、PULSE WIDTHなどのツマミと合わせて音色を作ります。またパネル上での調節以外に追加パラメーターも用意されており、パネル左の“PERF”からアクセス可能です。

フロント・パネルの各種スイッチで、左上から2番目がPERF。1回押してから0~9のいずれかのボタン(メイン写真左側を参照)を押すと、そのボタンに割り当てられたパラメーター(例えば5はピッチ・ベンド範囲)にアクセスできる。また、パラメーターはVALUEノブで調整可能

フロント・パネルの各種スイッチで、左上から2番目がPERF。1回押してから0~9のいずれかのボタン(メイン写真左側を参照)を押すと、そのボタンに割り当てられたパラメーター(例えば5はピッチ・ベンド範囲)にアクセスできる。また、パラメーターはVALUEノブで調整可能

 例えば、初期設定ではFREQUENCYのコントロール・モード(周波数範囲)が“オクターブ”にグリッドしていますが、“クロマチック”または“フリー”にも変更できます。クロマチック・モードにして、オシレーターAに対してBを3度や5度上にすれば、ベースのみを演奏した際でも簡易的なコード感を作り出すことができます。

 加えて、参照元となっているProphet-600にはなかったノイズ・ジェネレーターも搭載しています。現代のエレクトロニック・ミュージックではノイズを基にしたSEを使うことが多いため、重宝するのではないでしょうか。

 続いてパネル右のFILTERおよびAMPLIFIERセクション。ADSR、ENVELOPE AMOUNTと過不足ないコントロール端子を備えています。キーボード・トラッキングが選択できるのにも、使い勝手の良さを感じました。

 モジュレーションは、POLY-MODとLFO-MODの2系統。POLY-MODはFREQ A(オシレーターAのFREQUENCY)とFILTER、LFO-MODはFREQ A-B(両オシレーターのFREQUENCY)、PW A-B(両オシレーターのPULSE WIDTH)、FILTERと必要な変調先をしっかり用意。ある程度選択肢が絞られているのは、初心者がモジュレーションを理解していく上でのプラス要素だと感じます。

重厚なパッドなど豊富なプリセットを用意 大半の機能が表に出ていて直感的に音作り可

 次にパネル左のPROGRAMセクションでファクトリー・プリセットを選択し、実際に音を鳴らしてみます。以下は一例。

●A-15:楽曲の要となるフレーズに向いたシンセ・ブラス。うっすらとリバーブをかけてみるのもよいでしょう。

●A-24:浮遊感のあるアルペジオ。BPM同期したピンポン・ディレイをかけるとクールなフレーズが生み出せそうです。

●A-30:Prophetらしい重厚感のあるパッド。オープン・ボイシングで打ち込んだMIDIを再生しつつ、CUTOFFを開け閉めするだけで楽しいです。

●A-45:POLY-MODでの変調が特徴的なパッド・サウンド。この“Prophet感”が欲しい人は多いんじゃないかな。この音がこの価格で手に入るのは革命的!

 適当に数字を入力して出てきたプリセットを弾いてみましたが、どれも使いやすい音色ばかりでした。店頭でぜひ試してみてください。なお、プリセットはファクトリー・プリセットと合わせて400パッチまで保存可能です。

 また、PERFボタンを2回押せばプリセット・モードからマニュアル・モードに切り替わり、すべてのつまみ情報が反映された状態になります。1から音色を作っていくことになるのですが、音色合成に必要な機能がデスクトップ上にまとめられているので、迷うことなく、遊ぶようにしながらでもさまざまな音色を発見できるでしょう。ボタン1つで切り替えられるので、ライブなどで重宝しそうな機能です。

 1つ惜しいのは、PITCH CV端子がないこと。MIDIはUSB MIDIで十分と思いますが、モジュラー・シンセのシステムに組み込んで使う場合、ほかのモジュールから音程をコントロールすることが前提となるので、PITCH CVがあればもっと用途が広がるのに、と思います。

 ここまでPro-800を見てきて、“シンセとしての基本的な機能を過不足なく備えている”“上記のほとんどの機能に、階層を潜ることなくデスクトップ上からアクセス可能”ということを強く感じました。複雑な機能を備えるシンセだと、1つの操作端子に複数の機能が割り当てられており、液晶を見ながらコントロールすることになるのですが、慣れていないシンセだと“あれ?どうやるんだっけ……”と感覚的なフローが止まってしまうことがあります。その点、主要なコントロール端子がデスクトップ上にある本機だとインスピレーションの赴くままに直感的な音作りを可能にしてくれます。

 音色合成を理解する上でも、階層式のものより圧倒的に有利。価格を鑑みると、ファースト・シンセとして、とてもお薦めしやすいなぁと思います。モノシンセのみを持っている方が、ポリシンセを買い足すのにも良い選択肢かと。特に鍵盤を弾ける方にとってはモノシンセはすぐに物足りなくなると思うので、この価格帯で質の良いポリシンセ、しかも完全アナログが手に入るというのは、朗報ではないでしょうか。

リア・パネル。端子部分は左から、メイン出力(フォーン)、フットスイッチ接続(フォーン)、MIDIチャンネル・セクション(メーカー・ロゴの右に記載する図から1〜16のMIDIチャンネルを設定)、MIDI OUT/THRU、USB-B接続、電源スイッチ

リア・パネル。端子部分は左から、メイン出力(フォーン)、フットスイッチ接続(フォーン)、MIDIチャンネル・セクション(メーカー・ロゴの右に記載する図から1〜16のMIDIチャンネルを設定)、MIDI OUT/THRU、USB-B接続、電源スイッチ

 

Yuichiro Kotani
【Profile】米バークリー音楽大学で学び、近年はAll Day I Dreamなど人気レーベルからディープ・ハウスを発表。2020年よりモジュラー・シンセを導入したライブを始め、昨秋には初の欧州ツアーを成功させる。

 

 

 

BEHRINGER Pro-800

65,800円

BEHRINGER Pro-800

SPECIFICATIONS
▪ボイス数:8 ▪オシレーター:3340タイプ×16(ボイスごとにVCO×2基) ▪LFO:1基(0.08Hz〜20Hz) ▪VCF:1基×4ポール・ローパス(24dB/oct、スロープ) ▪外形寸法:424.4(W)×96.6(H)×135.6(D)mm ▪重量:1.645kg ▪ユーロラックHP:80

製品情報

BEHRINGER Pro-800

関連記事